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第9話
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そして、こちらが笑顔になると、周囲の態度も徐々に変わってくるもので、宿の旦那さんやおかみさん、そして、お客さんたちとも、にこやかにコミュニケーションが取れるようになり、仕事がスムーズにいくようになった。
笑顔で人と接することで、行動範囲も増え、嬉しいことに何人か友達もできた。今まで、友達らしい友達なんて一人もいなかった私にとって、それはとても新鮮で、楽しいことだった。
これまでの苦しい日々が、まるで悪い夢だったかのように、すべてが順調だった。……人間って、自分一人ではなかなか変わることができないけど、たった一度、誰かと話をするだけで、生き方を改めることができるものなのね。
そして、生き方を改めることで、運命も好転する――
あの日、少々強引に飲みに誘ってくれたアンディに、私は心から感謝した。
・
・
・
それからしばらく経った、ある日のこと。
朝の仕事を終え、休憩時間に入った私は、自室で一人、本を読んでいた。
コンコン。
やや強めの、ノックの音。
これは、アンディのノックだ。
ノックの音にも、人によって個性があるから、すぐにわかる。
私は本にしおりを挟んで、閉じ、言う。
「どうぞ、アンディ。入ってちょうだい」
アンディはすぐに扉を開け、中に入ってくると、少し興奮気味に、私のそばに駆けよって来た。
「ラスティーナ、これ、見てくれよ」
アンディの言う『これ』とは、新聞のことだった。小さな地方紙ではあるが、近隣国の情報も詳しく掲載されている、なかなかの優れものである。
ちなみに、私とアンディは、今では呼び捨てで名前を言い合う仲だ。ほとんど同い年で、気安い彼とは、かしこまって『さん』づけするより、こっちの方がしっくりくる。……それに、『さん』づけしないほうが、よりアンディと親密になれたような気がして、ちょっとだけ嬉しかった。
さて、話を戻そう。
『これ、見てくれよ』と言われた通り、アンディが机に広げた新聞を、私は見る。
……今日も我が国は平和だ。
『ミロット村の牧場で、三つ子のヤギが誕生』
『イチゴ農家のベンサムさんが100歳の誕生日を迎えた』
『落とし物を届けた心優しい少年に、市長から感謝状授与』
いかにも地方紙らしい、のんびりとしたニュースばかりである。私は小さくあくびをかき、新聞の記事をトントンと指でつつきながら、アンディに言う。
「このニュースが、どうかしたの?」
「違う違う、そっちじゃない。見てほしいのは、こっちの記事だよ」
言われて、アンディの指さした記事を見る。
思わず、「あっ」と声が出た。
記事の見出しに、こう書かれていたからだ。
『バグマルス王国、魔獣の暴走で、壊滅状態』
笑顔で人と接することで、行動範囲も増え、嬉しいことに何人か友達もできた。今まで、友達らしい友達なんて一人もいなかった私にとって、それはとても新鮮で、楽しいことだった。
これまでの苦しい日々が、まるで悪い夢だったかのように、すべてが順調だった。……人間って、自分一人ではなかなか変わることができないけど、たった一度、誰かと話をするだけで、生き方を改めることができるものなのね。
そして、生き方を改めることで、運命も好転する――
あの日、少々強引に飲みに誘ってくれたアンディに、私は心から感謝した。
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それからしばらく経った、ある日のこと。
朝の仕事を終え、休憩時間に入った私は、自室で一人、本を読んでいた。
コンコン。
やや強めの、ノックの音。
これは、アンディのノックだ。
ノックの音にも、人によって個性があるから、すぐにわかる。
私は本にしおりを挟んで、閉じ、言う。
「どうぞ、アンディ。入ってちょうだい」
アンディはすぐに扉を開け、中に入ってくると、少し興奮気味に、私のそばに駆けよって来た。
「ラスティーナ、これ、見てくれよ」
アンディの言う『これ』とは、新聞のことだった。小さな地方紙ではあるが、近隣国の情報も詳しく掲載されている、なかなかの優れものである。
ちなみに、私とアンディは、今では呼び捨てで名前を言い合う仲だ。ほとんど同い年で、気安い彼とは、かしこまって『さん』づけするより、こっちの方がしっくりくる。……それに、『さん』づけしないほうが、よりアンディと親密になれたような気がして、ちょっとだけ嬉しかった。
さて、話を戻そう。
『これ、見てくれよ』と言われた通り、アンディが机に広げた新聞を、私は見る。
……今日も我が国は平和だ。
『ミロット村の牧場で、三つ子のヤギが誕生』
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いかにも地方紙らしい、のんびりとしたニュースばかりである。私は小さくあくびをかき、新聞の記事をトントンと指でつつきながら、アンディに言う。
「このニュースが、どうかしたの?」
「違う違う、そっちじゃない。見てほしいのは、こっちの記事だよ」
言われて、アンディの指さした記事を見る。
思わず、「あっ」と声が出た。
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○○○○○○○○○○
誤字脱字ご容赦下さい。もし電波な転生者に貴族の令嬢が絡まれたら。攻略対象と思われてる男性もガッチリ貴族思考だったらと考えて書いてみました。ゆっくりペースになりそうですがよろしければ是非。
閲覧、しおり、お気に入りの登録ありがとうございました(*´ω`*)
何となくねっとりじわじわな感じになっていたらいいのにと思ったのですがどうなんでしょうね?
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