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第二部 獣人武闘祭

第209話(マリエールの追憶)

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 わたくしは、マリエール・カリクラ。

 父は、獣人界隈きっての豪商として、一代で財を成したジョバンニ・カリクラ。

 わたくしは、同年代の子供たちより遥かに恵まれた環境――人間の成功者たちが暮らす高級住宅街に住み、何不自由ない少女時代を過ごしました。

 わたくしがまだ幼かったころ、獣人全体の立場は今よりもずっと低く、森から町に出た多くの獣人は、不衛生で治安の悪い、獣人街というところで暮らしていました。

 何も知らなかった幼いわたくしは、『どうして皆、あんな汚いところに住んでいるのだろう。わたくしと同じように、綺麗なところに住めばいいのに』と思っていました。

 そして、少しずつ成長するにつれ、獣人が、人間の高級住宅街に住めることは『特別』なことであると気がつき、自分は『特別』な存在なんだと思いあがるようになりました。

 なんて傲慢で、幼稚な小娘だったのでしょう。
 わたくしの態度は、次第に高慢になっていきました。

 父と母は、そんなわたくしを諫めませんでした。
『お前は私たちの宝物だ』と言い、あらん限りの愛情を注いでくれました。
 わたくしは、自分がお姫様か何かにでもなったような気分でした。

 しかしある日、わたくしは知ってしまったのです。

 我が家で召し使いをしている人間たちが、表面上は笑みを浮かべ、『お美しいお嬢様』とわたくしを持ち上げていても、心の内では、わたくしを、いいえ、カリクラ家の者を『獣臭い成金』と呼び、蔑んでいることに。

 純真そのもので、人の心の裏表など、想像もしていなかったわたくしにとって、それは凄まじいショックでした。そして、次に知ることとなったのは、我がカリクラ家が、獣人たちからも酷く嫌われているという事実でした。

 体力はあるが高等な教育を受けておらず、雇用主の意のままに利用しやすい獣人たちを、父ジョバンニは格安の労働力として使い、彼らをはした金で限界まで――いえ、限界を超えてもなお、働かせていたのです。その扱いは、もはや労働者ではなく、『奴隷』以外の何物でもありませんでした。

 そう。

 我がカリクラ家の繁栄は。
 わたくしの『特別』な暮らしは。
 同胞である獣人たちから吸い上げた金と血と涙で作られていたのです。

 わたくしは家を恥じ、父を恥じ、そして、自分を恥じました。父の後を継ぐためにしていた経営者としての勉強も、続ける意味を見出せませんでした。
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