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第39話

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「どうして筋肉が細くなるのに、強力なパワーが発揮できるようになるんですか?」

「外見が細くなるだけで、筋量は変わらないからよ。そうねえ、例えば、同じ量の素材を使うとして、ゆる~く編まれた太い綱と、隙間なくガッチガチに編み込んだ細い綱だったら、どっちの方が高強度だと思う?」

「そんなの、細い綱に決まってます。いくら太い綱でも、ゆるく編まれていては、充分な強度にはなりませんから」

「そうね。私の筋肉は、その細い綱みたいなものなのよ。膨れ上がった筋肉を、無駄なく凝縮することで、無意味なエネルギー消費も、パワーロスもなくなる。だから、通常以上の力が発揮できるってわけ」

「なるほど~。その『筋縮法』、修行すれば、私でもできますか?」

「う~ん、どうかなあ。適正も必要だし、これは人間の考えた秘術だから、エルフのあなたの体にうまく適合するかは、ちょっとわからないわね」

「そうですか……残念です」

「いや、こんなの、やらない方がいいわよ。前提条件として、大量の筋肉が必要だし、その上、体のサイズを無理に縮めるわけだから、時間もかかる。しかも、慣れるまでが滅茶苦茶痛い。……だいたい、さっきの戦いぶりから察するに、あなたの身体能力は充分に高いと思うから、わざわざ『筋縮法』を使うメリットは少ないと思うわ」

 そこで私の背中は満遍なく洗い流されたので、今度はお返しにと、私がエリスの背中を洗ってあげることにした。

 エリスの肌は、白く、きめ細やかで、そして、柔らかい。一見すると、それほど筋肉がついているようには見えない体だ。実際に触れてみても、ゴツゴツとした感触は一切なく、まるで、指が沈み込むようである。

 私は、ちょっとだけ見惚れてから、咳払いをして、言う。

「あなたの体こそ、武術家とは思えないほど、ほっそりとして(出るところは出てるけど、特に胸)、綺麗ね。よくもこの体で、あれだけの動きができるものだわ」

 私の手つきがくすぐったかったのか、エリスは軽く身をよじり、微笑んだ。

「私、これでも毎日、かなり厳しい鍛錬を積んでいるんですけど、エルフ族の特性で、あまり筋肉がつかないんですよ。だから、魔術で身体能力を強化して戦ってるんです」

「へえ、拳に魔力をまとわせるだけじゃなくて、そんなこともしてたんだ。それも、『エルフ式魔術ボクシング』の技術なの?」

「そうです。本来なら肉弾戦が得意ではないエルフ族が、魔物や多種族の戦士と十二分に渡り合うために考案された身体能力倍化術――その名も『魔闘身』。私たちエルフの潤沢な魔力を体全体に行き渡らせることで、腕力も、俊敏さも、跳躍力も、何倍にも強化して戦うことができるんです」

「なるほどねえ。そりゃ凄いわ。生まれながらに強力で繊細な魔力を持つエルフ族ならではの秘術ね」
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