34 / 63
第34話
しおりを挟む
・
・
・
次の日。学校に行くため、ルディと一緒に家の外に出てすぐ、ルディは私に向き直り、何かを決意したようなまなざしで私の名前を呼んだ。
「加奈」
その口調のあまりの真剣さに、私はちょっとドキッとする。
「な、なに?」
「昨日は『数日のうちに魔界に戻る』と言ったが、今日、余は魔界に戻ろうと思う」
「えっ……」
突然のことに、思考が追い付いて行かない。『近いうちにお別れの時が来る』という覚悟と、『今日いきなりお別れ』では、同じようで大きく違う。驚きで、理路整然とした言葉がすぐには出てこず、私はとりあえず、別れの理由を聞くことにした。
「ど、どうして?」
「昨日の夜、ガレス・ゴールズが言っていたことを、よく考えたのだ。奴は余に対し『この世界にいられないようにしてやる』と宣言した。もしかしたら、余を追い込むために、余の近しい人々に何らかの危害を加える可能性がある。ならば、余がこれ以上人間界に留まれば、皆に迷惑がかかるかもしれぬ。だから今日でお別れだ」
実にまっとうな理由だった。しかしやはり、あまりに突然のことで、言葉が出てこない。そんな私の代わりに、ルディは語り続ける。
「今日で最後だから、学校には顔だけ出す。ほんの短い間とはいえ、世話になった教官やクラスの皆に別れを告げたいからな。では行こうか」
「うん……」
そして、私たちはとぼとぼと歩き出す。いや、とぼとぼ歩いているのは私だけで、ルディの歩幅はいつも通りだ。表情もいつも通りで、朗らかに話している。
「魔界の礼儀作法では、長い期間離れる友人に対しては、必ず『別離の挨拶』という儀式的な挨拶をすることになっている。これができないものは教養のない無礼者として、人々から後ろ指をさされてしまうのだ」
「そうなんだ……」
「むっ、そういえば、魔界に戻ったら史郎にもしばらく会えなくなるな。これは困った。史郎が今滞在している『いぎりす』を離れる時、どうせまたすぐに会えると思い、ちゃんとした『別離の挨拶』をしてこなかった。まずいぞ。これから学校で挨拶を済ませ、すぐに『いぎりす』に向かうとしても、今日じゅうに到着は難しいな……」
「なら明日にしなよ。今日じゅうにイギリスまで行くのは無理だって」
自分でも驚くほど、上ずった声が早口で出た。
「いや、だがしかし……」
「ガレスが何かしてくるって決まったわけでもないし、今日でも明日でも、そんなに変わらないって。ね? 今日は学校の皆に挨拶して、いつも通りに過ごして、うちに帰って、それで明日、お父さんに挨拶して魔界に戻るってことにすればいいじゃない」
さっき以上の早口でまくし立てる私。その勢いに圧倒されるように、ルディは反論を飲み込んだようだった。
「う、うーむ……。では、そうするか……」
やった。ずっとしょぼくれていた私の心の中を、明るい歓喜が駆け巡る。ほんのわずかな時間、ルディとの別れが伸びただけなのに、どうしてこんなに嬉しいのか、私は自分でも、自分の気持ちがよく分からなかった。
・
・
次の日。学校に行くため、ルディと一緒に家の外に出てすぐ、ルディは私に向き直り、何かを決意したようなまなざしで私の名前を呼んだ。
「加奈」
その口調のあまりの真剣さに、私はちょっとドキッとする。
「な、なに?」
「昨日は『数日のうちに魔界に戻る』と言ったが、今日、余は魔界に戻ろうと思う」
「えっ……」
突然のことに、思考が追い付いて行かない。『近いうちにお別れの時が来る』という覚悟と、『今日いきなりお別れ』では、同じようで大きく違う。驚きで、理路整然とした言葉がすぐには出てこず、私はとりあえず、別れの理由を聞くことにした。
「ど、どうして?」
「昨日の夜、ガレス・ゴールズが言っていたことを、よく考えたのだ。奴は余に対し『この世界にいられないようにしてやる』と宣言した。もしかしたら、余を追い込むために、余の近しい人々に何らかの危害を加える可能性がある。ならば、余がこれ以上人間界に留まれば、皆に迷惑がかかるかもしれぬ。だから今日でお別れだ」
実にまっとうな理由だった。しかしやはり、あまりに突然のことで、言葉が出てこない。そんな私の代わりに、ルディは語り続ける。
「今日で最後だから、学校には顔だけ出す。ほんの短い間とはいえ、世話になった教官やクラスの皆に別れを告げたいからな。では行こうか」
「うん……」
そして、私たちはとぼとぼと歩き出す。いや、とぼとぼ歩いているのは私だけで、ルディの歩幅はいつも通りだ。表情もいつも通りで、朗らかに話している。
「魔界の礼儀作法では、長い期間離れる友人に対しては、必ず『別離の挨拶』という儀式的な挨拶をすることになっている。これができないものは教養のない無礼者として、人々から後ろ指をさされてしまうのだ」
「そうなんだ……」
「むっ、そういえば、魔界に戻ったら史郎にもしばらく会えなくなるな。これは困った。史郎が今滞在している『いぎりす』を離れる時、どうせまたすぐに会えると思い、ちゃんとした『別離の挨拶』をしてこなかった。まずいぞ。これから学校で挨拶を済ませ、すぐに『いぎりす』に向かうとしても、今日じゅうに到着は難しいな……」
「なら明日にしなよ。今日じゅうにイギリスまで行くのは無理だって」
自分でも驚くほど、上ずった声が早口で出た。
「いや、だがしかし……」
「ガレスが何かしてくるって決まったわけでもないし、今日でも明日でも、そんなに変わらないって。ね? 今日は学校の皆に挨拶して、いつも通りに過ごして、うちに帰って、それで明日、お父さんに挨拶して魔界に戻るってことにすればいいじゃない」
さっき以上の早口でまくし立てる私。その勢いに圧倒されるように、ルディは反論を飲み込んだようだった。
「う、うーむ……。では、そうするか……」
やった。ずっとしょぼくれていた私の心の中を、明るい歓喜が駆け巡る。ほんのわずかな時間、ルディとの別れが伸びただけなのに、どうしてこんなに嬉しいのか、私は自分でも、自分の気持ちがよく分からなかった。
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説
イケメン男子とドキドキ同居!? ~ぽっちゃりさんの学園リデビュー計画~
友野紅子
児童書・童話
ぽっちゃりヒロインがイケメン男子と同居しながらダイエットして綺麗になって、学園リデビューと恋、さらには将来の夢までゲットする成長の物語。
全編通し、基本的にドタバタのラブコメディ。時々、シリアス。
トウシューズにはキャラメルひとつぶ
白妙スイ@書籍&電子書籍発刊!
