20 / 57
第20話
しおりを挟む
今までの甲高い声とは毛色が違う、迫力のある低い声にやや圧倒されながらも、私は平静を装って、答える。
「言った通りの意味です。……あまり、露骨な表現は使わない方がいいでしょう? どこで、誰が聞き耳を立てているか分かりませんから」
ガンアイン氏は、笑った。
「ほほ、確かにその通りだ。なるほど、口利き……んん~……口利きかぁ……奥ゆかしくて、良い表現だねぇ。ほほほ、気に入ったよ、ほほほほほ」
……『不正入学』を『口利き』と言い換えるのがよほど気に入ったのか、その後も十秒ほど、ガンアイン氏は『ほほほほほ』と笑い続けた。そして、ピシャリと笑うのをやめると、先程以上に真剣な目で私を見つめ、言う。
「そうだねぇ、確かにワシは、王立高等貴族院の理事長と仲が良い。だから、多少は『口利き』らしきことをしてあげることも、できるかもしれない」
「ほ、本当ですか?」
「だが、それには二つ、条件がある」
「……なんでしょう?」
「きみの言う、『王立高等貴族院に転入したがってる私の友達』とやらが、きみにとって、非常に近しい人間である必要がある。付き合いの浅い人間は、信用ならない。後になって、あれこれ吹聴して回られては、困ってしまうからねぇ」
「そう……ですね。では、もう一つの条件は?」
「うん。持って回った言い方をしてもしょうがないから、ハッキリ言おう。……金だよ。本来の制度を曲げて口利きをするということは、このワシも、王立高等貴族院の理事長も、かなりのリスクを背負うことになる。だから、それ相応の見返りを期待するのは、当然だと思わんかね?」
私は、頷いた。
頷きながら、歯がゆさに唇を噛む。
ああ、これまでの会話を全部記録できていたら、動かぬ証拠になったのに。
しかし、『音を記録する』などという奇跡みたいなことができるのは、王宮に仕える優秀な宮廷魔導師たちの中でも、一握りの天才だけなのだから、まだ勉強中の学生である私に、そんなことができるはずがない。
だから今、できもしないことを悔やんでも、仕方ない。とにかく、この男――ガンアイン氏が大金を受け取って不正入学をおこなっていたことは、ハッキリした。後は証拠。決定的な証拠を、絶対に掴んでやるわ。
悔しそうに顔を伏せ、黙っている私を見て、ガンアイン氏は何かを勘違いしたのか、慰めるように優しく、そしていやらしく、言う。
「おやおやおやおやおやおや、お金を用意できるか、不安なんだね? わかるよ、わかるわかる。大っぴらにはできないことだから、おうちの人には内緒で、自分のお財布から、出さなきゃいけないもんねぇ」
「え、ええ、まあ、そうですね……」
「言った通りの意味です。……あまり、露骨な表現は使わない方がいいでしょう? どこで、誰が聞き耳を立てているか分かりませんから」
ガンアイン氏は、笑った。
「ほほ、確かにその通りだ。なるほど、口利き……んん~……口利きかぁ……奥ゆかしくて、良い表現だねぇ。ほほほ、気に入ったよ、ほほほほほ」
……『不正入学』を『口利き』と言い換えるのがよほど気に入ったのか、その後も十秒ほど、ガンアイン氏は『ほほほほほ』と笑い続けた。そして、ピシャリと笑うのをやめると、先程以上に真剣な目で私を見つめ、言う。
「そうだねぇ、確かにワシは、王立高等貴族院の理事長と仲が良い。だから、多少は『口利き』らしきことをしてあげることも、できるかもしれない」
「ほ、本当ですか?」
「だが、それには二つ、条件がある」
「……なんでしょう?」
「きみの言う、『王立高等貴族院に転入したがってる私の友達』とやらが、きみにとって、非常に近しい人間である必要がある。付き合いの浅い人間は、信用ならない。後になって、あれこれ吹聴して回られては、困ってしまうからねぇ」
「そう……ですね。では、もう一つの条件は?」
「うん。持って回った言い方をしてもしょうがないから、ハッキリ言おう。……金だよ。本来の制度を曲げて口利きをするということは、このワシも、王立高等貴族院の理事長も、かなりのリスクを背負うことになる。だから、それ相応の見返りを期待するのは、当然だと思わんかね?」
私は、頷いた。
頷きながら、歯がゆさに唇を噛む。
ああ、これまでの会話を全部記録できていたら、動かぬ証拠になったのに。
しかし、『音を記録する』などという奇跡みたいなことができるのは、王宮に仕える優秀な宮廷魔導師たちの中でも、一握りの天才だけなのだから、まだ勉強中の学生である私に、そんなことができるはずがない。
だから今、できもしないことを悔やんでも、仕方ない。とにかく、この男――ガンアイン氏が大金を受け取って不正入学をおこなっていたことは、ハッキリした。後は証拠。決定的な証拠を、絶対に掴んでやるわ。
悔しそうに顔を伏せ、黙っている私を見て、ガンアイン氏は何かを勘違いしたのか、慰めるように優しく、そしていやらしく、言う。
「おやおやおやおやおやおや、お金を用意できるか、不安なんだね? わかるよ、わかるわかる。大っぴらにはできないことだから、おうちの人には内緒で、自分のお財布から、出さなきゃいけないもんねぇ」
「え、ええ、まあ、そうですね……」
2
お気に入りに追加
1,279
あなたにおすすめの小説
【完結】恋人との子を我が家の跡取りにする? 冗談も大概にして下さいませ
水月 潮
恋愛
侯爵家令嬢アイリーン・エヴァンスは遠縁の伯爵家令息のシリル・マイソンと婚約している。
ある日、シリルの恋人と名乗る女性・エイダ・バーク男爵家令嬢がエヴァンス侯爵邸を訪れた。
なんでも彼の子供が出来たから、シリルと別れてくれとのこと。
アイリーンはそれを承諾し、二人を追い返そうとするが、シリルとエイダはこの子を侯爵家の跡取りにして、アイリーンは侯爵家から出て行けというとんでもないことを主張する。
※設定は緩いので物語としてお楽しみ頂けたらと思います
☆HOTランキング20位(2021.6.21)
感謝です*.*
HOTランキング5位(2021.6.22)
【完結】王女様がお好きなら、邪魔者のわたしは要らないですか?
