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第8話

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 エレーンは、かなり格式高いおうちのお嬢様で、男に対して、全然免疫がなかったらしい。それが偶然、あのデイモンドと出会って恋に落ち、あっという間に、婚約まで結んじまったそうだ。純真な娘にありがちだが、一度好きになると、もう一直線って感じだったんだろうな。

 だが、デイモンドは見てくれが良いだけの、最低の男だった。エレーンと出会うまでも、散々女の子をとっかえひっかえして、時には二股、三股をかけるのも、当然だったらしい。

 さらにひどいのは、デイモンドの近くには、常にあのジェリーナがいるってことだ。昔からジェリーナは、デイモンドと付き合う気もないのに、いつも彼にまとわりつき、恋人とのデートにくっついて行ってたそうだ。

 その理由が、また最低なんだよ。

 ジェリーナは性格の曲がった女で、幼馴染であるデイモンドが、恋人よりも自分を優先する姿を見ると、たまらない優越感と快感を覚えるらしくてね。自分の恋路なんかそっちのけで、デイモンドに引っ付いてたってわけだ。まったく、どうかしてるよな。

 しかもデイモンドは、『シスター・コンプレックス』や、『マザー・コンプレックス』ならぬ、『幼馴染・コンプレックス』でさ。ジェリーナのことが、可愛くて可愛くてたまらないみたいなんだよ。だから、ジェリーナが自分の恋人をからかったり、時には露骨にいじめたりしても、全然怒ったりしないのさ。

 そんな馬鹿二人に呆れて、ほとんどの女は、一ヶ月と持たずにデイモンドと別れてしまう。……しかし、純粋で、我慢強いエレーンは、違った。どれだけデイモンドに軽んじられ、ジェリーナに馬鹿にされても、一年間も、耐えたんだ。いつか、デイモンドが、自分のことだけを見てくれると信じてね。

 ……しかし、そうはならなかった。
 それで、最後はキレちまったってわけさ。

 エレーンのことを詳しく調べていくうちに分かったんだが、彼女、あの辺りじゃ評判の、心優しいお嬢様でな。これまで、喧嘩どころか、声を荒げたことすら、一度もなかったんだとさ。

 こういうのはたいてい、事件が起こった後だと、『あいつならいつかやると思ってた』って適当なこと言う奴が、一人か二人は出てくるもんだが、エレーンについての話を聞いた全員が、彼女のことを好きで、そして、心配もしていた。

 ……エレーンは、本当に良い子だったんだろうな。それが、あわや殺人事件になっちまうところまで追い詰められてたんだから、ひでぇ話だよ。
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