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第34話
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私は微笑して、言う。
「私のことが好きなら、このままなんとかして、逃がしてくれるって選択肢はないの?」
エミリーナも微笑して、言葉を返す。
「それは無理よ。……今、言ったでしょ? 私も薄汚い、最低な連中の一人だもの。今さら良い子には戻れないわ」
「そう、残念だわ、本当に」
「ええ、本当にね。さあ、いつまでも身体検査をしていたら、ガンアインが怪しむわ。そろそろ決めてちょうだい。誇りを守って死ぬか、それとも、気高さを捨て、弄ばれ、囚われの身となってでも生き延びるか」
私は、言った。
「どっちもお断りよ」
そして、自らの懐へと手を伸ばす。
エミリーナと喋っている間に、腕の動きは随分と良くなっており、握力はほとんど元通りになっていた。私は、懐に隠していた卵サイズの水晶――メイナード先生から手渡された魔導具を、強く握る。
昨日、メイナード先生は、こう言っていた。
『この水晶には、私の魔力が込められています。ディアルデン家で、何か危ない状況に陥ったときは、これを握って『解放』と念じてください。そうすれば、危機を脱することができるはずです』
まさに、今がその時だ。
どうやって危機を脱するのかは分からないが、もはやこの魔導具以外に、私の助けとなるものは存在しない。私は渾身の願いを込め、念じると同時に、叫んだ。
「解放!」
その瞬間、辺りは眩い光りに包まれる。
まぶしい。
まぶしい。
とても、目を開けていられない。
そして、意識を保つことすら難しい。
まるで、真っ白な光が、頭の中にまで入ってくるような感じだ。
ガンアイン氏とチェスタスが何か喚いているが、ほとんど聞き取れない。
いったい、何が起こっているの?
一瞬、もの凄い攻撃魔法が発動したのかと思ったが、その場合は、私の体にも何らかの衝撃がくるはずだから、そういうわけではないらしい。だいたい、閃光が広がって意識が遠くなる攻撃魔法なんて、聞いたこともない。
これで本当に、状況が好転するの?
……いや、メイナード先生が『危機を脱することができる』と言ったのだ。
ならば、信じよう。
きっと、なんとかなる。
いつの間にか私は、完全に気を失っていた。
・
・
・
次に気がついた時、私はとても天井の高い、荘厳な装飾が施された部屋にいた。
部屋の中は広々とし、天窓から太陽の光が注ぎ込んでいる。
どう考えてもここは、これまで私がいたディアルデン家の地下室ではない。
「私のことが好きなら、このままなんとかして、逃がしてくれるって選択肢はないの?」
エミリーナも微笑して、言葉を返す。
「それは無理よ。……今、言ったでしょ? 私も薄汚い、最低な連中の一人だもの。今さら良い子には戻れないわ」
「そう、残念だわ、本当に」
「ええ、本当にね。さあ、いつまでも身体検査をしていたら、ガンアインが怪しむわ。そろそろ決めてちょうだい。誇りを守って死ぬか、それとも、気高さを捨て、弄ばれ、囚われの身となってでも生き延びるか」
私は、言った。
「どっちもお断りよ」
そして、自らの懐へと手を伸ばす。
エミリーナと喋っている間に、腕の動きは随分と良くなっており、握力はほとんど元通りになっていた。私は、懐に隠していた卵サイズの水晶――メイナード先生から手渡された魔導具を、強く握る。
昨日、メイナード先生は、こう言っていた。
『この水晶には、私の魔力が込められています。ディアルデン家で、何か危ない状況に陥ったときは、これを握って『解放』と念じてください。そうすれば、危機を脱することができるはずです』
まさに、今がその時だ。
どうやって危機を脱するのかは分からないが、もはやこの魔導具以外に、私の助けとなるものは存在しない。私は渾身の願いを込め、念じると同時に、叫んだ。
「解放!」
その瞬間、辺りは眩い光りに包まれる。
まぶしい。
まぶしい。
とても、目を開けていられない。
そして、意識を保つことすら難しい。
まるで、真っ白な光が、頭の中にまで入ってくるような感じだ。
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いったい、何が起こっているの?
一瞬、もの凄い攻撃魔法が発動したのかと思ったが、その場合は、私の体にも何らかの衝撃がくるはずだから、そういうわけではないらしい。だいたい、閃光が広がって意識が遠くなる攻撃魔法なんて、聞いたこともない。
これで本当に、状況が好転するの?
……いや、メイナード先生が『危機を脱することができる』と言ったのだ。
ならば、信じよう。
きっと、なんとかなる。
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・
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・
次に気がついた時、私はとても天井の高い、荘厳な装飾が施された部屋にいた。
部屋の中は広々とし、天窓から太陽の光が注ぎ込んでいる。
どう考えてもここは、これまで私がいたディアルデン家の地下室ではない。
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