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第141話(マールセン視点)

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 ……へえ。

 それは素晴らしい。

 僕は、魔法使いになるために『至高なる魔女の会』に入会しただけで、『魔法使い優生思想』のようなくだらない選民思想には何の興味もないし、別に、フェルヴァ・アストラスに心からの忠誠を誓ったわけでもない。

 もちろん、僕と同じ精神異常者である彼女には、奇妙な友情とシンパシーを感じているが、僕は本来、組織に属したり、あれこれ指示されたりするのは好きではない。自由気まま、やりたいことを、やりたいようにやるのが、一番性に合ってる。

 それでも、魔法使いにしてもらってすぐ『はいさよなら』と言うわけにもいかず、建前上は『至高なる魔女の会』に属しているので、昨日までは、勝手な行動は控えていた。派手な動きをしてフェルヴァの不興を買えば、彼女の人知を超えた力によって、たちまちのうちに消されてしまうからだ。

 しかし、『至高なる魔女の会』は、なくなった。

 ということは、僕は自由だ。

 誰の束縛も受けないし、誰に気兼ねする必要もない。

 自由だ。

 生まれて初めての、本当の自由だ。

 馬鹿げた病気も、馬鹿げた親も、馬鹿げた民も、もう、関係ない。
 覚えたての魔法を使って、どこにでも自由に行き、何をしてもいいのだ。

 圧倒的な歓喜に、心と体が打ち震えているのが、よく分かった。

 いや、まったく、今日はなんて素敵な日だろう。

 体調良し。
 気分良し。
 空は晴れ渡り、まるで、僕を祝福してくれているようだ。

 僕は、その日のうちに旅支度を整えると、この国を出た。
 もう、こんな国に留まっている理由は、何ひとつないからだ。

 まずは、故郷に戻って、今でもアンデッドたちがふらふらと町を歩いているか、確かめに行くとしよう。やっぱり、自分の実験の結果は、自分の目でチェックしておかないと。

 毒の霧なら心配ない。今の僕ならその程度、魔法で完璧に防ぐことができる。ふふ、素晴らしい。本当に、魔法使いになって良かった。

 僕は街道を歩きながら、みぞおちの兄上に話しかける。

「楽しいですね、兄上。こうして、兄弟そろって道を歩くなんて、もしかしたら、初めてじゃないですか? ふふ、まるでピクニックみたいですね。楽しいなあ、楽しいなあ。ああ、生きてるって、素晴らしいなあ」

 本当に、全身が震えるほどに、楽しい。
 幸せって、こういうことを言うんだなあ。

 兄上は、顔を震わせて、つぶやいた。

「殺してくれぇ……」
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