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第二部 獣人武闘祭

第160話

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 エルフの里を出てから、一ヶ月の時が流れた。

 私は、気の向くまま、風の向くまま、あちこちを放浪している。

 その間、特に労働はしていないので、所持金は少しずつ減っていったが、エリスと旅をしていた際は、ほとんど自分のお金に手を付けることはなかったので、まだまだ貯蓄は充分であり、その気になれば、あと半年くらいは、まったく働かなくても旅を続けることができるだろう。

 しかし私は、最近、一人で旅を続けることに、少々……いや、かなりの虚しさを感じ始めていた。特に目的のない一人旅は、正直言って、想像以上に寂しいものだったからだ。

 私は今、宿の部屋で一人、お茶を飲んでいる。

 そう。
 一人ぼっちだ。

 以前はよく、エリスがお茶を淹れてくれたっけ。

 ……思えば、エリスと二人で旅をしていた頃は、楽しかった。

 朝、おはようと言って目覚め、昼は肩を並べて道を歩き、夜は宿で、たわいもないことを語り合う。……特別に変わったことをするわけでもないが、旅の道連れがいるというのは、なんて楽しいことだろう。

 近頃は、私と同じくらいの年代の人が、何人かで連れ立って旅をしているのを見ると、自分の孤独を思い知り、なんだかとても切ない気分になる。

 寂しい……

 もう、旅なんてやめちゃおうかな。
 素敵な『友』との出会いなんて、全然ないし……

 この一ヶ月、出会ったのは『敵』だけ。
 山賊と盗賊と痴漢と殺人鬼だ。
 まあ、全員ぶっとばしてやったけど。

 旅をやめて、どうする?

 このまま、この町で暮らすか。
 ここは、なんていう名前だったかな?

 ええと……そうだ。『カーベル』だ。休息をとるためだけに立ち寄った小さな町だが、騒々しい都会が苦手な私にとっては、暮らしやすそうに思える。

 少し、街並みを見てみようかしら。
 私は、宿を出た。

 時刻は、昼下がり。
 風もなく、絶好のお散歩日和である。

 あてどなく町を歩いていると、何人かの町民とすれ違った。
 町民たちは、よそ者の私にも、笑顔で会釈してくれた。

 ……ふむ。食堂、宿、服飾店と、小さいながらも一通りの商業施設はそろっているし、住民たちも皆、親切で温和だ。本当に、ここで暮らしていくのも悪くないかもしれない。

 私は、そんなことを思いながら宿への帰路についた。

 そして、自室のドアを開けた。

 ……その時、私は奇妙な違和感に気がついた。

 部屋を出る時、施錠はしたはず。
 それなのに、鍵を入れることなく、ノブは回り、ドアが開いたのだ。
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