魔界プリンスとココロのヒミツ【完結】

小平ニコ

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第30話

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 さっきから何度も何度もルディを馬鹿にされ、私もだんだん腹が立ってきた。いつの間にか、下からガレスを睨むようにして、私は反論する。

「今は弱くても、何年かたったら成長して強くなるかもしれないじゃない」

「黙れ! 生意気な奴め。現魔王様の方針で、他種族へ無意味に暴力を振るうことは禁止されているが、そうでなければ、この場で俺の強さを思い知らせてやるところだぞ!」

 いいことを聞いてしまった。少なくとも、軽々しく暴力を振るわれる心配はなさそうだ。なので、私はこれまでよりもさらに強気に文句を言う。

「私、あなたのことを強いだなんて思えない。そりゃ、戦えば強いのかもしれないけど、魔王として皆を導く人の強さって、それだけじゃないでしょ? あなたの強さは、すぐに怒ったり喚いたり、そして、相手を怖がらせて脅したり、まるで粗暴な子供みたいだよ」

 その言葉で、ガレスの顔が真っ赤になる。別に恥ずかしがっているわけではない。すさまじい勢いで頭に血が上り、激怒しているのだ。

 しまった。

 いくらなんでも、ちょっと調子に乗りすぎた。

 ガレスは右腕を振り上げる。

 その拳は、硬く握られていた。

 殴られる!

 そう思った瞬間には、ガレスの拳は私に向かっていた。

 もうかわせない(そもそも、かわすような武道の心得はない)

 強い衝撃を覚悟し、瞳を閉じる。

 1秒。

 2秒。

 3秒。

 ……4秒たっても、特に痛みはない。

 私は、恐る恐るまぶたを開く。

 なんと、振り下ろされたガレスの右腕を、ルディが掴んでいた。その表情は、今にも泣き出してしまいそうだったが、弱々しい怯えの奥に、勇気と決意が小さく――しかしハッキリときらめいていた。

「ガレス・ゴールズ。そなたが余のことをどう言おうと構わない。実際、そなたとの決闘を恐れて逃げだした余は、侮辱されても仕方ない。……だが、加奈を傷つけるのは決して許さない」

 メキメキと、にぶい音がする。ルディの手が、ガレスの腕に食い込む音だ。もの凄い握力にガレスは顔をしかめ、全身を振るようにしてルディの手を払い、私たちから大きく距離を取る。予想外のルディの反撃に、強い警戒心を抱いたのだろう。

 ガレスは服の袖をまくり、ルディに握られた場所の負傷を確認してから、「ちっ」と大きく舌打ちをした。ちらりと見えただけだけど、ガレスの負傷箇所は赤黒い色に変わっていた。いったいどれだけの力をかければ、腕があんなふうになってしまうのだろう。

 ガレスはもう、不用意にこちらに近づいてきたりはせず、代わりに攻撃的な言葉を投げかけてくる。

「やってくれるじゃないか。もう少しで腕が折れるところだった。腰抜けだと思って、少し油断しすぎたようだ。おい、ルディ・クーランド。分かっているだろうが、俺が臨戦態勢だったら、こんな簡単に腕を掴まれたりはしなかったからな。これっぽっちのことで、自分の方が強いなどとは思うなよ。貴様は俺より格下だ」

 そう言いながらも、"格下の"ルディにこれ以上向かって来る様子はなかった。ガレスは少しずつ後ずさりして、痛めた腕をさすりながら、もう一度攻撃的な言葉を投げつけてきた。今度はさっきの倍の音量で。

「今日はここまでにしておいてやる! 貴様の居場所は分かったし、決して逃がしはしない! すぐに、この世界にいられないようにしてやるからな! 楽しみにしていろ! はははははっ!」

 何がおかしいのか、最後に高笑いをして、ガレスはその場を去った。あとには、呆気にとられる私と、ゲッソリと疲れ果てたルディが残されたのだった。
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