曽根原ツタ
恋愛
「クラウス様、あなたのことがお嫌いなんですって」
エルヴィアナと婚約者クラウスの仲はうまくいっていない。
最近、王女が一緒にいるのをよく見かけるようになったと思えば、とあるパーティーで王女から婚約者の本音を告げ口され、別れを決意する。更に、彼女とクラウスは想い合っているとか。
(王女様がお好きなら、邪魔者のわたしは身を引くとしましょう。クラウス様)
しかし。破局寸前で想定外の事件が起き、エルヴィアナのことが嫌いなはずの彼の態度が豹変して……?
小説家になろう様でも更新中
私が消えた後のこと
藍田ひびき
恋愛
クレヴァリー伯爵令嬢シャーロットが失踪した。
シャーロットが受け取るべき遺産と爵位を手中にしたい叔父、浮気をしていた婚約者、彼女を虐めていた従妹。
彼らは自らの欲望を満たすべく、シャーロットの不在を利用しようとする。それが破滅への道とも知らずに……。
※ 6/3 後日談を追加しました。
※ 6/2 誤字修正しました。ご指摘ありがとうございました。
※ なろうにも投稿しています。
【完結】妹が旦那様とキスしていたのを見たのが十日前
地鶏
恋愛
私、アリシア・ブルームは順風満帆な人生を送っていた。
あの日、私の婚約者であるライア様と私の妹が濃厚なキスを交わすあの場面をみるまでは……。
私の気持ちを裏切り、弄んだ二人を、私は許さない。
アリシア・ブルームの復讐が始まる。
彼を追いかける事に疲れたので、諦める事にしました
Karamimi
恋愛
貴族学院2年、伯爵令嬢のアンリには、大好きな人がいる。それは1学年上の侯爵令息、エディソン様だ。そんな彼に振り向いて欲しくて、必死に努力してきたけれど、一向に振り向いてくれない。
どれどころか、最近では迷惑そうにあしらわれる始末。さらに同じ侯爵令嬢、ネリア様との婚約も、近々結ぶとの噂も…
これはもうダメね、ここらが潮時なのかもしれない…
そんな思いから彼を諦める事を決意したのだが…
5万文字ちょっとの短めのお話で、テンポも早めです。
よろしくお願いしますm(__)m
長年の婚約者は政略結婚の私より、恋愛結婚をしたい相手がいるようなので、消えてあげようと思います。
神崎 ルナ
恋愛
【奨励賞頂きましたっ( ゚Д゚) ありがとうございます(人''▽`)】 コッペリア・マドルーク公爵令嬢は、王太子アレンの婚約者として良好な関係を維持してきたと思っていた。
だが、ある時アレンとマリアの会話を聞いてしまう。
「あんな堅苦しい女性は苦手だ。もし許されるのであれば、君を王太子妃にしたかった」
マリア・ダグラス男爵令嬢は下級貴族であり、王太子と婚約などできるはずもない。
(そう。そんなに彼女が良かったの)
長年に渡る王太子妃教育を耐えてきた彼女がそう決意を固めるのも早かった。
何故なら、彼らは将来自分達の子を王に据え、更にはコッペリアに公務を押し付け、自分達だけ遊び惚けていようとしているようだったから。
(私は都合のいい道具なの?)
絶望したコッペリアは毒薬を入手しようと、お忍びでとある店を探す。
侍女達が話していたのはここだろうか?
店に入ると老婆が迎えてくれ、コッペリアに何が入用か、と尋ねてきた。
コッペリアが正直に全て話すと、
「今のあんたにぴったりの物がある」
渡されたのは、小瓶に入った液状の薬。
「体を休める薬だよ。ん? 毒じゃないのかって? まあ、似たようなものだね。これを飲んだらあんたは眠る。ただし」
そこで老婆は言葉を切った。
「目覚めるには条件がある。それを満たすのは並大抵のことじゃ出来ないよ。下手をすれば永遠に眠ることになる。それでもいいのかい?」
コッペリアは深く頷いた。
薬を飲んだコッペリアは眠りについた。
そして――。
アレン王子と向かい合うコッペリア(?)がいた。
「は? 書類の整理を手伝え? お断り致しますわ」
※お読み頂きありがとうございます(人''▽`) hotランキング、全ての小説、恋愛小説ランキングにて1位をいただきました( ゚Д゚)
(2023.2.3)
ありがとうございますっm(__)m ジャンピング土下座×1000000
※お読みくださり有難うございました(人''▽`) 完結しました(^▽^)
愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
婚約破棄したので、元の自分に戻ります
しあ
恋愛
この国の王子の誕生日パーティで、私の婚約者であるショーン=ブリガルドは見知らぬ女の子をパートナーにしていた。
そして、ショーンはこう言った。
「可愛げのないお前が悪いんだから!お前みたいな地味で不細工なやつと結婚なんて悪夢だ!今すぐ婚約を破棄してくれ!」
王子の誕生日パーティで何してるんだ…。と呆れるけど、こんな大勢の前で婚約破棄を要求してくれてありがとうございます。
今すぐ婚約破棄して本来の自分の姿に戻ります!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる