上 下
63 / 389

第63話

しおりを挟む
 驚くべきことに、ラジアスは生きていた。

 気を失ってはいるものの、ダメージもそこまで酷くはなさそうだ。私はラジアスの上半身を抱き起こし、治癒魔法を使う。すると、ラジアスはすぐに目を開けた。……凄い、完全に気絶してたのに、こんなにすぐ意識を取り戻すなんて。さすがにタフね。

 ラジアスは私を見上げ、やや掠れた声で、称賛の言葉を紡いでいく。

「見事だ……ディーナ……何をどうやったのか、分からないが……『ライトニング・スマッシュ』が、かわされたのではなく、直撃したのに、俺の方がダメージを受けるなんて……こんなことは、初めてだ……俺の……負けだ……」

 そこで私は、やっと気がついた。何故、必殺の『ライトニング・スマッシュ』をカウンターで返されたのに、ラジアスの怪我が、それほど重症ではないのかを。

 私はラジアスの上半身を抱えたまま、彼の手に触れ、静かに言う。

「ラジアス、あなた、私を殺さないように、『ライトニング・スマッシュ』の威力を加減してくれたのね」

 ラジアスは、微笑を浮かべた。

「当然だ……勇者は人を殺さない……先程『どちらかが死ぬとしても』と言ったのは、ただの方便だよ……だいたい、かつての仲間に、本気で必殺の技を打ち込む馬鹿がどこにいる……これから再びパーティーに戻ってもらうために戦っているというのに、必殺技で殺してしまったら、わけが分からないだろう……」

「そうね……あなた、意外とちゃんとしてるのね……見直したわ……」

「『意外と』は余計だ……」

 そして私たちは、触れ合ったままだった手を、どちらからともなく、固く握りしめた。戦いを始める前、私はこのラジアスに対し、『あなたとは一生、分かり合えそうにない』と言った。

 それは事実だし、今だって、別にラジアスのことが好きになったわけではない。

 しかし、互いに拳を交え、骨をきしませ、死闘を終えたことで、これまでずっと二人の間にあったわだかまりのようなものが、解けて消えていくような気がした。

 その後、重ねて治癒魔法をかけると、ラジアスはあっという間に元気になった。いくら『ライトニング・スマッシュ』の威力を加減していたとはいえ、『バリア・リフレクション』のカウンターをまともにくらったのだから、普通の人間なら全身の骨がバラバラになっていてもおかしくないのに、本当に、呆れるほどタフな男である。

 ラジアスは、もう何事もなかったかのように鎧を着こみ、剣を背負うと、どこからか袋を取り出した。袋からは、やや鈍重な、『ジャラリ』とも、『ガシャリ』とも聞こえる音がする。

 ……どうやら、中にはお金が詰まっているらしい。

 その、お金の詰まった袋を私に差し出し、ラジアスは言う。

「約束通り、この金は、全部お前のものだ。受け取ってくれ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

追放貴族少年リュウキの成り上がり~魔力を全部奪われたけど、代わりに『闘気』を手に入れました~

さとう
ファンタジー
とある王国貴族に生まれた少年リュウキ。彼は生まれながらにして『大賢者』に匹敵する魔力を持って生まれた……が、義弟を溺愛する継母によって全ての魔力を奪われ、次期当主の座も奪われ追放されてしまう。 全てを失ったリュウキ。家も、婚約者も、母の形見すら奪われ涙する。もう生きる力もなくなり、全てを終わらせようと『龍の森』へ踏み込むと、そこにいたのは死にかけたドラゴンだった。 ドラゴンは、リュウキの境遇を憐れみ、ドラゴンしか使うことのできない『闘気』を命をかけて与えた。 これは、ドラゴンの力を得た少年リュウキが、新しい人生を歩む物語。

【完結】男爵令嬢は冒険者生活を満喫する

影清
ファンタジー
英雄の両親を持つ男爵令嬢のサラは、十歳の頃から冒険者として活動している。優秀な両親、優秀な兄に恥じない娘であろうと努力するサラの前に、たくさんのメイドや護衛に囲まれた侯爵令嬢が現れた。「卒業イベントまでに、立派な冒険者になっておきたいの」。一人でも生きていけるようにだとか、追放なんてごめんだわなど、意味の分からぬことを言う令嬢と関わりたくないサラだが、同じ学園に入学することになって――。 ※残酷な描写は予告なく出てきます。 ※小説家になろう、アルファポリス、カクヨムに掲載中です。 ※106話完結。

全てを奪われ追放されたけど、実は地獄のようだった家から逃げられてほっとしている。もう絶対に戻らないからよろしく!

