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第10話

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 デイモンドは、その質問に答えなかった。そりゃ、答えられないわな。『どうしようもない、特別な理由』なんて、ない。ただひたすらに、エレーンのことを軽く見て、舐めくさってただけなんだから。

 このままじゃ、ジャスティンにボコボコにされると思い、デイモンドはビビったんだろうな。奴は、庭にあった鉢植えをいきなり掴んで、ジャスティンの頭に叩きつけた。先制攻撃をして、ぶっ倒しちまうつもりだったに違いない。

 しかし、デイモンドの細腕じゃ、そこまでやっても、ジャスティンに大怪我をさせることはできなかった。ジャスティンは、額からうっすらと血を流し、仁王立ちのまま、「それがお前の答えか」と、ため息をつき、それから、拳を構えた。

 あとはもう、勝負になんか、ならなかったよ。

 ジャスティンは岩のような大きな拳で、デイモンドのほっそりとした顔を、二発、殴った。それで、デイモンドの上の前歯と、下の前歯が、四本、折れてしまった。まさに、怒りの鉄拳だ。あれなら、エレーンに酒瓶で殴られた方が、よっぽどマシだったろうな。

 いくら美男子のデイモンドでも、歯抜けの情けない顔じゃ、もう女の子をひっかけることはできないだろう。まっ、因果応報ってやつだな。あと、言うまでもないことかもしれないが、エレーンとデイモンドの婚約は、当然、白紙になったよ。

 そうそう、因果応報と言えば、ジェリーナも、エレーンに殴られたショックでな、すっかり人が変わっちまったんだよ。これまで、散々人を舐めた真似をしても、一度も報いを受けることはなかったから、普段はおとなしいエレーンがキレたことで、心底ビビったんだろうな。

 ジェリーナは今じゃ、部屋に閉じこもって、ほとんど外に出ることもなくなったらしいぜ。まあ、まだ若いんだ。しばらく引きこもって、自分のしたことを見つめなおし、反省して、それから、新しい人生を生きていくといいさ。

 えっ?
 暴力を振るったエレーンとジャスティンは、罪に問われなかったのかって?

 はぁ~……

 そりゃ、問われたさ。

 どんな理由があろうと、暴力は、暴力だからね。

 でもさ、あの時のエレーンは、ほとんど心神喪失状態だったし、ジャスティンに対しても、情状酌量の余地ありって感じで、そこまで重たい罪にはならなかったんだ。

 デイモンドの方から、ジャスティンの頭を凶器――鉢植えでぶん殴ったことも、考慮された。男同士の喧嘩の場合、負傷の程度も大事だけど、『凶器は使われたのか』『どっちが先に手を出したか』ってのが、かなり重要な要素になってくるんだとさ。
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