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第9話

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 でも、こんな状況でもただ茫然としてはおらず、次々と料理を口に運んでいくあたり、なかなかにたくましい両親だと思う。私も二人を見習って食事を続け、そろそろお腹いっぱいというところで、お母様がぽつりと口を開いた。

「まあ、いいんじゃないですか」

 えっ?
 今なんて言った?

 まあ、いいんじゃないですか――

 そう言った。

 私の行動を容認してくれたということではあるだろうが、相変わらず、怒っているのか呆れているのか、それとも純粋に許してくれたのか、声の抑揚がなさ過ぎてどうにもわからない。

 だから、なんて言葉を返せばいいのか分からずに黙っていると、私の代わりというわけでもないだろうが、普段は口数の少ないお母様が、淡々と言葉を紡いでいく。

「私はもともと良い気はしていなかったんですよ。ウォード家は名家ですが、明らかにそれを鼻にかけているところがありますからね。現当主のラスールは言葉の節々に厭味をきかせてきて、ハッキリ言って不愉快な男です。それでも力のある家ですから、良い関係を築くのは大事だと思っていました」

 お母様はそこで一度お茶を飲むと、カップを置くのと同時に語りを再開する。

「ウォード家の長男エリックとクリスタが親密になり、先方が婚約の話を持ってきたときも迷いましたが、エリックはラスールに比べるとずっとまともだったし、若い二人に好き合う気持ちがあるのならこれも一つの良縁なのだろうと信じました。しかし、所詮蛙の子は蛙。エリックもまた、いやらしいウォード家の男だったということでしょう」

 お母様の語りはまだまだ止まらない。普段寡黙な分を一気に取り戻そうとするかのように、やや興奮気味に喋り続ける。

「婚約者とのデートに馬鹿な妹を延々と連れてくるとか、女を侮るにもほどがあります。クリスタ、あなたも悔しかったでしょうに、両家の間にトラブルを起こすまいと我慢してくれていたのですね。愛する娘の心痛に気づきもしなかった自分を恥じ入るばかりです。私は愚かな母親でした……」

「お母様……」

 普段は感情を表に出すことのないお母様が、こんなにも私のことを愛してくれていたなんて……。私は何か言葉を返そうとするが、胸がいっぱいで、唇が震えて、うまく台詞にならない。とにかく今は、ただただ嬉しかった。そんな私の代わりに、お父様がお母様に問いかけた。

「お、お前、どうしたんだ。今日一日で一年分の言葉を喋る気なのか?」

「これが喋らずにいられますか。よく考えてください、あなた。言うなれば、クリスタはウォード家から侮辱されたも同然なのですよ。婚約破棄は当然として、フォーリー家の当主であるあなたから、ウォード家の当首であるラスールに謝罪を求めるべきですわ」
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