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第44話
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「安心してるって? 何に?」
「えっと……明るくて強い千佳ちゃんにも、私と同じで『弱いところ』があるってわかったことに……かな。この際、正直に言っちゃうけど、私、千佳ちゃんは皆に好かれるために生まれてきたような特別な子で、私みたいに対人関係や自分自身のコンプレックスで悩んだりすることなんて、ないんだと思ってたんだ」
私の馬鹿げた告白に、千佳ちゃんは軽く噴き出した。
「『皆に好かれるために生まれてきたような特別な子』なんて、いるわけないじゃない。テレビの有名人や、ネットのインフルエンサーだって、発言を一歩間違えば、いっせいに袋叩きにされる世の中だよ? 今好かれてても、いつ評価が裏返って嫌われてもおかしくない。皆、そんなもんだよ」
なんてドライでシニカルな考え方をするのだろう。私もどちらかというと、中学一年生としては理屈っぽい方だと思うが、過去に虐められそうになった経験からか、千佳ちゃんはさらに冷めたものの見方をしているようだ。
私は頷いて、話を続ける。
「そうだね。でもやっぱり、私にとって千佳ちゃんは特別だったよ。だから千佳ちゃんと比較して、自分が凄くみじめになることがあった。気づいてた?」
「なんとなくね。でも、私には不思議で仕方なかったよ。私にとっては、加奈ちゃんの方がよっぽど特別だったから。お父さんが天才ピアニストで、自分自身も音楽の才能があって、おまけに家はお金持ち。なのに、やけにうじうじおどおどしてるんだもん。まあそれは、広瀬さんと何かあったせいなんだろうけど」
流れるようにそう言って肩をすくめる千佳ちゃんに、私は微笑して言う。
「千佳ちゃん、やっぱり喋るの上手だよ。言葉にリズムがあるもん。さっき、『本当は喋るのが好きじゃない』って言ってたの、あれ、何かの間違いでしょ?」
「それが、間違いじゃないんだな。本当に、無駄話するのも人と関わるのも苦手だよ。気を張って、面倒で、疲れるから。こんなふうに、気楽に話せるのは加奈ちゃんくらいだよ」
「適当な相槌を返してくるだけだから?」
「そう思ってたけど、案外、それだけじゃないかもね。とにかく話しやすいのは確かだから、実際、相性は悪くないと思う。私の情けないところを知られて、自分を隠す必要もなくなったから、余計に話しやすくなったよ」
「私も。千佳ちゃんが『ただの良い子』じゃないってわかったから、変に気後れしなくてよくなった。だから今日からさ、私たち、改めて友達になろうよ。今までみたいな、いびつな関係じゃなくて、思ったこと何でも言いあえて、時には喧嘩もするような、本当の友達に」
その言葉に、千佳ちゃんは今まで見たことのないような照れ笑いを浮かべた。たぶんこれが、今まで誰に対しても笑顔の仮面をかぶっていた千佳ちゃんにとっての、ごく普通で、自然な反応の笑顔なのだろう。
「ま、それもいいかもね。でも、美虎ちゃんや桂ちゃんとつるむのは勘弁ね。二人がいる時は、私、席を外すから」
「えぇ~。二人とも、凄く明るくて楽しい子なのに」
「だから、その根っからの陽キャっぷりに合わせるのがきついの! わかってよね。『本当の友達』ならさ」
「善処します」
「今ここでハッキリ誓え。でなきゃ友達契約は白紙」
「わがままだなぁ。これなら前の千佳ちゃんの方が良かったよ」
「残念ながら、もう前には戻れませ~ん」
今まで口に出したこともないような軽口を叩き合うのが、驚くほど心地よかった。これが、本当に友達になるっていうことなのかもしれない。
「えっと……明るくて強い千佳ちゃんにも、私と同じで『弱いところ』があるってわかったことに……かな。この際、正直に言っちゃうけど、私、千佳ちゃんは皆に好かれるために生まれてきたような特別な子で、私みたいに対人関係や自分自身のコンプレックスで悩んだりすることなんて、ないんだと思ってたんだ」
私の馬鹿げた告白に、千佳ちゃんは軽く噴き出した。
「『皆に好かれるために生まれてきたような特別な子』なんて、いるわけないじゃない。テレビの有名人や、ネットのインフルエンサーだって、発言を一歩間違えば、いっせいに袋叩きにされる世の中だよ? 今好かれてても、いつ評価が裏返って嫌われてもおかしくない。皆、そんなもんだよ」
なんてドライでシニカルな考え方をするのだろう。私もどちらかというと、中学一年生としては理屈っぽい方だと思うが、過去に虐められそうになった経験からか、千佳ちゃんはさらに冷めたものの見方をしているようだ。
私は頷いて、話を続ける。
「そうだね。でもやっぱり、私にとって千佳ちゃんは特別だったよ。だから千佳ちゃんと比較して、自分が凄くみじめになることがあった。気づいてた?」
「なんとなくね。でも、私には不思議で仕方なかったよ。私にとっては、加奈ちゃんの方がよっぽど特別だったから。お父さんが天才ピアニストで、自分自身も音楽の才能があって、おまけに家はお金持ち。なのに、やけにうじうじおどおどしてるんだもん。まあそれは、広瀬さんと何かあったせいなんだろうけど」
流れるようにそう言って肩をすくめる千佳ちゃんに、私は微笑して言う。
「千佳ちゃん、やっぱり喋るの上手だよ。言葉にリズムがあるもん。さっき、『本当は喋るのが好きじゃない』って言ってたの、あれ、何かの間違いでしょ?」
「それが、間違いじゃないんだな。本当に、無駄話するのも人と関わるのも苦手だよ。気を張って、面倒で、疲れるから。こんなふうに、気楽に話せるのは加奈ちゃんくらいだよ」
「適当な相槌を返してくるだけだから?」
「そう思ってたけど、案外、それだけじゃないかもね。とにかく話しやすいのは確かだから、実際、相性は悪くないと思う。私の情けないところを知られて、自分を隠す必要もなくなったから、余計に話しやすくなったよ」
「私も。千佳ちゃんが『ただの良い子』じゃないってわかったから、変に気後れしなくてよくなった。だから今日からさ、私たち、改めて友達になろうよ。今までみたいな、いびつな関係じゃなくて、思ったこと何でも言いあえて、時には喧嘩もするような、本当の友達に」
その言葉に、千佳ちゃんは今まで見たことのないような照れ笑いを浮かべた。たぶんこれが、今まで誰に対しても笑顔の仮面をかぶっていた千佳ちゃんにとっての、ごく普通で、自然な反応の笑顔なのだろう。
「ま、それもいいかもね。でも、美虎ちゃんや桂ちゃんとつるむのは勘弁ね。二人がいる時は、私、席を外すから」
「えぇ~。二人とも、凄く明るくて楽しい子なのに」
「だから、その根っからの陽キャっぷりに合わせるのがきついの! わかってよね。『本当の友達』ならさ」
「善処します」
「今ここでハッキリ誓え。でなきゃ友達契約は白紙」
「わがままだなぁ。これなら前の千佳ちゃんの方が良かったよ」
「残念ながら、もう前には戻れませ~ん」
今まで口に出したこともないような軽口を叩き合うのが、驚くほど心地よかった。これが、本当に友達になるっていうことなのかもしれない。
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