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第5話

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「しょせん噂は噂、どこまで本当か分からない……と思いたいところだけど、本当に根も葉もない噂だったら、大公家の人が黙ってないわよね。それが、言いたい放題にさせておくんだから、たぶん"当たらずとも遠からず"って感じなんでしょうね。はぁ……」

 これから私の身に待ち受ける運命を思うと、何もかも投げ出して逃げてしまいたいとも思うが、まだまだ世間を知らない私が単身で生きて行けるとは思えないし、何より、私に残された最後の家族である祖父母への援助を打ち切らせるわけにはいかない。私は、刑の執行を待つ囚人のような気分で大公家からの迎えを待っていた。

 しばらくして、迎えの馬車がやって来た。さすがは大公家の乗り物というべきか、あちこちに豪奢な意匠がほどこされた見事な馬車だった。まあ、これから地獄に連れていかれるのに、その連行手段が豪奢であろうが粗末であろうが、どうでもいいことだったが。

 馬車のドアが開き、中から現れたのは涼しげな容貌の青年だった。高貴な衣装に身を包んだその姿は、おとぎ話の王子様を思い起こさせ、私は自分の置かれた状況を一瞬忘れ、見とれてしまう。青年は手元の書類を一瞥した後、私の顔を正面から見据え、容貌と同じく、透き通るような涼しげな声を発した。

「あなたがブレアナ・リースですね。約束の時間になる前から門前で待っているとは、感心なことです」

 高貴な身分の方から褒めてもらえ、普通なら喜ぶところなのだろうが、これが本当の私『シンシア・リース』ではなく憎いブレアナの手柄になると思うと、正直愉快な気分ではなかった。なので、とくにへりくだることもなく、とりあえず小さく頭を下げるだけにしておいた。

 そんな私に、青年も小さく頷いて自己紹介をする。

「私はジェームス・ラドリック。大公リチャード・ラドリック様の次男です。あなたたちのような少女を集めてくる役目を父上から仰せつかっています。以後お見知りおきを」

 思わず『えっ!?』と大声を出しそうになるが、ギリギリでこらえる。見るからに高貴な感じの青年なので、大公家の中でも良い立場の人だとは思っていたけど、まさか大公様の次男が表に出て、こんな人身売買同然の役目を果たしているとは思いもしなかった。

 もっとも、私を連行していくのが、ただの番兵でも大公家の次男でも結局は同じことである。私は口数少なく馬車に乗り込むと、ジェームスとは視線も合わせず、馬車の小窓から流れゆく景色を眺めていた。ジェームスは先程の書類に目を通しながら、ぽつりと言う。

「今日は無口なのですね。この身辺調査の書類には『ブレアナ・リースは底意地の悪いところがあるが、快活でおしゃべり好きな性格』と書いてあるのに。何かの間違いでしょうか」
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