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第63話
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驚くべきことに、ラジアスは生きていた。
気を失ってはいるものの、ダメージもそこまで酷くはなさそうだ。私はラジアスの上半身を抱き起こし、治癒魔法を使う。すると、ラジアスはすぐに目を開けた。……凄い、完全に気絶してたのに、こんなにすぐ意識を取り戻すなんて。さすがにタフね。
ラジアスは私を見上げ、やや掠れた声で、称賛の言葉を紡いでいく。
「見事だ……ディーナ……何をどうやったのか、分からないが……『ライトニング・スマッシュ』が、かわされたのではなく、直撃したのに、俺の方がダメージを受けるなんて……こんなことは、初めてだ……俺の……負けだ……」
そこで私は、やっと気がついた。何故、必殺の『ライトニング・スマッシュ』をカウンターで返されたのに、ラジアスの怪我が、それほど重症ではないのかを。
私はラジアスの上半身を抱えたまま、彼の手に触れ、静かに言う。
「ラジアス、あなた、私を殺さないように、『ライトニング・スマッシュ』の威力を加減してくれたのね」
ラジアスは、微笑を浮かべた。
「当然だ……勇者は人を殺さない……先程『どちらかが死ぬとしても』と言ったのは、ただの方便だよ……だいたい、かつての仲間に、本気で必殺の技を打ち込む馬鹿がどこにいる……これから再びパーティーに戻ってもらうために戦っているというのに、必殺技で殺してしまったら、わけが分からないだろう……」
「そうね……あなた、意外とちゃんとしてるのね……見直したわ……」
「『意外と』は余計だ……」
そして私たちは、触れ合ったままだった手を、どちらからともなく、固く握りしめた。戦いを始める前、私はこのラジアスに対し、『あなたとは一生、分かり合えそうにない』と言った。
それは事実だし、今だって、別にラジアスのことが好きになったわけではない。
しかし、互いに拳を交え、骨をきしませ、死闘を終えたことで、これまでずっと二人の間にあったわだかまりのようなものが、解けて消えていくような気がした。
その後、重ねて治癒魔法をかけると、ラジアスはあっという間に元気になった。いくら『ライトニング・スマッシュ』の威力を加減していたとはいえ、『バリア・リフレクション』のカウンターをまともにくらったのだから、普通の人間なら全身の骨がバラバラになっていてもおかしくないのに、本当に、呆れるほどタフな男である。
ラジアスは、もう何事もなかったかのように鎧を着こみ、剣を背負うと、どこからか袋を取り出した。袋からは、やや鈍重な、『ジャラリ』とも、『ガシャリ』とも聞こえる音がする。
……どうやら、中にはお金が詰まっているらしい。
その、お金の詰まった袋を私に差し出し、ラジアスは言う。
「約束通り、この金は、全部お前のものだ。受け取ってくれ」
気を失ってはいるものの、ダメージもそこまで酷くはなさそうだ。私はラジアスの上半身を抱き起こし、治癒魔法を使う。すると、ラジアスはすぐに目を開けた。……凄い、完全に気絶してたのに、こんなにすぐ意識を取り戻すなんて。さすがにタフね。
ラジアスは私を見上げ、やや掠れた声で、称賛の言葉を紡いでいく。
「見事だ……ディーナ……何をどうやったのか、分からないが……『ライトニング・スマッシュ』が、かわされたのではなく、直撃したのに、俺の方がダメージを受けるなんて……こんなことは、初めてだ……俺の……負けだ……」
そこで私は、やっと気がついた。何故、必殺の『ライトニング・スマッシュ』をカウンターで返されたのに、ラジアスの怪我が、それほど重症ではないのかを。
私はラジアスの上半身を抱えたまま、彼の手に触れ、静かに言う。
「ラジアス、あなた、私を殺さないように、『ライトニング・スマッシュ』の威力を加減してくれたのね」
ラジアスは、微笑を浮かべた。
「当然だ……勇者は人を殺さない……先程『どちらかが死ぬとしても』と言ったのは、ただの方便だよ……だいたい、かつての仲間に、本気で必殺の技を打ち込む馬鹿がどこにいる……これから再びパーティーに戻ってもらうために戦っているというのに、必殺技で殺してしまったら、わけが分からないだろう……」
「そうね……あなた、意外とちゃんとしてるのね……見直したわ……」
「『意外と』は余計だ……」
そして私たちは、触れ合ったままだった手を、どちらからともなく、固く握りしめた。戦いを始める前、私はこのラジアスに対し、『あなたとは一生、分かり合えそうにない』と言った。
それは事実だし、今だって、別にラジアスのことが好きになったわけではない。
しかし、互いに拳を交え、骨をきしませ、死闘を終えたことで、これまでずっと二人の間にあったわだかまりのようなものが、解けて消えていくような気がした。
その後、重ねて治癒魔法をかけると、ラジアスはあっという間に元気になった。いくら『ライトニング・スマッシュ』の威力を加減していたとはいえ、『バリア・リフレクション』のカウンターをまともにくらったのだから、普通の人間なら全身の骨がバラバラになっていてもおかしくないのに、本当に、呆れるほどタフな男である。
ラジアスは、もう何事もなかったかのように鎧を着こみ、剣を背負うと、どこからか袋を取り出した。袋からは、やや鈍重な、『ジャラリ』とも、『ガシャリ』とも聞こえる音がする。
……どうやら、中にはお金が詰まっているらしい。
その、お金の詰まった袋を私に差し出し、ラジアスは言う。
「約束通り、この金は、全部お前のものだ。受け取ってくれ」
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