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第36話
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私は、すぐ近くにいるルディに尋ねる。
「ルディ、これって……!?」
ルディは厳しい表情で答える。その声は表情と同じくとても厳しい。
「ガレス・ゴールズの魔法――『不動の術』だ。さっき、奴から紫色の光が放たれただろう? あれに触れると、魔法に対する耐性のない者は、しばらく動くことも、喋ることもできなくなる。奴の許可なしにはな」
ガレスがつかつかと歩き始め、私たちのいる床より一段高い位置にある教壇に立つと、満足げな様子で言う。
「説明ご苦労。だが、不思議だな。そっちの女――稲葉加奈とか言ったか。何故『不動の術』がきかんのだ? 人間の中にも、まれに魔法に対する耐性の強い者がいるが、貴様もそうなのか?」
そうなのかと言われても、自分ではわからないので、答えようがない。そんな私の代わりに、ルディが答える。
「加奈には一度、余が魔法をかけたからな。それで、他の皆よりは魔法に対する耐性ができたのだろう」
「ふん、そういうことか。しかし普通は、一度魔法をかけたくらいでは耐性などできん。稲葉加奈。貴様には、多少は魔法の素質があるようだな」
そうなんだ。ちょっと嬉しい。……いやいやいやいや、今はそんなこと、どうでもいい。私は気を取り直して、ガレスに問いかける。
「そ、そんなことより、なんでこんなことをするの!? 皆を元に戻して!」
「この期に及んで『なんで』とは、愚かなことを聞く。昨日、そこの腰抜けに言っただろう。『この世界にいられないようにしてやる』とな。だから今から、ルディ・クーランドの居場所を奪う」
そこでガレスは言葉を切り、陰湿な目でルディを見下ろして言う。
「ふふふ。貴様と関係を持った人間たちがどうなるか、その目で見ているがいい」
ルディは下からガレスを睨むようにして言い返す。
「まさかとは思うが、皆を傷つけるつもりではあるまいな。そんなことをすれば、余の父――魔王ヴァーゲンが黙っておらぬぞ。そなたとて、魔王の定めた『他種族への無意味な暴力を禁ずる』という法を知らぬわけではないだろう。昨日、それらしきことを言っておったしな」
「当然だ。俺は次期魔王として、現魔王様の定めた法には、最大限の敬意と理解を持っているつもりだ。魔法もまともに使えん下等な人間が相手でも、意味もなく暴力を振るうつもりはない。……ただ、少しだけ正直になってもらうだけだ」
言い終えると同時に、ガレスの体から赤色の光が放たれた。それをきっかけに、皆が一斉に動き出し、なんと、それぞれ思い思いの相手と、取っ組み合い、罵り合い始めたのである。
「お前っ、このっ、いつもいつも余計なこと言いやがって、気に入らないんだよっ」
「お前こそ、ちょっとテストの点がいいからって調子に乗ってんじゃねぇよっ」
「あんた。この前私のことブサイクだって笑ってたでしょ。自分だって、大した顔じゃないくせに」
「はぁ? それでもあんたと比べればまともなんですけどー」
「どっちも大差ないじゃん。目くそ鼻くそを笑うってこのことね」
「ウケるー。耳くそがコソコソなんか言ってるー」
「ふ、ふざけんなっ! このっ、謝れよっ!」
皆、聞くに堪えないような幼稚な悪口を言いあって、髪を掴み、襟を掴み、不良のように相手を押し、あるいは引きずり倒そうとしている。あまりの状況に、私は青ざめた。
ルディが、苦虫を噛み潰したような顔で呟く。
「これは……『裏心の術』か……」
「ルディ、これって……!?」
ルディは厳しい表情で答える。その声は表情と同じくとても厳しい。
「ガレス・ゴールズの魔法――『不動の術』だ。さっき、奴から紫色の光が放たれただろう? あれに触れると、魔法に対する耐性のない者は、しばらく動くことも、喋ることもできなくなる。奴の許可なしにはな」
ガレスがつかつかと歩き始め、私たちのいる床より一段高い位置にある教壇に立つと、満足げな様子で言う。
「説明ご苦労。だが、不思議だな。そっちの女――稲葉加奈とか言ったか。何故『不動の術』がきかんのだ? 人間の中にも、まれに魔法に対する耐性の強い者がいるが、貴様もそうなのか?」
そうなのかと言われても、自分ではわからないので、答えようがない。そんな私の代わりに、ルディが答える。
「加奈には一度、余が魔法をかけたからな。それで、他の皆よりは魔法に対する耐性ができたのだろう」
「ふん、そういうことか。しかし普通は、一度魔法をかけたくらいでは耐性などできん。稲葉加奈。貴様には、多少は魔法の素質があるようだな」
そうなんだ。ちょっと嬉しい。……いやいやいやいや、今はそんなこと、どうでもいい。私は気を取り直して、ガレスに問いかける。
「そ、そんなことより、なんでこんなことをするの!? 皆を元に戻して!」
「この期に及んで『なんで』とは、愚かなことを聞く。昨日、そこの腰抜けに言っただろう。『この世界にいられないようにしてやる』とな。だから今から、ルディ・クーランドの居場所を奪う」
そこでガレスは言葉を切り、陰湿な目でルディを見下ろして言う。
「ふふふ。貴様と関係を持った人間たちがどうなるか、その目で見ているがいい」
ルディは下からガレスを睨むようにして言い返す。
「まさかとは思うが、皆を傷つけるつもりではあるまいな。そんなことをすれば、余の父――魔王ヴァーゲンが黙っておらぬぞ。そなたとて、魔王の定めた『他種族への無意味な暴力を禁ずる』という法を知らぬわけではないだろう。昨日、それらしきことを言っておったしな」
「当然だ。俺は次期魔王として、現魔王様の定めた法には、最大限の敬意と理解を持っているつもりだ。魔法もまともに使えん下等な人間が相手でも、意味もなく暴力を振るうつもりはない。……ただ、少しだけ正直になってもらうだけだ」
言い終えると同時に、ガレスの体から赤色の光が放たれた。それをきっかけに、皆が一斉に動き出し、なんと、それぞれ思い思いの相手と、取っ組み合い、罵り合い始めたのである。
「お前っ、このっ、いつもいつも余計なこと言いやがって、気に入らないんだよっ」
「お前こそ、ちょっとテストの点がいいからって調子に乗ってんじゃねぇよっ」
「あんた。この前私のことブサイクだって笑ってたでしょ。自分だって、大した顔じゃないくせに」
「はぁ? それでもあんたと比べればまともなんですけどー」
「どっちも大差ないじゃん。目くそ鼻くそを笑うってこのことね」
「ウケるー。耳くそがコソコソなんか言ってるー」
「ふ、ふざけんなっ! このっ、謝れよっ!」
皆、聞くに堪えないような幼稚な悪口を言いあって、髪を掴み、襟を掴み、不良のように相手を押し、あるいは引きずり倒そうとしている。あまりの状況に、私は青ざめた。
ルディが、苦虫を噛み潰したような顔で呟く。
「これは……『裏心の術』か……」
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