魔界プリンスとココロのヒミツ【完結】

小平ニコ

文字の大きさ
上 下
9 / 63

第9話

しおりを挟む
 そう言うと、ルディは大きな街路樹の裏に入り、すぐに戻ってきた。なんと、彼の着ていた私服は、たった3秒ほどの間に、うちの学校の制服に変化しており、ルディの動きを見ていた数人の生徒が『えっ?』『なんで?』『手品?』などと驚きの声をあげていた。

 もちろん、驚いたのは私も同じで、ちょっと上ずった声でルディに問いかける。

「ちょっ、ルディ、その制服、どうやって……」

「魔法でちょちょいっとな。こういうのは得意なんだ」

「たぶんそうだろうとは思ったけど、やるならもっと人目のないところでやってよ。ほら、皆がさっきよりこっち見て、めちゃくちゃ目立っちゃってるよ」

「人前で着替えるのははしたないと思い、ちゃんと木の裏でやったではないか。……さっき、そなたが『少し気まずい』と言ったときから思っていたのだが、加奈よ、そなたは目立つことがあまり好きではないのか?」

 そう言われて、自分が無意識に人目を引くことを嫌がっているのに、今さらながら気がつく。でも、それを認めるのが恥ずかしいことのような気がして、私は歯切れ悪く、ボソボソと言う。

「べ、別にそんなこと……ないけど……」

「そうか。余の思い過ごしだったようだな。目立つのは良いことだ。そなたの父である史郎のように、特別な能力のある者はどんどん前に出て、その存在と才能を世界にアピールしていくべきだ。そなたもあの史郎の娘なのだから、さぞ楽器の才……」

 突然、私の心の中にある触れられたくない部分に触れられて、カッと体が熱くなる。もちろん、ルディに悪気がないことは分かってる。だから、私はなるべく態度を変えずに、だけど強引に、この話を打ち切った。

「ほら、急がないと遅刻するよ。私は直接教室に行くけど、ルディは短期の転校生扱いになるから、一度職員室に行かなきゃいけないんでしょ?」

「ん? あ、ああ、そうだな」

「そうだよ」

「……加奈、何か怒っているか?」

「怒ってないよ。本当に、怒ってない。ごめん、なんか急に、変な感じになっちゃって」

「余が何か、癇に障ることを言ったか? 史郎の話が嫌だったわけではないな。そなたが父を嫌っているわけでないのは、昨日のことでよくわかっている。では、楽器の話が……」

「ルディ、本当にごめん。私、先に行くね」

 そう言って、私はルディを置いて駆けだした。本当なら、職員室の場所なんて知らないルディをちゃんと案内してあげるべきなのに、彼を置き去りにした罪悪感で、胸がちくちくと痛む。

 でも、あのまま話を続けていたら、するどいルディは私の"触れられたくない部分"の核心に触れてしまう。そうなればきっと、私、凄くみっともない姿を見せてしまう。だから、逃げるようにその場を去った。……というより、逃げた。

(別に、みっともない姿を見せたっていいじゃない。あなたはみっともない子なんだから)

 自分で、自分を嘲る声が聞こえる。その通り。実際、私はみっともない子。だけど、ルディにみっともない姿を見られるのは、なんだか凄く嫌だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

コボンとニャンコ

魔界の風リーテ
児童書・童話
吸血コウモリのコボンは、リンゴの森で暮らしていた。 その日常は、木枯らしの秋に倒壊し、冬が厳粛に咲き誇る。 放浪の最中、箱入りニャンコと出会ったのだ。 「お前は、バン。オレが…気まぐれに決めた」 三日月の霞が晴れるとき、黒き羽衣に火が灯る。 そばにはいつも、夜空と暦十二神。 『コボンの愛称以外のなにかを探して……』 眠りの先には、イルカのエクアルが待っていた。 残酷で美しい自然を描いた、物悲しくも心温まる物語。 ※縦書き推奨  アルファポリス、ノベルデイズにて掲載 【文章が長く、読みにくいので、修正します】(2/23) 【話を分割。文字数、表現などを整えました】(2/24) 【規定数を超えたので、長編に変更。20話前後で完結予定】(2/25) 【描写を追加、変更。整えました】(2/26) 筆者の体調を破壊()3/

忠犬ハジッコ

SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。 「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。 ※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、  今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。  お楽しみいただければうれしいです。

