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エピローグ1
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ジェランドさんと共に故郷の町を旅立ってから、早くも一年の時が流れた。
列車、汽船、馬、時にはラクダにまで乗り、世界各地を回る旅は、大変なことも沢山あったが、それまで鳥籠のように小さな世界で生きていた私に、日々新鮮な驚きと感動を与えてくれた。
何より、いつ、どんな時も、隣には愛しい人がいる。
これ以上の幸福はない。
私とジェランドさんは、今日、立ち寄った町の、異国情緒あふれる教会で、簡素な結婚式を挙げた。神父様の前で誓いのキスをし、ジェランドさんと見つめ合うと、本当に、彼と夫婦になれたのだという実感が湧いてくる。
私たちは、真の意味で、人生の伴侶となった。
これからも世界をめぐり、いつか、二人で安住できる楽園を探しだすのだ。
……いえ、楽園なんて、見つからなくてもいい。
ジェランドさんと一緒なら、ずっとずっと、世界中を飛び回り続ける生活だって、構わない。私は、気がついた。私にとって、どこで生きるかは、それほど重要じゃないことに。
大切なのは、『誰と』生きるかだ。
ジェランドさんと生きること。
それこそが、私の楽園なのだ。
世界でただ一人、心の底から愛せる人に出会えた喜びを、私は深く深く噛みしめていた。
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そして夜。
宿屋にて、肩を寄せ合うようにしながら、私たちはベッドに腰かけていた。夫婦としての初めての夜……私の肩に触れる彼の肩から、いつも以上に熱い体温を感じて、私は、はしたなくも高揚する感情を抑えきれなかった。どちらからともなく口づけをかわし、愛の言葉を囁き合う。
……しかし、その最中、どうにも気になることがあり、私は一旦愛の営みを止め、ジェランドさんに物申した。
「あの、ジェランドさん。私たち、もう夫婦なんだから、いい加減にその、『レオノーラ様』っていうの、やめません?」
そう。今私が述べた通り、ジェランドさんは一年たった今でも、『レオノーラ様』と、私を『様』づけで呼ぶのである。執事であった頃の癖がなかなか抜けないのか、一度敬称をつけた相手を呼び捨てにすることに、ちょっと抵抗があるらしい。
ジェランドさんは照れくさそうに微笑み、言う。
「そう言われましても、急にレオノーラ様を呼び捨てにするのは、なんだか気恥ずかしくて……それに、レオノーラ様も私のことを、相変わらず『さん』づけで呼ぶじゃないですか」
うっ。
それは確かに、その通りだ。
私もまた、ジェランドさんを呼び捨てにするのがなんだか照れくさくて、私たちは、とうとう結婚するまで、『レオノーラ様』『ジェランドさん』と、やや他人行儀に呼び合う、奇妙な恋人関係だった。
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……いえ、楽園なんて、見つからなくてもいい。
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うっ。
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