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第42話
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「ふん、腰抜けの軟弱者がする約束など信じられるか。『必ず』『絶対』『間違いなく』等々、口では何とでも誠実なことをほざけるものだからな。いよいよとなったときに、もう二度と逃げださないという保証がどこにある? 俺は、貴様のような……」
「ガレス・ゴールズ」
ネチネチと非難の言葉を浴びせ続けるガレスを、ただ一度名前を呼ぶだけでルディは黙らせる。その顔つきには、これまでにない覚悟と怒りが溢れていた。
「な、なんだ……?」
「昨日も言ったが、そなたが余を侮辱するのは仕方ないと思っている。情けない余に対して怒るのもわかる。……だが今日は、余もそなたに怒っている。クラスの皆を巻き込み、加奈に暴力を振るおうとしたそなたと、すぐに戦いたいくらいだ。激情に身を任せてな」
「はっ! 女々しい腰抜けのくせに、随分といっぱしの口を……」
ガレスは、すぐに侮辱の言葉を飲み込んだ。どうやら、ルディの表情や身にまとう雰囲気から、言葉以上の『本気』を感じ取ったらしい。静かになったガレスを見て、ルディもまた、静かに言葉を続けていく。
「しかし、今すぐ戦うとなれば、両腕を負傷しているそなたには分が悪かろう。余とて、怒りのままに拳を振るうことが良いことだとは思っておらぬ。というわけで、お互いにいったん頭を冷やそうではないか。重ねて言うが、明日には必ず魔界に戻る。頼む。もう一度だけ、余を信じてくれ」
「……いいだろう。この程度の負傷、どうということはないが、貴様の顔を立ててやる。この俺の寛容さに感謝するんだな。はーっはっはっはっは!」
昨日と同じでいったい何が面白いのか、ガレスは高笑いを上げて姿を消した。現れる時も唐突だったが、去る時の鮮やかさは相変わらず見事である。
ガレスがいなくなったあたりで、ずっとフラフラしていたクラスの皆は、ようやくシャッキリしたようだった。散々人の心を弄んだガレスだったが、『裏心の術』で争い合った記憶を皆から消し去る約束はちゃんと守ってくれたらしく、皆、そろそろ一限目が始まる時間であることを確認し、ごく普通に席について授業の準備を始めた。
私は小声でルディに耳打ちする。
「ガレスって嫌な奴なのに、一応約束は守ってくれたんだね」
「ガレス・ゴールズは人格的には少々問題があるが、自分でした約束は守るタイプだ。自分の言葉に、自分でケチをつけることになるからな。自尊心の高いあやつにとって、それは耐えられまいよ」
「そういえば、皆が取っ組み合いを始めた時に、ドタンバタンって、けっこうな騒ぎになってたと思うんだけど、隣のクラスの人とか、全然様子を見に来なかったね」
「恐らく、ガレス・ゴールズが『認識疎外の術』を使い、このクラスの外のものは、中での騒ぎに気づかぬようにしたのだろう。今日のことで、やはり身体能力はハッキリ余の方が上だとわかったが、多種多様な魔法を同時に使いこなすあやつの実力は本物だ。決闘には、相当な覚悟をもって臨まねばならんだろうな」
「そっか……。ルディの方が力が強いからって、必ず決闘に勝てるわけじゃないんだね。決闘……っていうか、本当の戦いって大変だなぁ……」
「ガレス・ゴールズ」
ネチネチと非難の言葉を浴びせ続けるガレスを、ただ一度名前を呼ぶだけでルディは黙らせる。その顔つきには、これまでにない覚悟と怒りが溢れていた。
「な、なんだ……?」
「昨日も言ったが、そなたが余を侮辱するのは仕方ないと思っている。情けない余に対して怒るのもわかる。……だが今日は、余もそなたに怒っている。クラスの皆を巻き込み、加奈に暴力を振るおうとしたそなたと、すぐに戦いたいくらいだ。激情に身を任せてな」
「はっ! 女々しい腰抜けのくせに、随分といっぱしの口を……」
ガレスは、すぐに侮辱の言葉を飲み込んだ。どうやら、ルディの表情や身にまとう雰囲気から、言葉以上の『本気』を感じ取ったらしい。静かになったガレスを見て、ルディもまた、静かに言葉を続けていく。
「しかし、今すぐ戦うとなれば、両腕を負傷しているそなたには分が悪かろう。余とて、怒りのままに拳を振るうことが良いことだとは思っておらぬ。というわけで、お互いにいったん頭を冷やそうではないか。重ねて言うが、明日には必ず魔界に戻る。頼む。もう一度だけ、余を信じてくれ」
「……いいだろう。この程度の負傷、どうということはないが、貴様の顔を立ててやる。この俺の寛容さに感謝するんだな。はーっはっはっはっは!」
昨日と同じでいったい何が面白いのか、ガレスは高笑いを上げて姿を消した。現れる時も唐突だったが、去る時の鮮やかさは相変わらず見事である。
ガレスがいなくなったあたりで、ずっとフラフラしていたクラスの皆は、ようやくシャッキリしたようだった。散々人の心を弄んだガレスだったが、『裏心の術』で争い合った記憶を皆から消し去る約束はちゃんと守ってくれたらしく、皆、そろそろ一限目が始まる時間であることを確認し、ごく普通に席について授業の準備を始めた。
私は小声でルディに耳打ちする。
「ガレスって嫌な奴なのに、一応約束は守ってくれたんだね」
「ガレス・ゴールズは人格的には少々問題があるが、自分でした約束は守るタイプだ。自分の言葉に、自分でケチをつけることになるからな。自尊心の高いあやつにとって、それは耐えられまいよ」
「そういえば、皆が取っ組み合いを始めた時に、ドタンバタンって、けっこうな騒ぎになってたと思うんだけど、隣のクラスの人とか、全然様子を見に来なかったね」
「恐らく、ガレス・ゴールズが『認識疎外の術』を使い、このクラスの外のものは、中での騒ぎに気づかぬようにしたのだろう。今日のことで、やはり身体能力はハッキリ余の方が上だとわかったが、多種多様な魔法を同時に使いこなすあやつの実力は本物だ。決闘には、相当な覚悟をもって臨まねばならんだろうな」
「そっか……。ルディの方が力が強いからって、必ず決闘に勝てるわけじゃないんだね。決闘……っていうか、本当の戦いって大変だなぁ……」
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