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第17話
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翌日から、またいつも通りのメイドとしての日常が始まった。ローラの様子もこれまで通り。変わったことがひとつあるとすれば、アマンダがあまりローラにちょっかいをかけなくなったことだ。変に話しかけると、大公様の寝室で何があったか聞きたくなるからだろう。
だから、案外快適に毎日を過ごすことができた。さらに翌日、翌々日と同じような日々が続き、メイドの仕事にも随分慣れてきたころ、上級メイドのエリナさんから初めて遠出のお使いを頼まれた。
「フレッド様に薬を届けて。場所はメモに記してあるわ」
エリナさんは決して無駄話をしない。愛想笑いすらも無駄なことだと思っているのか、私はエリナさんが笑ったところを一度も見たことがない。一切温かみを感じさせないその振る舞いは、氷の彫像を想起させ、彼女と相対する時はいつも緊張してしまう。
「わかりました」
私もエリナさんに倣い、短く返事をして『薬』とやらが入った包みとメモを受け取る。本当は、今受け取ったのが何の薬で、フレッド様にどうして薬が必要なのかが気になったが、要件以外のことをあれこれ聞くと、エリナさんにつまらないものを見るような目で見られるので、黙って指示に従うことにした。
そんな時、私たちの右側から朗らかな声をかけられる。
「ふふ、エリナったら。話の要点をまとめるのは大事だけど、それは流石にまとめすぎじゃない? もっとコミュニケーションを大事にしなきゃ」
そこに立っていたのは、もう一人の上級メイド、ミシェルさんだった。ミシェルさんの性格は、エリナさんとは正反対。快活で社交的。その笑顔は太陽のように温かく、誰からも好かれている。あの反逆心の塊であるアマンダですら、ミシェルさんにはよく懐いていた。
現在、大公家のすべての使用人を、このミシェルさんとエリナさんが取り仕切っている。何故、二人のメイドがそんな立場になっているのかというと、今年の初めに、使用人を統括していた老齢の執事長が急逝し、執事長に次ぐ地位である上級メイドの二人が、分割して執事長の代わりを果たしているというわけである。
大公家の使用人の長たるもの、古今東西の礼法に通じ、広大な大公家のすべての庶務雑務に精通していなければならず、高い教養と知性、そして実務能力が要求される。なので、そう簡単に新たな執事長を連れてこられるとも思えず、いずれはエリナさんとミシェルさんのうち、どちらかが新しい執事長になるともっぱらの噂だ。
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翌日から、またいつも通りのメイドとしての日常が始まった。ローラの様子もこれまで通り。変わったことがひとつあるとすれば、アマンダがあまりローラにちょっかいをかけなくなったことだ。変に話しかけると、大公様の寝室で何があったか聞きたくなるからだろう。
だから、案外快適に毎日を過ごすことができた。さらに翌日、翌々日と同じような日々が続き、メイドの仕事にも随分慣れてきたころ、上級メイドのエリナさんから初めて遠出のお使いを頼まれた。
「フレッド様に薬を届けて。場所はメモに記してあるわ」
エリナさんは決して無駄話をしない。愛想笑いすらも無駄なことだと思っているのか、私はエリナさんが笑ったところを一度も見たことがない。一切温かみを感じさせないその振る舞いは、氷の彫像を想起させ、彼女と相対する時はいつも緊張してしまう。
「わかりました」
私もエリナさんに倣い、短く返事をして『薬』とやらが入った包みとメモを受け取る。本当は、今受け取ったのが何の薬で、フレッド様にどうして薬が必要なのかが気になったが、要件以外のことをあれこれ聞くと、エリナさんにつまらないものを見るような目で見られるので、黙って指示に従うことにした。
そんな時、私たちの右側から朗らかな声をかけられる。
「ふふ、エリナったら。話の要点をまとめるのは大事だけど、それは流石にまとめすぎじゃない? もっとコミュニケーションを大事にしなきゃ」
そこに立っていたのは、もう一人の上級メイド、ミシェルさんだった。ミシェルさんの性格は、エリナさんとは正反対。快活で社交的。その笑顔は太陽のように温かく、誰からも好かれている。あの反逆心の塊であるアマンダですら、ミシェルさんにはよく懐いていた。
現在、大公家のすべての使用人を、このミシェルさんとエリナさんが取り仕切っている。何故、二人のメイドがそんな立場になっているのかというと、今年の初めに、使用人を統括していた老齢の執事長が急逝し、執事長に次ぐ地位である上級メイドの二人が、分割して執事長の代わりを果たしているというわけである。
大公家の使用人の長たるもの、古今東西の礼法に通じ、広大な大公家のすべての庶務雑務に精通していなければならず、高い教養と知性、そして実務能力が要求される。なので、そう簡単に新たな執事長を連れてこられるとも思えず、いずれはエリナさんとミシェルさんのうち、どちらかが新しい執事長になるともっぱらの噂だ。
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