32 / 63
第32話
しおりを挟む
「それは……どうだろうな」
「否定しないってことは、ルディ自身も、自分はガレスより弱いって思ってないんじゃないの?」
「うむ……『強い』『弱い』をどう解釈するかにもよるが、魔法の力――つまり魔力はほぼ互角。身体能力は、あるいは余の方が少し上かもしれん。しかし、そのほかの重要な要素において、余はガレス・ゴールズに大きく劣る。まともに戦えば、ほぼ間違いなく余が負けるだろう」
「そのほかの重要な要素って?」
ルディは視線を遠くにやり、ここではないどこかを見ながら言う。
「執念と闘争心だ。ガレス・ゴールズは魔界の武家であるゴールズ家の次男として生まれ、幼い頃より兄弟たちとしのぎを削り、激しい競争環境の中で長男を打ち倒して次期当主の座を手に入れた。その勝利に対する執着はすさまじく、自らが欲するものを得るためなら、手段も選ばない。例えるなら、狡猾なる肉食の獣だ。ふぅ……」
息継ぎするように小さくため息を漏らし、ルディは話し続ける。
「対する余は一人っ子。幼い頃から、それはもう大切に育てられてきた。父上も母上も平和主義で、余自身も争いは好かぬ。もちろん、魔王の息子として戦いの英才教育は受けているが、実戦経験はない。それゆえ、ガレス・ゴールズとの決闘が恐ろしい。命まで失うことはないと思うが、大怪我をする可能性は十分にあるからな」
「そっか……」
ルディの悩みや不安を少しでも軽くしてあげたいが、私にできることなどあるだろうか? 魔界の王族として、ガレスとの決闘は避けては通れないことで、何より、ガレスに居場所を知られたことで、これ以上逃げ続けることはできないとルディも覚悟しているはずだ。
そんなルディに、どういう言葉をかけてあげればいいのかしばらく悩んだが、私は結局、思った通りのことを、少しずつ少しずつ、言葉をちぎって投げるようにして伝えることにした。
「……ルディ。もしかしたら、今から私の言うことは、あなたから立ち向かう勇気を奪うことにつながるかもしれないし、言うべきじゃないのかもしれない。……でも、やっぱり言うことにする。そんなに決闘が嫌だったら、やめなよ。自分から負けを宣言すれば、ガレスもこれ以上、あなたに付きまとうことはないはずでしょ?」
「…………」
「優しくて、争いごとが嫌いなルディが、悩んで、迷って、苦しんでまで決闘することないよ。未来の魔王にはなれなくなるけど、別の生き方だってあるでしょ? 決闘とかそういうのは、戦うのが好きな人同士でやってればいいんだよ。好きでもないことのせいで、そんなに悩むことないよ」
ルディは、私の言葉をゆっくり噛んで飲み込むように聞いていた。そして、静かに口を開く。
「そうだな。そもそもが、指定された決闘の日を前にして人間界に逃げたのだから、実質自分で負けを認めたようなものだ。『好きでもないことのせいで、そんなに悩むことない』か……。確かにその通りだ。余の苦しみを思いやってくれるそなたの気持ちは、ただただ純粋に嬉しく、ありがたい。しかし……」
「しかし?」
「好きでなくても、自分にとって大切なことなら、悩まねばならぬこともあると思う。怯えて、逃げて、醜態をさらしている余が今さら偉そうに言えることではないかもしれぬが、余はそれでも、魔王の子。やはり、義務は果たさねばならぬ。これ以上逃げるわけにはいかない。だから数日のうちに、余は魔界に戻るよ」
「否定しないってことは、ルディ自身も、自分はガレスより弱いって思ってないんじゃないの?」
