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第11話

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 それは今の私にとって、これ以上ないほどの救いの道でした。
 私はゴクリと唾を飲み、わずかに頭を下げ、口を開きます。

「侯爵様のお眼鏡にかなう実力かどうかはわかりませんが、周囲の子供たちに比べれば、マブドはできる方だと思います。どうか、よろしくお願いします」

「ああ。……お前、マブドの盤を前にしたら、なかなか良い面構えになったな。先程までの生気のない表情とは別人だ。どうやら、相当自信があるらしい。これは楽しみだ」

 侯爵様が仰るほど自信はありませんでしたが、マブドは非常に頭を使うゲームですから、盤の上に集中していれば、少なくともその間は現実を忘れることができます。だから不安定な私の心も、多少落ち着いたのでしょう。

 そして、対局が始まりました。

 侯爵様の実力は、『見事』の一言に尽きるものでした。私も初心者ではありませんから、しばらく打てば、自然と対戦相手の実力が分かります。

 ……侯爵様は、私よりもはるかに格上の打ち手でした。一見しただけでは、なかなか良い勝負をしているように見えますが、侯爵様は私の戦略を読み、その全てを受け止めるようにゲームを進めています。それはまるで、指導者が未熟者に稽古をつけてやっているようでした。

 一時間ほどの対局の後、私は負けました。

 それほどショックではありませんでした。序盤で、侯爵様との実力差をすぐに思い知り、自分が負けることは分かり切っていたからです。私は頭を下げて、部屋を出て行こうとしました。

「待て」

 侯爵様に呼び止められ、私は振り返ります。
 侯爵様はこちらを見ず、盤上に視線をとどめたまま、言葉を続けました。

「中盤の寄せ手。あれは、誰かに定石を習ったのか?」

「いえ、自分で考えて打ちました。私、村のお爺ちゃんたちと何度も遊んでいただけで、正式にマブドの定石を学んだことはないんです」

「そうか……」

「侯爵様ほど実力のある方に、未熟な腕をお見せして、お恥ずかしい限りです……」

 正直な気持ちでした。有名な展覧会に、何かの手違いで私の書いた落書きが展示されてしまったような、そんな気分でした。しかし侯爵様は、遊戯盤から顔を上げ、私の方を見つめて首を左右に振ります。

「いや、あの寄せ手は実に良かった。鮮烈な輝きを放っていて、一瞬ハッとしたぞ。そうか……定石も知らずにあれを思いつくか……今はまだ未熟だが、鍛えれば良い打ち手になるかもしれんな……」
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