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第55話
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「長いわりに、くだらん話だったな。あれこれグチグチと言っていたが、つまりは弱者の嫉妬だ。情けない女め。弱者は弱者なりに、おのれの身の程をわきまえていれば悩まずに済むものを」
ガレスの人を人とも思わないやり方に、ただでさえ怒っている私だったが、今の広瀬さんを見下しきった言葉で、全身の血液が沸騰したのではないかと思うほど逆上する。あまりにも怒りすぎて、どういうわけか逆に冷静になった私は、怒鳴ることもなく静かにガレスを責めた。
「卑劣な魔法で勝手に心の秘密を話させておいて、『くだらん話』だの、『弱者の嫉妬』だの、どういう育ち方をしたらそんな言葉が出てくるの? あなた、一応は魔界の名家の出身なんでしょ? それともあなたの家じゃ、他人に対する配慮や優しさは、教えられないわけ?」
ありったけの嫌味を込めたつもりだったが、ガレスは『当たり前のことを聞くな』とでも言いたげに、しれっと言葉を返してくる。
「その通りだ。魔界の名家にして武家のゴールズ家では、他人に対する情けなど教わらん。情けなど、弱者同士のなれ合いにすぎん。強者は常に孤高。そして、強者は弱者に対し、何をしてもいいのだ。だから強者である俺は、好きなように弱者に魔法の力を振るうのだ」
まさか、本当に『人に対する配慮や優しさ』を教わっていないとは。それにしても、なんて歪んだ考えだ。子供の頃からこんな考え方を教えられているのだとしたら、それはそれでかわいそうなことなのかもしれない。しかし、怒りに打ち震える今の私には、これ以上ガレスを思いやる余裕はなかった。
「あなたの考え方はよくわかったよ。……でも、私にはあなたが『強者』だなんて、とても思えない。だって、昨日も今日も、あなたのやってることはただの弱い者いじめじゃない。そのくせ、ルディにちょっと痛い思いをさせられたら、捨て台詞を吐いて逃げちゃうんだから。まるで、漫画に出てくる情けないやられ役みたい」
その言葉を受け、私の怒りがうつったかのようにガレスも怒った。顔を赤くして私に詰め寄ると、両手で私の襟首をつかみ、凄い目で睨んでくる。
「黙れ。くだらぬことでめそめそと悩み迷う弱者のくせに。貴様ら弱者には、強者の生き様や理屈など、到底理解できん。いや、それどころか『強さ』の意味すらわからぬだろう」
「わかるよ。『強さ』も『弱さ』も、前よりはずっとわかる。私も、広瀬さんも、千佳ちゃんも、そしてルディも、みんな心のどこかに『弱さ』があって……だけど、それだけじゃない。どんな人にも、弱い部分と強い部分があり、その両方を抱えているのが人間なんだよ。それは、この世界の人も、魔界人も変わらない」
「くくく、たわごとだな。平和な国で育ち、戦いを知らぬ小娘らしい理屈だ。本当の『強さ』とは、相手を思うがままにする力のことだ。たとえば、俺が貴様に暴力を振るうとする。貴様はそれをどう防ぐ? くくく、防ぐ方法などあるまい? それは俺が強くて、貴様が弱いからだ。これほど分かりやすい話があるか?」
怖い話だった。
しかし私は屈しなかった。
「そうやって、すぐに暴力で脅そうとするのが、本当に強い人間のすることなの?」
「ちっ。まったく、ああ言えばこう言う。貴様、現魔王の定めた『他種族への無意味な暴力を禁ずる』という法を知っているから、俺が無茶なことはしないと舐めているのだろう? 確かに、腕や足を折るような大怪我をさせれば問題になるが、頬を叩くくらいなら話は別だ。すぐに腫れが引く。今すぐそうしてやってもいいんだぞ?」
ガレスの人を人とも思わないやり方に、ただでさえ怒っている私だったが、今の広瀬さんを見下しきった言葉で、全身の血液が沸騰したのではないかと思うほど逆上する。あまりにも怒りすぎて、どういうわけか逆に冷静になった私は、怒鳴ることもなく静かにガレスを責めた。
「卑劣な魔法で勝手に心の秘密を話させておいて、『くだらん話』だの、『弱者の嫉妬』だの、どういう育ち方をしたらそんな言葉が出てくるの? あなた、一応は魔界の名家の出身なんでしょ? それともあなたの家じゃ、他人に対する配慮や優しさは、教えられないわけ?」
ありったけの嫌味を込めたつもりだったが、ガレスは『当たり前のことを聞くな』とでも言いたげに、しれっと言葉を返してくる。
「その通りだ。魔界の名家にして武家のゴールズ家では、他人に対する情けなど教わらん。情けなど、弱者同士のなれ合いにすぎん。強者は常に孤高。そして、強者は弱者に対し、何をしてもいいのだ。だから強者である俺は、好きなように弱者に魔法の力を振るうのだ」
まさか、本当に『人に対する配慮や優しさ』を教わっていないとは。それにしても、なんて歪んだ考えだ。子供の頃からこんな考え方を教えられているのだとしたら、それはそれでかわいそうなことなのかもしれない。しかし、怒りに打ち震える今の私には、これ以上ガレスを思いやる余裕はなかった。
「あなたの考え方はよくわかったよ。……でも、私にはあなたが『強者』だなんて、とても思えない。だって、昨日も今日も、あなたのやってることはただの弱い者いじめじゃない。そのくせ、ルディにちょっと痛い思いをさせられたら、捨て台詞を吐いて逃げちゃうんだから。まるで、漫画に出てくる情けないやられ役みたい」
その言葉を受け、私の怒りがうつったかのようにガレスも怒った。顔を赤くして私に詰め寄ると、両手で私の襟首をつかみ、凄い目で睨んでくる。
「黙れ。くだらぬことでめそめそと悩み迷う弱者のくせに。貴様ら弱者には、強者の生き様や理屈など、到底理解できん。いや、それどころか『強さ』の意味すらわからぬだろう」
「わかるよ。『強さ』も『弱さ』も、前よりはずっとわかる。私も、広瀬さんも、千佳ちゃんも、そしてルディも、みんな心のどこかに『弱さ』があって……だけど、それだけじゃない。どんな人にも、弱い部分と強い部分があり、その両方を抱えているのが人間なんだよ。それは、この世界の人も、魔界人も変わらない」
「くくく、たわごとだな。平和な国で育ち、戦いを知らぬ小娘らしい理屈だ。本当の『強さ』とは、相手を思うがままにする力のことだ。たとえば、俺が貴様に暴力を振るうとする。貴様はそれをどう防ぐ? くくく、防ぐ方法などあるまい? それは俺が強くて、貴様が弱いからだ。これほど分かりやすい話があるか?」
怖い話だった。
しかし私は屈しなかった。
「そうやって、すぐに暴力で脅そうとするのが、本当に強い人間のすることなの?」
「ちっ。まったく、ああ言えばこう言う。貴様、現魔王の定めた『他種族への無意味な暴力を禁ずる』という法を知っているから、俺が無茶なことはしないと舐めているのだろう? 確かに、腕や足を折るような大怪我をさせれば問題になるが、頬を叩くくらいなら話は別だ。すぐに腫れが引く。今すぐそうしてやってもいいんだぞ?」
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