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第42話

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「そう。自分たちを神か何かと勘違いした、思いあがった魔法使いたちによる、狂った差別思想だ。『至高なる魔女の会』を設立したのは、自分自身を『至高なる魔女』と称する、天才的な魔法使いだった。……もっとも、彼女はもう、会を抜けたけどね」

「ふうん。でも、『魔法使い優生思想』って、魔法を使えない人たちにとってはとてつもなく危険な思想だから、会合なんて開いてたら、激しい弾圧を受けるか、厳罰に処せられるんじゃないの?」

「当然、そうなるな。だから、『至高なる魔女の会』は、表向きは、魔法を使って人々を助けるボランティア団体ってことになってる。名称は『魔法で市民の皆さんを幸せにする会』だ。インチキ臭くて、馬鹿みたいだろ」

「そ、そうね。人畜無害な名前すぎて、逆に怪しいわ……」

「でもな、どんなに嘘くさくても、外面が良いってのは、けっこう重要なことなんだよ。それに『魔法で市民の皆さんを幸せにする会』は、実際に奉仕活動をして市民の役に立ってる。何人かは、王宮に呼ばれて表彰されたくらいさ。だから今、この国で『魔法で市民の皆さんを幸せにする会』を疑う人間は、ほぼゼロだ」

「な、なるほど。単純で地味な方法だけど、実際に、名前の通りに奉仕活動をして、市民の皆さんを幸せにしてるなら、そりゃ、疑われるどころか、好かれるわよね」

「ああ。だが、『魔法で市民の皆さんを幸せにする会』の裏で、『至高なる魔女の会』は、着々と手駒を増やして、魔法使いによる世界支配を企んでるんだ」

「手駒を増やすって? どうやってるの? 積極的な勧誘?」

 私の問いを受け、リーゼルの顔が急に厳しくなった。彼女は、自分の心を落ち着けようとするみたいに、二度、深呼吸をおこない、それから話を再開する。

「そんな、お優しい方法じゃない。奴らは、人造魔導師を量産してるんだ」

「人造魔導師……自分たちで、魔法使いを作ってるってこと? 一応聞くけど、魔法使い同士を結婚させて、その子供が育つのを待ってるとか、そんな、気の長い話じゃないわよね」

「当たり前だ。『人造魔導師』って言うと、ゼロから魔導師を作ってるみたいに聞こえるが、実際は違う。奴らは、表向きの顔――『魔法で市民の皆さんを幸せにする会』の活動に賛同して入会した一般人に特殊な手術を施し、魔法使いに改造してるんだよ」

 一般人を魔法使いに改造……か。
 うーむ……いかにも秘密結社っぽい感じになってきたわね。

 魔法の才能とは、そのほぼすべてが先天性のものであり、後天的に魔法の才能を授かることは、これまでほとんど不可能だと言われてきた。しかし、何年か前に発表された論文で、脳に特殊な手術を施し、一般人を魔法使いにすることに成功したという事例を、読んだことがある。

 だが……

「ねえ、確か、一般人を魔法使いにする手術って、成功率がめちゃくちゃ低い上に、失敗すると死ぬか廃人同然になっちゃうから、危険すぎるってことで、世界的に禁止されてなかったっけ?」
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