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第10話

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 侯爵様は私を一瞥した後、シュベールさんの方を向いて問いかけます。

「シュベール。使用人に空きはなかったか? 人員補充として、リネットを雇ってやることはできないか?」

「残念ながら……というのも変ですが、使用人の手は充分足りております。何より、14歳の子供にできるほど、侯爵家の使用人は甘いものではありません」

「そうか……そうだな。力仕事も多いからな。うーん……」

 侯爵様は再び腕を組み、しきりに首をひねります。
 十秒ほどそうした後、何かに気が付いたのか、ポンと手を打ちました。

「リネット、お前、マブドはできるか?」

 マブドとは、チェスに似た盤上遊戯です。

 メルブラン侯爵領近辺の伝統的な遊戯で、一応、王都で大会が開かれることもあるのですが、いかんせんルールが複雑であり、運で勝敗が決まる要素もほとんどなく、ゲームとしてはあまりにもシビアすぎて、競技人口はあまりいません。

 しかし、メルブラン侯爵領で育った人間なら、皆基本的にはルールを理解しています。どこの町や村にも、マブド好きのお爺ちゃんがいて、かなり強引に遊び相手をさせられるからです。

 私も例外ではなく、6歳くらいの頃から、村でも有名なマブド好きのお爺ちゃんに、いちから仕込まれました。7歳くらいになると、周りの子供たちは複雑なマブドに嫌気がさし、どんなに誘われても逃げてしまうものなのですが、気の弱い私は頼まれると嫌とは言えず、結局この歳になるまで、毎週お爺ちゃんとマブドをしていました。

 だから……と言うわけでもありませんが、マブドに関してなら、普通の子供よりは腕が立つと思います。最初はまるで歯が立たなかったお爺ちゃんにも、10回やれば4回は勝てるようになりましたから。

 私は侯爵様の問いを、小さく顎を引くことで肯定しました。
 すると侯爵様も、嬉しそうに頷きます。

「よし、それじゃ、ひとつ対局してみるか。俺はマブドが好きでな。父上が存命だった頃はよく勝負したものだが、近頃は手に汗握るような熱戦が一度もできていない。使用人は皆、ルールは理解していても、弱すぎてつまらん。ここにいるシュベールも含めて、俺の敵ではない」

 侯爵様は立ち上がり、いそいそとマブドの盤と駒を用意しながら話を続けます。

「リネット、もしもお前がそれなりの腕前だった場合、遊戯係として召し抱えよう。大した報酬は払えぬが、その代わり、この屋敷の中に部屋を用意してやる。もちろん、食事つきだ。どうだ? 悪い話ではあるまい?」
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