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第152話

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 エリスは先程から、ずっと黙ったままだった。
 自分の心の中で、様々な感情を噛みしめているようだった。

 そして、エリスは、重たい口を開いた。

「わかりました。……しかし、ひとつだけお願いがあります。お義父さんを殺したというルセイン家の『秘拳』を、私にも使ってほしいんです」

「なんだと?」

「これから私は、『血の掟』に従ってお爺ちゃんと戦い、その結果、お爺ちゃんを殺すことになると思います。……そうなったら、ルセイン家とお爺ちゃんの誇りである『秘拳』が、誰にも知られることなく、この世から消えてしまうことになります」

「…………」

「お爺ちゃんは、血族ではなく、男でもない私に『秘拳』を伝授するのは、嫌でしょう。だから、私に対して『秘拳』を使ってくれるだけでいいんです。私はそれを見て、自分の体で感じることで、学習したいと思います」

「馬鹿を言え。我がルセイン家の『秘拳』は、年老いたワシが、あのノッドルを殺してしまうほどの恐るべき技だぞ。多少強くなったとはいえ、ノッドルよりは劣るお前に使えば、お前はほぼ間違いなく死ぬだろう。それはごめんだ。ワシはこれ以上、罪を重ねたくない……」

「…………」

「もういいんだ……『エルフ式魔術ボクシング』も、『己の強さ』も、『伝統』も……全て、無駄だった……ワシは、無駄な一生を過ごし、挙句の果てに自分の子を殺した……何が『秘拳』だ……そんなものにこだわったせいで、ワシは……」

 そんなユーゲンスの言葉を、エリスは遮った。

「安心してください、お爺ちゃん。幾度もの実戦を重ね、お師匠様に鍛え上げられた今の私は、あの頃のお義父さんよりも遥かに強いですから、お爺ちゃんがどんな技を使っても、私は死にませんよ」

 それは、堂々とした、自信に満ちた言葉だった。
 ともすれば、『過信』と言えそうなほど、強烈な言葉だった。

 だが不思議なことに、傲慢さは感じない。あえて強い言葉を使うことで、ユーゲンスを安心させようとしているのが伝わってくるからだ。

 エリスはさらに、言葉を続ける。

「確かに、お爺ちゃんは間違いを犯したと思いますし、お義父さんを殺したことは許せない。でも、お爺ちゃんの人生は、無駄じゃない。私が、お爺ちゃんの拳を受け継ぐからです。さあ、見せてください。『私たち』ルセインの家に伝わる『秘拳』を……!」
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