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第69話(デルロック視点)

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 そして、ルドウェンと別れてから三時間ほど歩いた頃。
 私はとうとう、この国の都に到達した。

 きらびやかな明かりに包まれた街並みは、我が国の首都とは比べ物にならない華やかさであり、もう夜も遅いのに、信じられないほどの人間が、通りを行き来している。

 なんという繁栄ぶりだ。
 すぐ隣なのに、農業も商業も貧困な我が国とは、大違いだな。

 もっとも、『我が国』なんてものは、もうこの世に存在しない。たったの一日で、重臣も民も死に絶え、残っているのは、わけのわからないアンデッドだけだ。あの毒の霧がいつ消えるのかは分からないが、少なくとも向こう数年間は人間が立ち入ることはできないだろう。

 ……さあ、滅んでしまった国のことはもういい。

 今日は本当に、疲れ切ってしまった。
 もうなんでもいいから眠りたい気分だ。

 だが、着の身着のままで出てきたので、王族が滞在するのにふさわしい、しっかりとした宿に泊まれるような金は持っていない。かといって、貧乏人どもが寝起きしているようなボロ宿はごめんだ。

 よし、とりあえず、この町のトップにでも会って、事情を説明し、それなりの寝床を用意してもらおう。これからのことは、明日、考えればいい。

 そう思い、私は役所に向かった。

 だが……

「あなたが本当に、隣国の王だとおっしゃるのなら、何か身分を証明できるものはありますか?」

 役所の人間は、そう言って、私に疑いの眼差しを向けてきた。……私は、黙るしかなかった。身分を証明できるものなど、ひとつも持っていないからだ。そもそも、私が王になったのは昨日の夜であり、まだ即位の式典も済んでいない。

 それに、父上の代から、外交は外務大臣に任せきりだったので、この国の人間たちは私の顔を知らない。『私は昨日即位したばかりの新王である。残念なことに即位後たった一日で国が滅亡したので逃げてきたのだ』と主張したところで、誰も信じないだろう。私ですら、現在起こっていることが、悪い夢ではないかと思っているくらいだ。

 私はすぐに、役所の人間を説得することを諦めた。
 代わりに、良いアイディアを思いついたからだ。

 それは、昨日追放した我が弟、マールセンを利用することである。

 追放されたマールセンも、恐らくは、この隣国に来たはずだ。我が国から最も近く、そして、最も友好的な国だからな。聡いマールセンなら、この国の重臣たちに連絡をつけて、今頃屋敷のひとつでも提供されているかもしれない。私は、そのマールセンを頼ることにした。
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