上 下
13 / 19

第13話(ウルナイト視点)

しおりを挟む
「……大臣たちも、全滅です。父上と同じく、皆、丸々と太っていましたからね。誰も彼も、他人を押しのけて逃げようとしていましたが、足が遅すぎて、結局は無駄な努力でした。全員、ひと噛みで魔獣にやられてしまいましたよ」

「なるほど。ここに来るまでに、何匹か魔獣を見ましたが、彼らの俊敏な動きは見事でした。ふふ、堕落し、太った人間の動きなど、彼らにとっては止まって見えたことでしょう」

 緊急事態にもかかわらず、微笑を浮かべ、余裕のあるハーディン。その態度に、頼もしさを感じるのと同時に、少々苛立った僕は、大きく声を荒げる。

「魔獣を褒めてどうするのです! さあ、もうおしゃべりは充分でしょう! 早く魔獣どもを全員殺してきなさい! そのために、一度は国外追放したあなたを、わざわざ呼び戻したのですよ!」

「そうでしたね。あなたと国王陛下は、何かと諫言をする私を、『不愉快だ』『不敬である』『身の程をわきまえろ』と言い、追放したのでしたね。……そしてあなたたちは、あの聖女ラスティーナ様をも追放してしまった。この国のために、あんなに頑張っていた女性を。……なんて、罪深いことでしょう」

「な、なんです。なぜ今、そんな話をするのですか? あなたまさか、追放された恨みを晴らすために、今こうして、やって来たわけではないでしょうね?」

 ハーディンは、首を左右に振り、言う。

「いいえ。追放されたとはいえ、かつては仕えていた国ですから、そのような不義理は致しません。しかし私は、魔獣を駆逐するために来たのでもありません。……と言うより、あの魔獣は、われわれ人間の手で、どうこうできるような存在ではないのです」

「ど、どういうことですか……? あなた、魔獣について、何か知っているのですか……?」

 僕の問いに、ハーディンはどこか遠くを見つめるようにして、答える。

「もう何十年前になるでしょうか……はるか遠くの国で、一兵士として働いていた私は、一度だけ、魔獣を見たことがあるのです。魔獣は、ある日突然現れ、それまで国の内外で暴れていた魔物や、邪悪な心を持った人間たちを根こそぎ始末すると、まるで最初からいなかったかのように、消えてしまいました」

「…………」

「その国の神官たちが言うには、魔獣は神の使いであり、時として人の世に顕現し、人間の心を試すそうです。……心優しく、誠実な人間には恵みを。そして、身勝手で、利己的な人間には罰を与えるという形で」

「では、あなたはこう言いたいのですか? 今魔獣が暴れているのは、身勝手で利己的なバグマルス王国の人間に、罰を与えるためだと」

「そういうことになってしまいますね。しかし、まだこの国は滅び切っていない。魔獣はきっと、この国の人間に、悔い改めるチャンスをくれているのだと思います。だから私は、その事実を伝え、皆を諫めるために戻って来たのです」
しおりを挟む
感想 68

あなたにおすすめの小説

聖女追放 ~私が去ったあとは病で国は大変なことになっているでしょう~

白横町ねる
ファンタジー
聖女エリスは民の幸福を日々祈っていたが、ある日突然、王子から解任を告げられる。 王子の説得もままならないまま、国を追い出されてしまうエリス。 彼女は亡命のため、鞄一つで遠い隣国へ向かうのだった……。 #表紙絵は、もふ様に描いていただきました。 #エブリスタにて連載しました。

聖女らしくないと言われ続けたので、国を出ようと思います

菜花
ファンタジー
 ある日、スラムに近い孤児院で育ったメリッサは自分が聖女だと知らされる。喜んで王宮に行ったものの、平民出身の聖女は珍しく、また聖女の力が顕現するのも異常に遅れ、メリッサは偽者だという疑惑が蔓延する。しばらくして聖女の力が顕現して周囲も認めてくれたが……。メリッサの心にはわだかまりが残ることになった。カクヨムにも投稿中。

ある、義妹にすべてを奪われて魔獣の生贄になった令嬢のその後

オレンジ方解石
ファンタジー
 異母妹セリアに虐げられた挙げ句、婚約者のルイ王太子まで奪われて世を儚み、魔獣の生贄となったはずの侯爵令嬢レナエル。  ある夜、王宮にレナエルと魔獣が現れて…………。  

嘘つきと呼ばれた精霊使いの私

ゆるぽ
ファンタジー
私の村には精霊の愛し子がいた、私にも精霊使いとしての才能があったのに誰も信じてくれなかった。愛し子についている精霊王さえも。真実を述べたのに信じてもらえず嘘つきと呼ばれた少女が幸せになるまでの物語。

豊穣の巫女から追放されたただの村娘。しかし彼女の正体が予想外のものだったため、村は彼女が知らないうちに崩壊する。

下菊みこと
ファンタジー
豊穣の巫女に追い出された少女のお話。 豊穣の巫女に追い出された村娘、アンナ。彼女は村人達の善意で生かされていた孤児だったため、むしろお礼を言って笑顔で村を離れた。その感謝は本物だった。なにも持たない彼女は、果たしてどこに向かうのか…。 小説家になろう様でも投稿しています。

だから聖女はいなくなった

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」 レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。 彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。 だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。 キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。 ※7万字程度の中編です。

女神に頼まれましたけど

実川えむ
ファンタジー
雷が光る中、催される、卒業パーティー。 その主役の一人である王太子が、肩までのストレートの金髪をかきあげながら、鼻を鳴らして見下ろす。 「リザベーテ、私、オーガスタス・グリフィン・ロウセルは、貴様との婚約を破棄すっ……!?」 ドンガラガッシャーン! 「ひぃぃっ!?」 情けない叫びとともに、婚約破棄劇場は始まった。 ※王道の『婚約破棄』モノが書きたかった…… ※ざまぁ要素は後日談にする予定……

(完)聖女様は頑張らない

青空一夏
ファンタジー
私は大聖女様だった。歴史上最強の聖女だった私はそのあまりに強すぎる力から、悪魔? 魔女?と疑われ追放された。 それも命を救ってやったカール王太子の命令により追放されたのだ。あの恩知らずめ! 侯爵令嬢の色香に負けやがって。本物の聖女より偽物美女の侯爵令嬢を選びやがった。 私は逃亡中に足をすべらせ死んだ? と思ったら聖女認定の最初の日に巻き戻っていた!! もう全力でこの国の為になんか働くもんか! 異世界ゆるふわ設定ご都合主義ファンタジー。よくあるパターンの聖女もの。ラブコメ要素ありです。楽しく笑えるお話です。(多分😅)

処理中です...