児童書・童話
白鳥 莉瀬(しらとり りぜ)はバレエが大好きな中学一年生。
小学四年生からバレエを習いはじめたのでほかの子よりずいぶん遅いスタートであったが、持ち前の前向きさと努力で同い年の子たちより下のクラスであるものの、着実に実力をつけていっている。
あるとき、ひょんなことからバレエ教室の先生である、乙津(おつ)先生の息子で中学二年生の乙津 隼斗(おつ はやと)と知り合いになる。
隼斗は陸上部に所属しており、一位を取ることより自分の実力を磨くことのほうが好きな性格。
莉瀬は自分と似ている部分を見いだして、隼斗と仲良くなると共に、だんだん惹かれていく。
バレエと陸上、打ちこむことは違っても、頑張る姿が好きだから。
悪魔さまの言うとおり~わたし、執事になります⁉︎~
橘花やよい
児童書・童話
女子中学生・リリイが、入学することになったのは、お嬢さま学校。でもそこは「悪魔」の学校で、「執事として入学してちょうだい」……って、どういうことなの⁉待ち構えるのは、きれいでいじわるな悪魔たち!
友情と魔法と、胸キュンもありの学園ファンタジー。
第2回きずな児童書大賞参加作です。
へいこう日誌
神山小夜
児童書・童話
超ド田舎にある姫乃森中学校。
たった三人の同級生、夏希と千秋、冬美は、中学三年生の春を迎えた。
始業式の日、担任から告げられたのは、まさかの閉校!?
ドタバタ三人組の、最後の一年間が始まる。
スペクターズ・ガーデンにようこそ
一花カナウ
児童書・童話
結衣には【スペクター】と呼ばれる奇妙な隣人たちの姿が見えている。
そんな秘密をきっかけに友だちになった葉子は結衣にとって一番の親友で、とっても大好きで憧れの存在だ。
しかし、中学二年に上がりクラスが分かれてしまったのをきっかけに、二人の関係が変わり始める……。
なお、当作品はhttps://ncode.syosetu.com/n2504t/ を大幅に改稿したものになります。
改稿版はアルファポリスでの公開後にカクヨム、ノベルアップ+でも公開します。
忠犬ハジッコ
SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。
「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。
※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、
今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。
お楽しみいただければうれしいです。
わたしの師匠になってください! ―お師匠さまは落ちこぼれ魔道士?―
島崎 紗都子
児童書・童話
「師匠になってください!」
落ちこぼれ無能魔道士イェンの元に、突如、ツェツイーリアと名乗る少女が魔術を教えて欲しいと言って現れた。ツェツイーリアの真剣さに負け、しぶしぶ彼女を弟子にするのだが……。次第にイェンに惹かれていくツェツイーリア。彼女の真っ直ぐな思いに戸惑うイェン。何より、二人の間には十二歳という歳の差があった。そして、落ちこぼれと皆から言われてきたイェンには、隠された秘密があって──。
『空気は読めないボクだけど』空気が読めず失敗続きのボクは、小六の夏休みに漫画の神様から『人の感情が漫画のように見える』能力をさずけられて……
弓屋 晶都
児童書・童話
「空気は読めないけど、ボク、漫画読むのは早い方だよ」
そんな、ちょっとのんびりやで癒し系の小学六年の少年、佐々田京也(ささだきょうや)が、音楽発表会や学習発表会で大忙しの二学期を、漫画の神様にもらった特別な力で乗り切るドタバタ爽快学園物語です。
コメディー色と恋愛色の強めなお話で、初めての彼女に振り回される親友を応援したり、主人公自身が初めての体験や感情をたくさん見つけてゆきます。
---------- あらすじ ----------
空気が読めず失敗ばかりだった主人公の京也は、小六の夏休みに漫画の神様から『人の感情が漫画のように見える』能力をさずけられる。
この能力があれば、『喋らない少女』の清音さんとも、無口な少年の内藤くんとも話しができるかも……?
(2023ポプラキミノベル小説大賞最終候補作)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる