160 / 389
第二部 獣人武闘祭
第160話
しおりを挟む
エルフの里を出てから、一ヶ月の時が流れた。
私は、気の向くまま、風の向くまま、あちこちを放浪している。
その間、特に労働はしていないので、所持金は少しずつ減っていったが、エリスと旅をしていた際は、ほとんど自分のお金に手を付けることはなかったので、まだまだ貯蓄は充分であり、その気になれば、あと半年くらいは、まったく働かなくても旅を続けることができるだろう。
しかし私は、最近、一人で旅を続けることに、少々……いや、かなりの虚しさを感じ始めていた。特に目的のない一人旅は、正直言って、想像以上に寂しいものだったからだ。
私は今、宿の部屋で一人、お茶を飲んでいる。
そう。
一人ぼっちだ。
以前はよく、エリスがお茶を淹れてくれたっけ。
……思えば、エリスと二人で旅をしていた頃は、楽しかった。
朝、おはようと言って目覚め、昼は肩を並べて道を歩き、夜は宿で、たわいもないことを語り合う。……特別に変わったことをするわけでもないが、旅の道連れがいるというのは、なんて楽しいことだろう。
近頃は、私と同じくらいの年代の人が、何人かで連れ立って旅をしているのを見ると、自分の孤独を思い知り、なんだかとても切ない気分になる。
寂しい……
もう、旅なんてやめちゃおうかな。
素敵な『友』との出会いなんて、全然ないし……
この一ヶ月、出会ったのは『敵』だけ。
山賊と盗賊と痴漢と殺人鬼だ。
まあ、全員ぶっとばしてやったけど。
旅をやめて、どうする?
このまま、この町で暮らすか。
ここは、なんていう名前だったかな?
ええと……そうだ。『カーベル』だ。休息をとるためだけに立ち寄った小さな町だが、騒々しい都会が苦手な私にとっては、暮らしやすそうに思える。
少し、街並みを見てみようかしら。
私は、宿を出た。
時刻は、昼下がり。
風もなく、絶好のお散歩日和である。
あてどなく町を歩いていると、何人かの町民とすれ違った。
町民たちは、よそ者の私にも、笑顔で会釈してくれた。
……ふむ。食堂、宿、服飾店と、小さいながらも一通りの商業施設はそろっているし、住民たちも皆、親切で温和だ。本当に、ここで暮らしていくのも悪くないかもしれない。
私は、そんなことを思いながら宿への帰路についた。
そして、自室のドアを開けた。
……その時、私は奇妙な違和感に気がついた。
部屋を出る時、施錠はしたはず。
それなのに、鍵を入れることなく、ノブは回り、ドアが開いたのだ。
私は、気の向くまま、風の向くまま、あちこちを放浪している。
その間、特に労働はしていないので、所持金は少しずつ減っていったが、エリスと旅をしていた際は、ほとんど自分のお金に手を付けることはなかったので、まだまだ貯蓄は充分であり、その気になれば、あと半年くらいは、まったく働かなくても旅を続けることができるだろう。
しかし私は、最近、一人で旅を続けることに、少々……いや、かなりの虚しさを感じ始めていた。特に目的のない一人旅は、正直言って、想像以上に寂しいものだったからだ。
私は今、宿の部屋で一人、お茶を飲んでいる。
そう。
一人ぼっちだ。
以前はよく、エリスがお茶を淹れてくれたっけ。
……思えば、エリスと二人で旅をしていた頃は、楽しかった。
朝、おはようと言って目覚め、昼は肩を並べて道を歩き、夜は宿で、たわいもないことを語り合う。……特別に変わったことをするわけでもないが、旅の道連れがいるというのは、なんて楽しいことだろう。
近頃は、私と同じくらいの年代の人が、何人かで連れ立って旅をしているのを見ると、自分の孤独を思い知り、なんだかとても切ない気分になる。
寂しい……
もう、旅なんてやめちゃおうかな。
素敵な『友』との出会いなんて、全然ないし……
この一ヶ月、出会ったのは『敵』だけ。
山賊と盗賊と痴漢と殺人鬼だ。
まあ、全員ぶっとばしてやったけど。
旅をやめて、どうする?
このまま、この町で暮らすか。
ここは、なんていう名前だったかな?
ええと……そうだ。『カーベル』だ。休息をとるためだけに立ち寄った小さな町だが、騒々しい都会が苦手な私にとっては、暮らしやすそうに思える。
少し、街並みを見てみようかしら。
私は、宿を出た。
時刻は、昼下がり。
風もなく、絶好のお散歩日和である。
あてどなく町を歩いていると、何人かの町民とすれ違った。
町民たちは、よそ者の私にも、笑顔で会釈してくれた。
……ふむ。食堂、宿、服飾店と、小さいながらも一通りの商業施設はそろっているし、住民たちも皆、親切で温和だ。本当に、ここで暮らしていくのも悪くないかもしれない。
私は、そんなことを思いながら宿への帰路についた。
そして、自室のドアを開けた。
……その時、私は奇妙な違和感に気がついた。
部屋を出る時、施錠はしたはず。
それなのに、鍵を入れることなく、ノブは回り、ドアが開いたのだ。
1
お気に入りに追加
3,160
あなたにおすすめの小説
【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!
暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい!
政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。
特典付きの錬金術師は異世界で無双したい。
TEFt
ファンタジー
しがないボッチの高校生の元に届いた謎のメール。それは訳のわからないアンケートであった。内容は記載されている職業を選ぶこと。思いつきでついついクリックしてしまった彼に訪れたのは死。そこから、彼のSecond life が今始まる___。
【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う
たくみ
ファンタジー
圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。
アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。
ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?
それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。
自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。
このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。
それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。
※小説家になろうさんで投稿始めました
召喚されたけど要らないと言われたので旅に出ます。探さないでください。
udonlevel2
ファンタジー
修学旅行中に異世界召喚された教師、中園アツシと中園の生徒の姫島カナエと他3名の生徒達。
他の三人には国が欲しがる力があったようだが、中園と姫島のスキルは文字化けして読めなかった。
その為、城を追い出されるように金貨一人50枚を渡され外の世界に放り出されてしまう。
教え子であるカナエを守りながら異世界を生き抜かねばならないが、まずは見た目をこの世界の物に替えて二人は慎重に話し合いをし、冒険者を雇うか、奴隷を買うか悩む。
まずはこの世界を知らねばならないとして、奴隷市場に行き、明日殺処分だった虎獣人のシュウと、妹のナノを購入。
シュウとナノを購入した二人は、国を出て別の国へと移動する事となる。
★他サイトにも連載中です(カクヨム・なろう・ピクシブ)
中国でコピーされていたので自衛です。
「天安門事件」
公爵家次男はちょっと変わりモノ? ~ここは乙女ゲームの世界だから、デブなら婚約破棄されると思っていました~
松原 透
ファンタジー
異世界に転生した俺は、婚約破棄をされるため誰も成し得なかったデブに進化する。
なぜそんな事になったのか……目が覚めると、ローバン公爵家次男のアレスという少年の姿に変わっていた。
生まれ変わったことで、異世界を満喫していた俺は冒険者に憧れる。訓練中に、魔獣に襲われていたミーアを助けることになったが……。
しかし俺は、失敗をしてしまう。責任を取らされる形で、ミーアを婚約者として迎え入れることになった。その婚約者に奇妙な違和感を感じていた。
二人である場所へと行ったことで、この異世界が乙女ゲームだったことを理解した。
婚約破棄されるためのデブとなり、陰ながらミーアを守るため奮闘する日々が始まる……はずだった。
カクヨム様 小説家になろう様でも掲載してます。
異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。
無人島Lv.9999 無人島開発スキルで最強の島国を作り上げてスローライフ
桜井正宗
ファンタジー
帝国の第三皇子・ラスティは“無能”を宣告されドヴォルザーク帝国を追放される。しかし皇子が消えた途端、帝国がなぜか不思議な力によって破滅の道へ進む。周辺国や全世界を巻き込み次々と崩壊していく。
ラスティは“謎の声”により無人島へ飛ばされ定住。これまた不思議な能力【無人島開発】で無人島のレベルをアップ。世界最強の国に変えていく。その噂が広がると世界の国々から同盟要請や援助が殺到するも、もう遅かった。ラスティは、信頼できる仲間を手に入れていたのだ。彼らと共にスローライフを送るのであった。
神に逆らった人間が生きていける訳ないだろう?大地も空気も神の意のままだぞ?<聖女は神の愛し子>
ラララキヲ
ファンタジー
フライアルド聖国は『聖女に護られた国』だ。『神が自分の愛し子の為に作った』のがこの国がある大地(島)である為に、聖女は王族よりも大切に扱われてきた。
それに不満を持ったのが当然『王侯貴族』だった。
彼らは遂に神に盾突き「人の尊厳を守る為に!」と神の信者たちを追い出そうとした。去らねば罪人として捕まえると言って。
そしてフライアルド聖国の歴史は動く。
『神の作り出した世界』で馬鹿な人間は現実を知る……
神「プンスコ(`3´)」
!!注!! この話に出てくる“神”は実態の無い超常的な存在です。万能神、創造神の部類です。刃物で刺したら死ぬ様な“自称神”ではありません。人間が神を名乗ってる様な謎の宗教の話ではありませんし、そんな口先だけの神(笑)を容認するものでもありませんので誤解無きよう宜しくお願いします。!!注!!
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾もあるかも。
◇ちょっと【恋愛】もあるよ!
◇なろうにも上げてます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる