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第124話

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「そう……ですね。人間の世界なら、田舎の小さな武道大会でも、少額の賞金を目当てに、数十人は参加者が集まりますから」

「まあ、仕方ないといえば、仕方ないのです。先ほど、あの無礼な若者にも言って聞かせましたが、『エルフ式魔術ボクシング』は、楽しいスポーツではなく、殺傷技術の結晶です。一撃必殺の『魔拳』をはじめ、あらゆる技が、敵を殺すことに特化している。……そんな血なまぐさい武術、やりたがる者はそういませんよ」

「…………」

「我々エルフは、あなたたち人間と違って、魔族と全面的に争ってはいませんからな。小さな衝突くらいはありますが、基本的に、ここ数百年は平和そのものです。だから若いエルフたちは、本当の戦いを知らない。いや、中年や老人ですら、戦いを忘れつつある。私の周りの年寄り連中は皆、ボクシングよりゲートボールに夢中ですよ」

 その言葉で、敬老会の皆とゲートボール旅行に向かったエリスの祖父、ユーゲンスを思い出した。エリスの祖父なのだから、彼も相当の使い手だったに違いないが、今はもう、『エルフ式魔術ボクシング』に興味を失っているのだろう。だから、息子の仇を取ることにも、あまり頓着していないのかもしれない……

 寂しそうなストッフェンを励ますように、私は努めて明るい声を出す。

「でも、戦い以外でも、狩りとかで、『エルフ式魔術ボクシング』を活用する場面は、まだまだあるんじゃないですか? 『魔拳』や『魔闘身』は、素晴らしい技です。『敵との殺し合い』ではなく、『平和的な狩り』に活かす形に変わって、その技術はきっと、未来に受け継がれていきますよ」

 自分では、それなりに理にかなったことを言ったつもりだったが、ストッフェンの表情は冴えなかった。彼は力ない笑みを作り、言葉を紡いでいく。心なしかその声からは、先程までの張りが失われたように思えた。

「いえ、もはや狩りでも、『エルフ式魔術ボクシング』の技を使う状況は少なくなりつつあります。というより、いまだに『魔拳』を振るって狩りをしているのは、最新の狩猟具を買うことのできない貧しい者か、昔ながらのやり方にこだわる者くらいでしょう。……ディーナ様、エルフの里の狩猟品店を覗いたことはありますか?」

 私は、首を左右に振る。

「あの、私、数日前に来たばかりで、お店とかは、一軒も入っていないんです」

 そもそも、どこのお店に入っても、人間の私は舌打ちされそうだし……
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