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第16話

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 公爵様は、一口お茶を飲むと、ティーカップをソーサーの上に戻し、「ふぅ」と息を吐く。……きっと、二度も続けて濃いお茶を出した私に、呆れているに違いない。

 私自身も、自分のうかつさと愚かさに呆れ、思わずメイド服の裾を両手で握りしめていた。許されるなら、すぐにこの場から逃げ出したい気分だった。

 だが、そんな私に対し、公爵様は柔らかな笑顔を向けて、意外な言葉を発せられた。

「うん、美味い。この味だ。お前の淹れた、この濃い茶が飲みたかったんだ」

「……えっ?」

「もう、10日ほど前になるか。あの夜、お前が淹れてくれた茶の味が忘れられなくてな。こうして、またお前に来てもらったのだ」

「そ、そうだったんですか……」

 私は、ひとまずホッとした。やったこと自体は、二回も続けてミスをしただけなのだが、結果的には、公爵様のご期待を裏切らずに済んだからだ。

 公爵様はさらに一口お茶を飲み、美味しそうに吐息を漏らしてから話を続ける。

「お前の淹れる茶は本当に美味い。私は、あまり濃い茶が好きではないのだが、お前の淹れた茶は別だ。渋みがまったくなく、うま味だけが凝縮されている感じがする。それに、香りも優しい。レベッカ、お前、まだ若いのに、どこでこのような技術を身に着けたのだ?」

 私はしばし考え、思った通りのことを言葉にしていく。

「えっと、あの、母が濃いお茶を好きだったもので、その、母の好みに合わせて美味しいお茶を淹れようとするうちに、自然と身についたんだと思います……」

 そう。私はお母様に気に入ってもらいたくて、一生懸命美味しいお茶を淹れる方法を勉強したのだ。……結局、お母様は一度だって私の淹れるお茶を美味しいとは言ってくれなかったので、全ては無駄な努力だったと思っていたが、その努力が、今になって、こんな形で報われるとは、人生って不思議なものである。

 公爵様は「なるほど、そういうことか」と言い、もう一度お茶を飲む。
 そして、立ったままの私を見上げながら、優しい言葉を発した。

「母のために、これほど美味い茶を淹れようと努力するとは、見事な心意気だ。お前の母も喜び、お前のことを、さぞ可愛がったことだろう」
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