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第2話

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 ……酒だよ。
 それも、熊でも酔っぱらっちまうような、飛び切り強い酒だ。

 信じられるか?
 明らかに貴族って感じのお嬢様が、高級ラウンジで、まっ昼間っから酒なんてよ。

 貴族ってやつは、アホかと思うほど体面を重視するから、こんな目立つ店で、明るいうちから酒をあおっちまったら、あっという間に悪い噂が立つ。俺みたいに、口の軽い店員がいるからね。

 しかし黒髪のお嬢様は、そんなこと、どうでもいいって感じだった。ご丁寧に、「本当によろしいのですか?」と確認する俺に、チップまで渡して、「大急ぎで持ってきて」って頼んだんだ。

 その時の目つきが、また怖くってさ。
 まさしく、『目がすわってる』って感じ。

 チップも貰ったし、これ以上ごちゃごちゃ言うと引っぱたかれそうだったから、俺は、カウンターに引っ込んだ。それから、厨房に、デイモンドとジェリーナが注文した軽食を用意するように伝え、俺自身は、黒髪のお嬢様にお出しする酒のボトルを、棚から出したんだ。

 その時さ。
 また『この三人組、変だな』って思ったんだよ。

 だって、おかしいだろ?

 三人のうち、一人が昼間っから強い酒をやろうとしてるのに、他の二人は、何とも言わないんだぜ? 二人は、黒髪のお嬢様を、まるで『いないもの』みたいに扱って、楽しくおしゃべりを続けてるんだ。だから俺、思ったんだよ。もしかして、この黒髪のお嬢様は、俺だけに見えてる、幽霊みたいなもんなのかもしれないって。

 えっ?
 幽霊なんているわけないじゃないかって?

 あんたに言われなくても、そんなことわかってるよ。
 俺がその時、そう思ったってだけよ。

 まったく、話の途中で、茶々入れないでくれよな。

 ……ええっと、どこまで話したっけ。
 あ、そうそう。酒を棚から出したところまでだな。

 デイモンドとジェリーナが注文した軽食が調理し終わるまでには、少しだけ時間がかかるから、まずは、二人が注文した紅茶と、黒髪のお嬢様が頼んだ酒だけを、俺は持って行ったんだ。

 紅茶を受け取った、デイモンドとジェリーナの優美な仕草は、見事だった。流石、貴族って感じだったよ。……そして、酒を受け取った黒髪のお嬢様の行動は、凄かった。

 ……もう一度言うけどよ。彼女に渡したの、凄い酒なんだぜ?
 大男でも、グラス一杯で酔いつぶれるくらいのさ。

 その、凄い酒をよ。
 一気飲みしちゃったんだよ。

 誰がって?
 黒髪のお嬢様に決まってんだろ。

 これにはさすがに、デイモンドとジェリーナもビックリしたみたいでさ。あんぐり口を開けて、黒髪のお嬢様を見てたよ。口の中の、センスの良い紅茶の味なんか、吹っ飛んじまっただろうな。
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