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第48話
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ホッとする私を、エリスははしゃぎながら称賛する。
「凄いです、本当に凄いです、お師匠様! これなら、たとえ100人以上の軍隊に囲まれたとしても、一網打尽にできますね!」
100人以上の軍隊に囲まれるって、普通に生きてたらそんな状況にならないでしょ……と思ったが、よく考えたら、40人のチンピラに囲まれるのも、普通に生きてたらあり得ない状況である。なんだかおかしくて、私は少しだけ笑った。
「残念だけど、これが通用するのは、最下級の魔物か、町のチンピラ程度が限界ね。鍛えられた軍人が相手じゃ、さすがに結界を展開するだけで意識を奪うのは無理よ。だから、軍隊に囲まれるような状況にはならないでね」
「はぁい」
さてと。降りかかる火の粉も払うことができましたし、このまま旅立つとしましょうか。寝ているチンピラさんたちも、しばらくすれば目を覚ますでしょうから、このままにしておいても大丈夫だろう。
そう思い、町を出ようとした途端。
先程チンピラたちに向けられたのとは比較にならない殺気が、後頭部に突き刺さった。振り返ると、少し離れたところに、あの用心棒の兄弟がいた。
あちゃ~……見つかっちゃった。でもまあ、こういう状況になるのも当然よね。チンピラのリーダーさんも、『もうすぐ兄貴もここに来るからな』って言ってたし。
用心棒の兄弟――その、背の高い兄の方は、額に血管を浮かび上がらせ、歯を剥いた、もの凄い笑みを浮かべている。怒りと狂気が入り交ざった、異様な表情だった。それに対し、マッチョな弟の方は、どこか決まりの悪そうな顔で、私たちと兄の顔を、チラチラと見比べている。
私もエリスも、彼らになんて声をかけたらよいか分からず、黙っていた。
すると、狂気の笑みを浮かべた兄が、私の方を見て、口を開く。
「へえ、酒場のお姉さん。あんた、そのエルフのお嬢さんとお友達だったのかい」
声までもが、妙に甲高く上ずっており、不気味な狂気を帯びていた。
私は小さく肩をすくめ、苦笑とともに答える。
「昨日までは他人だったんだけどね。まあ、成り行きで、今はこの子の保護者的な立場になってるわ」
「そうかい。あんたに興味はないが、これからやることの邪魔をするようなら、あんたも殺すよ」
これからやること――言うまでもなく、エリスに対する復讐だろう。
私はため息を漏らしてから、なるべく落ち着いた声で、諭すように言う。
「ねえ、昨日のことは、確かにこの子も悪かったけど、あなたたちにも問題があるのよ。そっちの弟さんは、しつこくエリスに絡んだし、あなただって、ただの酔っぱらいの喧嘩を、死ぬか生きるかの大ごとにしようとした」
「凄いです、本当に凄いです、お師匠様! これなら、たとえ100人以上の軍隊に囲まれたとしても、一網打尽にできますね!」
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「残念だけど、これが通用するのは、最下級の魔物か、町のチンピラ程度が限界ね。鍛えられた軍人が相手じゃ、さすがに結界を展開するだけで意識を奪うのは無理よ。だから、軍隊に囲まれるような状況にはならないでね」
「はぁい」
さてと。降りかかる火の粉も払うことができましたし、このまま旅立つとしましょうか。寝ているチンピラさんたちも、しばらくすれば目を覚ますでしょうから、このままにしておいても大丈夫だろう。
そう思い、町を出ようとした途端。
先程チンピラたちに向けられたのとは比較にならない殺気が、後頭部に突き刺さった。振り返ると、少し離れたところに、あの用心棒の兄弟がいた。
あちゃ~……見つかっちゃった。でもまあ、こういう状況になるのも当然よね。チンピラのリーダーさんも、『もうすぐ兄貴もここに来るからな』って言ってたし。
用心棒の兄弟――その、背の高い兄の方は、額に血管を浮かび上がらせ、歯を剥いた、もの凄い笑みを浮かべている。怒りと狂気が入り交ざった、異様な表情だった。それに対し、マッチョな弟の方は、どこか決まりの悪そうな顔で、私たちと兄の顔を、チラチラと見比べている。
私もエリスも、彼らになんて声をかけたらよいか分からず、黙っていた。
すると、狂気の笑みを浮かべた兄が、私の方を見て、口を開く。
「へえ、酒場のお姉さん。あんた、そのエルフのお嬢さんとお友達だったのかい」
声までもが、妙に甲高く上ずっており、不気味な狂気を帯びていた。
私は小さく肩をすくめ、苦笑とともに答える。
「昨日までは他人だったんだけどね。まあ、成り行きで、今はこの子の保護者的な立場になってるわ」
「そうかい。あんたに興味はないが、これからやることの邪魔をするようなら、あんたも殺すよ」
これからやること――言うまでもなく、エリスに対する復讐だろう。
私はため息を漏らしてから、なるべく落ち着いた声で、諭すように言う。
「ねえ、昨日のことは、確かにこの子も悪かったけど、あなたたちにも問題があるのよ。そっちの弟さんは、しつこくエリスに絡んだし、あなただって、ただの酔っぱらいの喧嘩を、死ぬか生きるかの大ごとにしようとした」
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