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第1話

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「ローラリア、すまないが、他に好きな人ができた。おまえとはここまでだ」

 ブライアンは、まったく悪びれず、そう言った。
 私はごく自然な態度で、「はあ、そうなんですか」とだけ言葉を返す。

 怒りも、悲しみも、ほんの少しの嫉妬心もない。
 私はもう、ブライアンのことを、なんとも思っていないからだ。

 ……いや、『もう』というのはおかしいか。婚約を結んだ当時から、彼のことなど、別に好きでもなんでもなかったものね。

 私とブライアンの婚約は、両家の政治的思惑が絡んだ、いわゆる『政略結婚』の一種であった。お父様に、ブライアンとの婚約を指示された時、私は、「わかりました」と頷くだけだった。

 お母様も、年の離れたお姉様も、恋愛結婚ではなく、政略結婚だったので、私だけが、自由な恋愛をして、愛しい人と添い遂げることができるなどとは思っていなかったし、それが貴族の家に生まれた女の、果たすべき義務であると理解していた。

 ブライアンは、結婚相手として、そこまで悪い存在ではなかった。

 少々粗暴で、無神経なところが鼻につくが、基本的には優しいし、腹を立てても、女に手を上げるようなことはしない。容貌だって、平均よりはずっと上だろう。

 ……ただ、結婚相手として、良い存在でもなかった。

 ハッキリ言って、気が合わないのだ。

 悪い人じゃないし、顔だって良い。背も高い。
 しかし、絶望的に、気が合わないのだ。

 世の中には、別に嫌いじゃないけど、好きにもなれないタイプというのが存在する。私にとって、ブライアンはまさにそれだった。……そしてそれは、ブライアンにとっても、同様だったのだろう。彼と私は、お互いの家の政治的思惑でくっついた婚約者同士――それ以上でも、それ以下でもなかった。

 だから、数ヶ月前、ブライアンが他の女とこっそり会っていると知ったときも、別に腹は立たなかった。……むしろ、少しだけワクワクしたくらいだ。ブライアンがこのまま、その女を真剣に愛するようになれば、私との婚約を解消するかもしれないと思ったからだ。

 そう。
 私は、ブライアンとの婚約解消を、望んでいたのよ。

 私はずっと、『政略結婚は仕方がないこと』だと諦めていたが、最近になって、両家の縁を深めるための道具みたいに使われることに、疑問と不満を抱き始めていた。

 きっかけは、うちの侍女たちを束ねているメイド長が、ワインの配達に来ていた青年と、貯蔵庫の陰で口づけをしているところを見てしまったことだった。……断っておくが、意識的に覗こうとしたわけではない。本当に、偶然、目に入ってしまっただけである。
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