「うむ……『強い』『弱い』をどう解釈するかにもよるが、魔法の力――つまり魔力はほぼ互角。身体能力は、あるいは余の方が少し上かもしれん。しかし、そのほかの重要な要素において、余はガレス・ゴールズに大きく劣る。まともに戦えば、ほぼ間違いなく余が負けるだろう」
「そのほかの重要な要素って?」
ルディは視線を遠くにやり、ここではないどこかを見ながら言う。
「執念と闘争心だ。ガレス・ゴールズは魔界の武家であるゴールズ家の次男として生まれ、幼い頃より兄弟たちとしのぎを削り、激しい競争環境の中で長男を打ち倒して次期当主の座を手に入れた。その勝利に対する執着はすさまじく、自らが欲するものを得るためなら、手段も選ばない。例えるなら、狡猾なる肉食の獣だ。ふぅ……」
息継ぎするように小さくため息を漏らし、ルディは話し続ける。
「対する余は一人っ子。幼い頃から、それはもう大切に育てられてきた。父上も母上も平和主義で、余自身も争いは好かぬ。もちろん、魔王の息子として戦いの英才教育は受けているが、実戦経験はない。それゆえ、ガレス・ゴールズとの決闘が恐ろしい。命まで失うことはないと思うが、大怪我をする可能性は十分にあるからな」
「そっか……」
ルディの悩みや不安を少しでも軽くしてあげたいが、私にできることなどあるだろうか? 魔界の王族として、ガレスとの決闘は避けては通れないことで、何より、ガレスに居場所を知られたことで、これ以上逃げ続けることはできないとルディも覚悟しているはずだ。
そんなルディに、どういう言葉をかけてあげればいいのかしばらく悩んだが、私は結局、思った通りのことを、少しずつ少しずつ、言葉をちぎって投げるようにして伝えることにした。
「……ルディ。もしかしたら、今から私の言うことは、あなたから立ち向かう勇気を奪うことにつながるかもしれないし、言うべきじゃないのかもしれない。……でも、やっぱり言うことにする。そんなに決闘が嫌だったら、やめなよ。自分から負けを宣言すれば、ガレスもこれ以上、あなたに付きまとうことはないはずでしょ?」
「…………」
「優しくて、争いごとが嫌いなルディが、悩んで、迷って、苦しんでまで決闘することないよ。未来の魔王にはなれなくなるけど、別の生き方だってあるでしょ? 決闘とかそういうのは、戦うのが好きな人同士でやってればいいんだよ。好きでもないことのせいで、そんなに悩むことないよ」
ルディは、私の言葉をゆっくり噛んで飲み込むように聞いていた。そして、静かに口を開く。
「そうだな。そもそもが、指定された決闘の日を前にして人間界に逃げたのだから、実質自分で負けを認めたようなものだ。『好きでもないことのせいで、そんなに悩むことない』か……。確かにその通りだ。余の苦しみを思いやってくれるそなたの気持ちは、ただただ純粋に嬉しく、ありがたい。しかし……」
「しかし?」
「好きでなくても、自分にとって大切なことなら、悩まねばならぬこともあると思う。怯えて、逃げて、醜態をさらしている余が今さら偉そうに言えることではないかもしれぬが、余はそれでも、魔王の子。やはり、義務は果たさねばならぬ。これ以上逃げるわけにはいかない。だから数日のうちに、余は魔界に戻るよ」
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説
イケメン男子とドキドキ同居!? ~ぽっちゃりさんの学園リデビュー計画~
友野紅子
児童書・童話
ぽっちゃりヒロインがイケメン男子と同居しながらダイエットして綺麗になって、学園リデビューと恋、さらには将来の夢までゲットする成長の物語。
全編通し、基本的にドタバタのラブコメディ。時々、シリアス。
トウシューズにはキャラメルひとつぶ
白妙スイ@書籍&電子書籍発刊!
