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第14話

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「あ、その、失礼しました……侯爵様の御前で、表情を崩したりして……」

「失礼なものか。いつまでも硬い表情をされているよりずっといい。俺は無礼者は嫌いだが、あまりにも慇懃な態度を取られるのも好きじゃないからな。無理に態度を崩せとは言わないが、これからはもっと自然に振る舞え、わかったな」

「はい……」

 こうして、私の侯爵家での生活が始まったのでした。





 私の役職は遊戯係ですが、それでも使用人の一人ではありますから、侯爵様のマブドのお相手だけではなく、他の使用人の方々のお仕事を手伝うことも多々ありました。

 中にはかなりの力仕事もあり、体力と腕力に自信のない私には大変でしたが、少しも苦ではありませんでした。侯爵家の方々は皆親切で、私がお手伝いをすると、凄く褒めてくれるのです。

 実家では、どれだけ家事をしても褒められることのなかった私にとって、それはとても新鮮で、幸福な体験でした。そんな日々を過ごすうち、何事にも消極的だった私も、少しずつ変わり始めました。

 自分から率先して行動し、思ったことは何でも口にするようになったのです。自分から心を開かないと、誰とも信頼関係を築けないと悟ったからです。……もうちょっと早くそのことに気がついていたら、あるいは、お母さんとも本当の母子になれたかもしれません。今さら言っても仕方のないことですが。

 こうして、侯爵家の使用人として過ごすうち、私はあることを疑問に思いました。侯爵様は、領地視察をなさらないのです。私がこのお屋敷に来てもう三ヶ月も経つというのに、ただの一度も領地を見て回らないのは、さすがに不思議で、私はその疑問を直接侯爵様にぶつけました。

「侯爵様は、どうして領地視察をなされないのですか?」

 侯爵様はマブドの準備をしながら、事も無げに言います。

「別に、する必要がないからだ。部下からの報告でだいたいのことはわかるしな」

「でも、執事のシュベールさんは仰っていました。『報告を聞くのと実際に見るのは違うから、侯爵様はもう少し領民たちの意見をじかに聞いてほしい』って」

「ちっ、あいつめ。余計なことを。……まあいい、この際だ、ハッキリ言っておこう。俺は父の後を継ぎ領主をやっているが、ここの領民たちのことは、あまり好きではないのだ」
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