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第32話

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「それは……どうだろうな」

「否定しないってことは、ルディ自身も、自分はガレスより弱いって思ってないんじゃないの?」

「うむ……『強い』『弱い』をどう解釈するかにもよるが、魔法の力――つまり魔力はほぼ互角。身体能力は、あるいは余の方が少し上かもしれん。しかし、そのほかの重要な要素において、余はガレス・ゴールズに大きく劣る。まともに戦えば、ほぼ間違いなく余が負けるだろう」

「そのほかの重要な要素って?」

 ルディは視線を遠くにやり、ここではないどこかを見ながら言う。

「執念と闘争心だ。ガレス・ゴールズは魔界の武家であるゴールズ家の次男として生まれ、幼い頃より兄弟たちとしのぎを削り、激しい競争環境の中で長男を打ち倒して次期当主の座を手に入れた。その勝利に対する執着はすさまじく、自らが欲するものを得るためなら、手段も選ばない。例えるなら、狡猾なる肉食の獣だ。ふぅ……」

 息継ぎするように小さくため息を漏らし、ルディは話し続ける。

「対する余は一人っ子。幼い頃から、それはもう大切に育てられてきた。父上も母上も平和主義で、余自身も争いは好かぬ。もちろん、魔王の息子として戦いの英才教育は受けているが、実戦経験はない。それゆえ、ガレス・ゴールズとの決闘が恐ろしい。命まで失うことはないと思うが、大怪我をする可能性は十分にあるからな」

「そっか……」

 ルディの悩みや不安を少しでも軽くしてあげたいが、私にできることなどあるだろうか? 魔界の王族として、ガレスとの決闘は避けては通れないことで、何より、ガレスに居場所を知られたことで、これ以上逃げ続けることはできないとルディも覚悟しているはずだ。

 そんなルディに、どういう言葉をかけてあげればいいのかしばらく悩んだが、私は結局、思った通りのことを、少しずつ少しずつ、言葉をちぎって投げるようにして伝えることにした。

「……ルディ。もしかしたら、今から私の言うことは、あなたから立ち向かう勇気を奪うことにつながるかもしれないし、言うべきじゃないのかもしれない。……でも、やっぱり言うことにする。そんなに決闘が嫌だったら、やめなよ。自分から負けを宣言すれば、ガレスもこれ以上、あなたに付きまとうことはないはずでしょ?」

「…………」

「優しくて、争いごとが嫌いなルディが、悩んで、迷って、苦しんでまで決闘することないよ。未来の魔王にはなれなくなるけど、別の生き方だってあるでしょ? 決闘とかそういうのは、戦うのが好きな人同士でやってればいいんだよ。好きでもないことのせいで、そんなに悩むことないよ」

 ルディは、私の言葉をゆっくり噛んで飲み込むように聞いていた。そして、静かに口を開く。

「そうだな。そもそもが、指定された決闘の日を前にして人間界に逃げたのだから、実質自分で負けを認めたようなものだ。『好きでもないことのせいで、そんなに悩むことない』か……。確かにその通りだ。余の苦しみを思いやってくれるそなたの気持ちは、ただただ純粋に嬉しく、ありがたい。しかし……」

「しかし?」

「好きでなくても、自分にとって大切なことなら、悩まねばならぬこともあると思う。怯えて、逃げて、醜態をさらしている余が今さら偉そうに言えることではないかもしれぬが、余はそれでも、魔王の子。やはり、義務は果たさねばならぬ。これ以上逃げるわけにはいかない。だから数日のうちに、余は魔界に戻るよ」
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