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第二部 獣人武闘祭

第166話

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 おっとっと、話が少しそれてしまった。ええと、何の話をしてたんだっけ? そうだ。J1グランプリとかいう武闘大会に出るために、二千ゴールドいるって話だったわね。

「ねえ、盗みなんか働かなくても、あなたの身体能力なら、肉体労働のバイトでもやれば、一ヶ月ほどで二千ゴールドくらい稼げたんじゃないの?」

「一応それも考えたニャ。でも面接で、身分証がどうだの、職歴の空白期間がどうだのネチネチと聞いてきたから、頭にきてテーブルをひっくり返して帰って来たニャ。ついでに壁にも正拳で穴を開けてやったニャ」

「えぇ……ちょっと短気すぎるでしょ……」

「立場的に上にいると思って高圧的な態度をとっていた面接官が、突然暴れ出した僕にビビる顔はなかなか見ものだったニャ」

 この子……無邪気で素直な面と、短気で粗暴な面が同居しているような子ね。なんだか、昔のエリスを思い出すわ。ミャオもエリスと同じく、人並み外れて強い力を持っているだけに、誰かがきちんと指導してあげないと、いつか大変なことをしでかす気がする。

 いや、実際にはもう、『大変なこと』をしでかしてしまっているのだ。

 盗みに入ったのがたまたま私の部屋でなければ、手加減した蹴りでも、人を殺していたかもしれない。たとえ本人に殺意がなくてもだ。それほどに彼女の技は冴えわたっていた。

 いったい、誰に指導を受けたのだろう。

 その指導者は、彼女に教えなかったのだろうか。武道家の研ぎ澄まされた拳足は凶器であり、みだりに振るってはいけないということを。

「ねえ、ミャオ。あなたは、そのネコカラテを、誰に習ったの?」

「ニャッ。お父上様ニャ」

「そう。お父さんとは、一緒に暮らしているの?」

 そう聞いた瞬間、これまで快活そのものだったミャオの顔が、暗く落ち込んだ。

「お父上様は、僕を置いて家を出ていったニャ……」

 どうやら、まずいことを聞いてしまったようだ。なんと声をかけていいか分からずに黙っていると、ミャオはプルプルと顔を振り、決意を込めた瞳をこちらに向ける。

「だから、僕はJ1グランプリに出場しなきゃいけないニャ! そして優勝すれば、僕の名前と力は獣人界隈に轟き渡るニャ! そうすれば、きっとお父上様も僕のことを認めて、戻って来てくれるはずニャ!」
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