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第9話

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 かわいそうだよな。真剣にデイモンドのことを愛していなかったら、あそこまで思いつめることもなかっただろうに。世間知らずのお嬢様が、初めて恋をした男が『最低の人間』だったなんて、あんまりだぜ。

 でも、その最低の人間――デイモンドも、自分のやったことの、報いを受けた。

 デイモンドはエレーンに殴られなかったけどさ、別の人間が、デイモンドをぶん殴ったんだ。……殴ったのはエレーンの遠い親戚で、えっと、名前……なんて言ったかな……ああ、そうそう、ジャスティンだ。

 ジャスティンはのんびりとした性格の青年で、それまで、誰も怒った姿を見たことがなかったらしいんだけどさ、エレーンが、デイモンドとジェリーナのせいで正気を失うくらい追い込まれてたって知ったときは、髪の毛が逆立つほどに激怒したそうだ。

 彼は燃え上がる怒りに身を任せ、単身、デイモンドの屋敷に乗り込んだ。

 ふざけたことに、デイモンドの野郎は、エレーンを傷つけたことなんか気にもしないで、また別の女の子をひっかけて、お庭で優雅に、お茶してたらしいぜ。野郎、人間じゃねぇ。俺がその場にいたら、ジャスティンの代わりにぶん殴ってやったぜ。いや、蹴っ飛ばしてやるべきかな、こう、思いっきり、頭をよ。

 ……おっと、悪い悪い、話がそれたな。

 突然屋敷の中に入って来たジャスティンに、デイモンドは震えあがった。そりゃそうだよな。ジャスティンの顔には、隠す気もない怒りの意思が表れていただろうし、ジャスティンは身長185cmの、たくましい青年だ。華奢なデイモンドが、太刀打ちできる相手じゃない。

 えっ?
 貴族の屋敷なんだから、警備の者とかは、いなかったのかって?

 ふふ。
 それがさ。

 警備の男が数人いたらしいんだけど、ジャスティンを素通りさせたんだとよ。警備の男たちもさ、デイモンドの日頃の振る舞いにうんざりしてて、それに、エレーンのことも知ってるから、むしろジャスティンの味方だったんだとさ。

 さてさて、自分の屋敷の庭とはいえ、味方は一人もおらず、一緒にいた女の子も逃げちまって、デイモンドとジャスティンは、一対一で向かい合った。

 ジャスティンは、めちゃくちゃ怒ってたけど、それでも、問答無用でデイモンドに殴りかかったりはしなかった。彼は深呼吸し、まずは静かに、語りかけたらしい。

「デイモンド。エレーンはお前のことを、真剣に愛していたんだぞ。なのにどうして、エレーンの気持ちを大切にしてやらなかったんだ。何か、どうしようもない、特別な理由があったのか? もしそうなら、教えてほしい」ってな。
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