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第6話

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 しかしジェリーナは、おどけたような仕草で耳に手をやり、ケラケラと笑いながら、言う。

「えぇ~? なんですかぁ~? よく聞こえないんですけどぉ~? くすくす、もうちょっと大きな声で言ってもらってもいいですかぁ~? あはっ、エレーン、いつも思ってたけど、あんたの声って、蚊の飛んでる音みたいに小さくって、気持ち悪いわよね」

 見てるこっちがイラッとくるような、ふざけた態度だったよ。

 良く聞こえないはずなどない。ジェリーナよりエレーンから離れている俺だって、ハッキリ聞き取ることができたんだからね。……恐らくあの女は、いつもこんな調子で、物静かなエレーンをからかっていたんだろうな。

 そして、あからさまにエレーンが馬鹿にされているというのに、デイモンドはジェリーナをたしなめる様子すらなかった。むしろ、微笑ましいものでも見るかのように、ニコニコと笑ってたんだ。

 本来なら自分の味方であるはずの婚約者に、いつもこんな態度を取られていたとしたら、エレーンはどれほど悲しく、そして、悔しい思いをしてきたことだろう。

 ますますエレーンを哀れに思った俺は、馬鹿二人に、罵声を浴びせようとした。

 その時だった。
 エレーンが、急に立ち上がったんだよ。

 その手には、先程デイモンドがひったくっていったはずの酒のボトルが、上下さかさまに握られていた。話している最中に、ひっそりと取り返していたらしい。

 それで、エレーンはどうしたと思う?
 まあ、だいたい予想つくよな。

 そうだよ。
 殴ったんだよ。
 酒のボトルで、思いっきりジェリーナの頭を。

 その一発で、ジェリーナは「ぐぇっ」て、悲鳴を上げて、ぶっ倒れちまった。

 ……殴る前にさ、エレーンが、叫んだんだけどさ。
 その叫び声が、めちゃくちゃ怖かった。
 俺、今でも時々、夢に見るくらいだもん。

 エレーンは、心の中身、全部吐き出すみたいに、大声で「ね」って叫んだんだ。

 えっ?
 それのどこが怖いんだって?

 ああ、そうか。
 実際に聞かないと、分かんないよな。

 エレーンはさ、「ね」って言う前に、鋭く息を吸ったんだよ。
「シッ!」って、それこそ、刃物みたいに鋭い呼吸でね。

 な?
 これでエレーンが、なんて叫んだのか、分かっただろ?

 彼女はさ、「死ね」って叫んだんだよ。

 ほら、俺たちさ。あんまりいいことじゃないけど、日常会話の中で、けっこう『死ね』って言葉、使ったりするだろ? カッとなって言っちまうこともあるし、冗談めかして使うこともある。

 でもさ、エレーンの言った「死ね」はさ、言葉としての重みが、全然違ったよ。それこそ本当に、彼女の怒りとか、悲しみとか、苦しさとか、そういうのが、全部詰まってた感じだった。
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