児童書・童話
白鳥 莉瀬(しらとり りぜ)はバレエが大好きな中学一年生。
小学四年生からバレエを習いはじめたのでほかの子よりずいぶん遅いスタートであったが、持ち前の前向きさと努力で同い年の子たちより下のクラスであるものの、着実に実力をつけていっている。
あるとき、ひょんなことからバレエ教室の先生である、乙津(おつ)先生の息子で中学二年生の乙津 隼斗(おつ はやと)と知り合いになる。
隼斗は陸上部に所属しており、一位を取ることより自分の実力を磨くことのほうが好きな性格。
莉瀬は自分と似ている部分を見いだして、隼斗と仲良くなると共に、だんだん惹かれていく。
バレエと陸上、打ちこむことは違っても、頑張る姿が好きだから。
悪魔さまの言うとおり~わたし、執事になります⁉︎~
橘花やよい
児童書・童話
女子中学生・リリイが、入学することになったのは、お嬢さま学校。でもそこは「悪魔」の学校で、「執事として入学してちょうだい」……って、どういうことなの⁉待ち構えるのは、きれいでいじわるな悪魔たち!
友情と魔法と、胸キュンもありの学園ファンタジー。
第2回きずな児童書大賞参加作です。
へいこう日誌
神山小夜
児童書・童話
超ド田舎にある姫乃森中学校。
たった三人の同級生、夏希と千秋、冬美は、中学三年生の春を迎えた。
始業式の日、担任から告げられたのは、まさかの閉校!?
ドタバタ三人組の、最後の一年間が始まる。
『空気は読めないボクだけど』空気が読めず失敗続きのボクは、小六の夏休みに漫画の神様から『人の感情が漫画のように見える』能力をさずけられて……
弓屋 晶都
児童書・童話
「空気は読めないけど、ボク、漫画読むのは早い方だよ」
そんな、ちょっとのんびりやで癒し系の小学六年の少年、佐々田京也(ささだきょうや)が、音楽発表会や学習発表会で大忙しの二学期を、漫画の神様にもらった特別な力で乗り切るドタバタ爽快学園物語です。
コメディー色と恋愛色の強めなお話で、初めての彼女に振り回される親友を応援したり、主人公自身が初めての体験や感情をたくさん見つけてゆきます。
---------- あらすじ ----------
空気が読めず失敗ばかりだった主人公の京也は、小六の夏休みに漫画の神様から『人の感情が漫画のように見える』能力をさずけられる。
この能力があれば、『喋らない少女』の清音さんとも、無口な少年の内藤くんとも話しができるかも……?
(2023ポプラキミノベル小説大賞最終候補作)
スペクターズ・ガーデンにようこそ
一花カナウ
児童書・童話
結衣には【スペクター】と呼ばれる奇妙な隣人たちの姿が見えている。
そんな秘密をきっかけに友だちになった葉子は結衣にとって一番の親友で、とっても大好きで憧れの存在だ。
しかし、中学二年に上がりクラスが分かれてしまったのをきっかけに、二人の関係が変わり始める……。
なお、当作品はhttps://ncode.syosetu.com/n2504t/ を大幅に改稿したものになります。
改稿版はアルファポリスでの公開後にカクヨム、ノベルアップ+でも公開します。
忠犬ハジッコ
SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。
「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。
※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、
今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。
お楽しみいただければうれしいです。
こちら第二編集部!
月芝
児童書・童話
かつては全国でも有数の生徒数を誇ったマンモス小学校も、
いまや少子化の波に押されて、かつての勢いはない。
生徒数も全盛期の三分の一にまで減ってしまった。
そんな小学校には、ふたつの校内新聞がある。
第一編集部が発行している「パンダ通信」
第二編集部が発行している「エリマキトカゲ通信」
片やカジュアルでおしゃれで今時のトレンドにも敏感にて、
主に女生徒たちから絶大な支持をえている。
片や手堅い紙面造りが仇となり、保護者らと一部のマニアには
熱烈に支持されているものの、もはや風前の灯……。
編集部の規模、人員、発行部数も人気も雲泥の差にて、このままでは廃刊もありうる。
この危機的状況を打破すべく、第二編集部は起死回生の企画を立ち上げた。
それは――
廃刊の危機を回避すべく、立ち上がった弱小第二編集部の面々。
これは企画を押しつけ……げふんげふん、もといまかされた女子部員たちが、
取材絡みでちょっと不思議なことを体験する物語である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる