166 / 389
第二部 獣人武闘祭
第166話
しおりを挟む
おっとっと、話が少しそれてしまった。ええと、何の話をしてたんだっけ? そうだ。J1グランプリとかいう武闘大会に出るために、二千ゴールドいるって話だったわね。
「ねえ、盗みなんか働かなくても、あなたの身体能力なら、肉体労働のバイトでもやれば、一ヶ月ほどで二千ゴールドくらい稼げたんじゃないの?」
「一応それも考えたニャ。でも面接で、身分証がどうだの、職歴の空白期間がどうだのネチネチと聞いてきたから、頭にきてテーブルをひっくり返して帰って来たニャ。ついでに壁にも正拳で穴を開けてやったニャ」
「えぇ……ちょっと短気すぎるでしょ……」
「立場的に上にいると思って高圧的な態度をとっていた面接官が、突然暴れ出した僕にビビる顔はなかなか見ものだったニャ」
この子……無邪気で素直な面と、短気で粗暴な面が同居しているような子ね。なんだか、昔のエリスを思い出すわ。ミャオもエリスと同じく、人並み外れて強い力を持っているだけに、誰かがきちんと指導してあげないと、いつか大変なことをしでかす気がする。
いや、実際にはもう、『大変なこと』をしでかしてしまっているのだ。
盗みに入ったのがたまたま私の部屋でなければ、手加減した蹴りでも、人を殺していたかもしれない。たとえ本人に殺意がなくてもだ。それほどに彼女の技は冴えわたっていた。
いったい、誰に指導を受けたのだろう。
その指導者は、彼女に教えなかったのだろうか。武道家の研ぎ澄まされた拳足は凶器であり、みだりに振るってはいけないということを。
「ねえ、ミャオ。あなたは、そのネコカラテを、誰に習ったの?」
「ニャッ。お父上様ニャ」
「そう。お父さんとは、一緒に暮らしているの?」
そう聞いた瞬間、これまで快活そのものだったミャオの顔が、暗く落ち込んだ。
「お父上様は、僕を置いて家を出ていったニャ……」
どうやら、まずいことを聞いてしまったようだ。なんと声をかけていいか分からずに黙っていると、ミャオはプルプルと顔を振り、決意を込めた瞳をこちらに向ける。
「だから、僕はJ1グランプリに出場しなきゃいけないニャ! そして優勝すれば、僕の名前と力は獣人界隈に轟き渡るニャ! そうすれば、きっとお父上様も僕のことを認めて、戻って来てくれるはずニャ!」
「ねえ、盗みなんか働かなくても、あなたの身体能力なら、肉体労働のバイトでもやれば、一ヶ月ほどで二千ゴールドくらい稼げたんじゃないの?」
「一応それも考えたニャ。でも面接で、身分証がどうだの、職歴の空白期間がどうだのネチネチと聞いてきたから、頭にきてテーブルをひっくり返して帰って来たニャ。ついでに壁にも正拳で穴を開けてやったニャ」
「えぇ……ちょっと短気すぎるでしょ……」
「立場的に上にいると思って高圧的な態度をとっていた面接官が、突然暴れ出した僕にビビる顔はなかなか見ものだったニャ」
この子……無邪気で素直な面と、短気で粗暴な面が同居しているような子ね。なんだか、昔のエリスを思い出すわ。ミャオもエリスと同じく、人並み外れて強い力を持っているだけに、誰かがきちんと指導してあげないと、いつか大変なことをしでかす気がする。
いや、実際にはもう、『大変なこと』をしでかしてしまっているのだ。
盗みに入ったのがたまたま私の部屋でなければ、手加減した蹴りでも、人を殺していたかもしれない。たとえ本人に殺意がなくてもだ。それほどに彼女の技は冴えわたっていた。
いったい、誰に指導を受けたのだろう。
その指導者は、彼女に教えなかったのだろうか。武道家の研ぎ澄まされた拳足は凶器であり、みだりに振るってはいけないということを。
「ねえ、ミャオ。あなたは、そのネコカラテを、誰に習ったの?」
「ニャッ。お父上様ニャ」
「そう。お父さんとは、一緒に暮らしているの?」
そう聞いた瞬間、これまで快活そのものだったミャオの顔が、暗く落ち込んだ。
「お父上様は、僕を置いて家を出ていったニャ……」
どうやら、まずいことを聞いてしまったようだ。なんと声をかけていいか分からずに黙っていると、ミャオはプルプルと顔を振り、決意を込めた瞳をこちらに向ける。
「だから、僕はJ1グランプリに出場しなきゃいけないニャ! そして優勝すれば、僕の名前と力は獣人界隈に轟き渡るニャ! そうすれば、きっとお父上様も僕のことを認めて、戻って来てくれるはずニャ!」
1
お気に入りに追加
3,160
あなたにおすすめの小説
【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!
暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい!
政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。
婚約破棄と追放をされたので能力使って自立したいと思います
かるぼな
ファンタジー
突然、王太子に婚約破棄と追放を言い渡されたリーネ・アルソフィ。
現代日本人の『神木れいな』の記憶を持つリーネはレイナと名前を変えて生きていく事に。
一人旅に出るが周りの人間に助けられ甘やかされていく。
【拒絶と吸収】の能力で取捨選択して良いとこ取り。
癒し系統の才能が徐々に開花してとんでもない事に。
レイナの目標は自立する事なのだが……。
聖女なのに婚約破棄した上に辺境へ追放? ショックで前世を思い出し、魔法で電化製品を再現出来るようになって快適なので、もう戻りません。
向原 行人
ファンタジー
土の聖女と呼ばれる土魔法を極めた私、セシリアは婚約者である第二王子から婚約破棄を言い渡された上に、王宮を追放されて辺境の地へ飛ばされてしまった。
とりあえず、辺境の地でも何とか生きていくしかないと思った物の、着いた先は家どころか人すら居ない場所だった。
こんな所でどうすれば良いのと、ショックで頭が真っ白になった瞬間、突然前世の――日本の某家電量販店の販売員として働いていた記憶が蘇る。
土魔法で家や畑を作り、具現化魔法で家電製品を再現し……あれ? 王宮暮らしより遥かに快適なんですけど!
一方、王宮での私がしていた仕事を出来る者が居ないらしく、戻って来いと言われるけど、モフモフな動物さんたちと一緒に快適で幸せに暮らして居るので、お断りします。
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
【完結】『サヨナラ』そう呟き、崖から身を投げようとする私の手を誰かに引かれました。
仰木 あん
ファンタジー
継母に苛められ、義理の妹には全てを取り上げられる。
実の父にも蔑まれ、生きる希望を失ったアメリアは、家を抜け出し、海へと向かう。
たどり着いた崖から身を投げようとするアメリアは、見知らぬ人物に手を引かれ、一命を取り留める。
そんなところから、彼女の運命は好転をし始める。
そんなお話。
フィクションです。
名前、団体、関係ありません。
設定はゆるいと思われます。
ハッピーなエンドに向かっております。
12、13、14、15話は【胸糞展開】になっておりますのでご注意下さい。
登場人物
アメリア=フュルスト;主人公…二十一歳
キース=エネロワ;公爵…二十四歳
マリア=エネロワ;キースの娘…五歳
オリビエ=フュルスト;アメリアの実父
ソフィア;アメリアの義理の妹二十歳
エリザベス;アメリアの継母
ステルベン=ギネリン;王国の王
追放貴族少年リュウキの成り上がり~魔力を全部奪われたけど、代わりに『闘気』を手に入れました~
さとう
ファンタジー
とある王国貴族に生まれた少年リュウキ。彼は生まれながらにして『大賢者』に匹敵する魔力を持って生まれた……が、義弟を溺愛する継母によって全ての魔力を奪われ、次期当主の座も奪われ追放されてしまう。
全てを失ったリュウキ。家も、婚約者も、母の形見すら奪われ涙する。もう生きる力もなくなり、全てを終わらせようと『龍の森』へ踏み込むと、そこにいたのは死にかけたドラゴンだった。
ドラゴンは、リュウキの境遇を憐れみ、ドラゴンしか使うことのできない『闘気』を命をかけて与えた。
これは、ドラゴンの力を得た少年リュウキが、新しい人生を歩む物語。
【完結】男爵令嬢は冒険者生活を満喫する
影清
ファンタジー
英雄の両親を持つ男爵令嬢のサラは、十歳の頃から冒険者として活動している。優秀な両親、優秀な兄に恥じない娘であろうと努力するサラの前に、たくさんのメイドや護衛に囲まれた侯爵令嬢が現れた。「卒業イベントまでに、立派な冒険者になっておきたいの」。一人でも生きていけるようにだとか、追放なんてごめんだわなど、意味の分からぬことを言う令嬢と関わりたくないサラだが、同じ学園に入学することになって――。
※残酷な描写は予告なく出てきます。
※小説家になろう、アルファポリス、カクヨムに掲載中です。
※106話完結。
【完結】どうやら魔森に捨てられていた忌子は聖女だったようです
山葵
ファンタジー
昔、双子は不吉と言われ後に産まれた者は捨てられたり、殺されたり、こっそりと里子に出されていた。
今は、その考えも消えつつある。
けれど貴族の中には昔の迷信に捕らわれ、未だに双子は家系を滅ぼす忌子と信じる者もいる。
今年、ダーウィン侯爵家に双子が産まれた。
ダーウィン侯爵家は迷信を信じ、後から産まれたばかりの子を馭者に指示し魔森へと捨てた。
【完結】追放された元聖女は、冒険者として自由に生活します!
蜜柑
ファンタジー
*第13回ファンタジー小説大賞奨励賞頂きました。ありがとうございました。*
レイラは生まれた時から強力な魔力を持っていたため、キアーラ王国の大神殿で大司教に聖女として育てられ、毎日祈りを捧げてきた。大司教は国政を乗っ取ろうと王太子とレイラの婚約を決めたが、王子は身元不明のレイラとは結婚できないと婚約破棄し、彼女を国外追放してしまう。
――え、もうお肉も食べていいの? 白じゃない服着てもいいの?
追放される道中、偶然出会った冒険者――剣士ステファンと狼男のライガに同行することになったレイラは、冒険者ギルドに登録し、冒険者になる。もともと神殿での不自由な生活に飽き飽きしていたレイラは美味しいものを食べたり、可愛い服を着たり、冒険者として仕事をしたりと、外での自由な生活を楽しむ。
その一方、魔物が出るようになったキアーラでは大司教がレイラの回収を画策し、レイラの出自をめぐる真実がだんだんと明らかになる。
※序盤1話が短めです(1000字弱)
※複数視点多めです。
※小説家になろうにも掲載しています。
※表紙イラストはレイラを月塚彩様に描いてもらいました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる