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第137話

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 私は、寝ぼけまなこで太陽を見上げ、やや呆けた声を上げる。

「あらら……魔法を解除してる間に、こんなところまで……こりゃ、本当に、もうどうしようもないんじゃないの……?」

 そんな私に、凛々しく声をかける人がいた。

「大丈夫よ。……よく、私にかけられていた『変化の魔法』を解いてくれたわね。さすがだわ。さあ、二人であの太陽を押し返しましょう」

 高い身長。
 すらりと伸びた、長い脚。
 艶のある、長く、美しい黒髪。
 そして、鋭くも気品のある眼差し。

 私の良く知るリーゼルが、順調に成長して大人になったら、こんな感じになるんだろうなという容貌の女性が、私に力強い微笑みを向けていた。

 これが、『変化の魔法』をかけられる前の、本来のリーゼルの姿なのか。リーゼルはかなりの美少女であるから、そりゃ、大人に戻った姿も、相当な美人に違いないとは思っていたが、まさかこれほどとは。

 私は、しばらく見とれてしまい、それから、言葉を紡いでいく。

「あなた、凄い美人さんだったのねぇ」

 我ながら、緊迫した状況に似合わぬ、緩い声だった。
 そんな私に、リーゼルは「どうも」と言うと、迫ってくる太陽を指さす。

「大人に戻って、本来の魔力を取り戻した私とあなたが力を合わせれば、きっとあの太陽を押し戻せるわ。お願い、私の動きにタイミングを合わせて、あなたも魔法を発動させてちょうだい」

「了解。でも、あなたが女の子っぽい言葉遣いしてると、なんか変な感じ」

 そう言いながらも、私はリーゼルの動作に合わせて、まったく同じタイミング、まったく同じ方向性で、魔法を発動させる。

 すると、これまで下降の一途をたどっていた太陽が、ピタリと動きを止めた。太陽はそのまま、数秒間微動だにしなかったが、やがて、かすかに振動を始め、少しずつ、少しずつ、元来た道を戻っていく。

 その、戻っていくスピードにも、だんだんと勢いがついてきた頃、リーゼルが私を見て、一段階大きな声を上げた。

「最後の一押しよ。私の合図にあわせて、これまでで一番強い魔力を込めてちょうだい。3・2・1……今よ!」

 私は頷き、全力で魔力を放出した。

 それで、太陽は下からドンッと押されたみたいに一気に加速し、はるか上空まで飛んでいく。彼はこのまま大気圏を抜け、自由気ままに宇宙を旅するのだろう。
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