蒼衣翼
ファンタジー
俺は誰もが羨む地位を持ち、美男美女揃いの家族に囲まれて生活をしている。 家や家族目当てに近づく奴や、妬んで陰口を叩く奴は数しれず、友人という名のハイエナ共に付きまとわれる生活だ。 何よりも、外からは最高に見える家庭環境も、俺からすれば地獄のようなもの。 やるべきこと、やってはならないことを細かく決められ、家族のなかで一人平凡顔の俺は、みんなから疎ましがられていた。 そんなある日、家にやって来た一人の少年が、鮮やかな手並みで俺の地位を奪い、とうとう俺を家から放逐させてしまう。 やった! 準備をしつつも諦めていた自由な人生が始まる! 俺はもう戻らないから、後は頼んだぞ!

追放された聖女の悠々自適な側室ライフ

白雪の雫
ファンタジー
「聖女ともあろう者が、嫉妬に狂って我が愛しのジュリエッタを虐めるとは!貴様の所業は畜生以外の何者でもない!お前との婚約を破棄した上で国外追放とする!!」 平民でありながらゴーストやレイスだけではなくリッチを一瞬で倒したり、どんな重傷も完治してしまうマルガレーテは、幼い頃に両親と引き離され聖女として教会に引き取られていた。 そんな彼女の魔力に目を付けた女教皇と国王夫妻はマルガレーテを国に縛り付ける為、王太子であるレオナルドの婚約者に据えて、「お妃教育をこなせ」「愚民どもより我等の病を治療しろ」「瘴気を祓え」「不死王を倒せ」という風にマルガレーテをこき使っていた。 そんなある日、レオナルドは居並ぶ貴族達の前で公爵令嬢のジュリエッタ(バスト100cm以上の爆乳・KかLカップ)を妃に迎え、マルガレーテに国外追放という死刑に等しい宣言をしてしまう。 「王太子殿下の仰せに従います」 (やっと・・・アホ共から解放される。私がやっていた事が若作りのヒステリー婆・・・ではなく女教皇と何の力もない修道女共に出来る訳ないのにね~。まぁ、この国がどうなってしまっても私には関係ないからどうでもいいや) 表面は淑女の仮面を被ってレオナルドの宣言を受け入れたマルガレーテは、さっさと国を出て行く。 今までの鬱憤を晴らすかのように、着の身着のままの旅をしているマルガレーテは、故郷である幻惑の樹海へと戻っている途中で【宮女狩り】というものに遭遇してしまい、大国の後宮へと入れられてしまった。 マルガレーテが悠々自適な側室ライフを楽しんでいる頃 聖女がいなくなった王国と教会は滅亡への道を辿っていた。

団長サマの幼馴染が聖女の座をよこせというので譲ってあげました

毒島醜女
ファンタジー
※某ちゃんねる風創作 『魔力掲示板』 特定の魔法陣を描けば老若男女、貧富の差関係なくアクセスできる掲示板。ビジネスの情報交換、政治の議論、それだけでなく世間話のようなフランクなものまで存在する。 平民レベルの微力な魔力でも打ち込めるものから、貴族クラスの魔力を有するものしか開けないものから多種多様である。勿論そういった身分に関わらずに交流できる掲示板もある。 今日もまた、掲示板は悲喜こもごもに賑わっていた――

婚約者に犯されて身籠り、妹に陥れられて婚約破棄後に国外追放されました。“神人”であるお腹の子が復讐しますが、いいですね?

サイコちゃん
ファンタジー
公爵令嬢アリアは不義の子を身籠った事を切欠に、ヴント国を追放される。しかも、それが冤罪だったと判明した後も、加害者である第一王子イェールと妹ウィリアは不誠実な謝罪を繰り返し、果てはアリアを罵倒する。その行為が、ヴント国を破滅に導くとも知らずに―― ※昨年、別アカウントにて削除した『お腹の子「後になってから謝っても遅いよ?」』を手直しして再投稿したものです。

特典付きの錬金術師は異世界で無双したい。

TEFt
ファンタジー
しがないボッチの高校生の元に届いた謎のメール。それは訳のわからないアンケートであった。内容は記載されている職業を選ぶこと。思いつきでついついクリックしてしまった彼に訪れたのは死。そこから、彼のSecond life が今始まる___。

処理中です...