悪魔さまの言うとおり~わたし、執事になります⁉︎~

橘花やよい
児童書・童話
女子中学生・リリイが、入学することになったのは、お嬢さま学校。でもそこは「悪魔」の学校で、「執事として入学してちょうだい」……って、どういうことなの⁉待ち構えるのは、きれいでいじわるな悪魔たち! 友情と魔法と、胸キュンもありの学園ファンタジー。 第2回きずな児童書大賞参加作です。

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

今、この瞬間を走りゆく

佐々森りろ
児童書・童話
【第2回きずな児童書大賞 奨励賞】  皆様読んでくださり、応援、投票ありがとうございました!  小学校五年生の涼暮ミナは、父の知り合いの詩人・松風洋さんの住む東北に夏休みを利用して東京からやってきた。同い年の洋さんの孫のキカと、その友達ハヅキとアオイと仲良くなる。洋さんが初めて書いた物語を読ませてもらったミナは、みんなでその小説の通りに街を巡り、その中でそれぞれが抱いている見えない未来への不安や、過去の悲しみ、現実の自分と向き合っていく。  「時あかり、青嵐が吹いたら、一気に走り出せ」  合言葉を言いながら、もう使われていない古い鉄橋の上を走り抜ける覚悟を決めるが──  ひと夏の冒険ファンタジー

こわモテ男子と激あま婚!? 〜2人を繋ぐ1on1、ブザービートからはじまる恋〜

おうぎまちこ(あきたこまち)
児童書・童話
 お母さんを失くし、ひとりぼっちになってしまったワケアリ女子高生の百合(ゆり)。  とある事情で百合が一緒に住むことになったのは、学校で一番人気、百合の推しに似ているんだけど偉そうで怖いイケメン・瀬戸先輩だった。  最初は怖くて仕方がなかったけれど、「好きなものは好きでいて良い」って言って励ましてくれたり、困った時には優しいし、「俺から離れるなよ」って、いつも一緒にいてくれる先輩から段々目が離せなくなっていって……。    先輩、毎日バスケをするくせに「バスケが嫌い」だっていうのは、どうして――?    推しによく似た こわモテ不良イケメン御曹司×真面目なワケアリ貧乏女子高生との、大豪邸で繰り広げられる溺愛同居生活開幕! ※じれじれ? ※ヒーローは第2話から登場。 ※5万字前後で完結予定。 ※1日1話更新。 ※第15回童話・児童書大賞用作品のため、アルファポリス様のみで掲載中。→noichigoさんに転載。

荒川ハツコイ物語~宇宙から来た少女と過ごした小学生最後の夏休み~

釈 余白(しやく)
児童書・童話
 今より少し前の時代には、子供らが荒川土手に集まって遊ぶのは当たり前だったらしい。野球をしたり凧揚げをしたり釣りをしたり、時には決闘したり下級生の自転車練習に付き合ったりと様々だ。  そんな話を親から聞かされながら育ったせいなのか、僕らの遊び場はもっぱら荒川土手だった。もちろん小学生最後となる六年生の夏休みもいつもと変わらず、いつものように幼馴染で集まってありきたりの遊びに精を出す毎日である。  そして今日は鯉釣りの予定だ。今まで一度も釣り上げたことのない鯉を小学生のうちに釣り上げるのが僕、田口暦(たぐち こよみ)の目標だった。  今日こそはと強い意気込みで釣りを始めた僕だったが、初めての鯉と出会う前に自分を宇宙人だと言う女子、ミクに出会い一目で恋に落ちてしまった。だが夏休みが終わるころには自分の星へ帰ってしまうと言う。  かくして小学生最後の夏休みは、彼女が帰る前に何でもいいから忘れられないくらいの思い出を作り、特別なものにするという目的が最優先となったのだった。  はたして初めての鯉と初めての恋の両方を成就させることができるのだろうか。

てのひらは君のため

星名柚花
児童書・童話
あまりの暑さで熱中症になりかけていた深森真白に、美少年が声をかけてきた。 彼は同じ中学に通う一つ年下の男子、成瀬漣里。 無口、無表情、無愛想。 三拍子そろった彼は入学早々、上級生を殴った不良として有名だった。 てっきり怖い人かと思いきや、不良を殴ったのはイジメを止めるためだったらしい。 話してみると、本当の彼は照れ屋で可愛かった。 交流を深めていくうちに、真白はどんどん漣里に惹かれていく。 でも、周囲に不良と誤解されている彼との恋は前途多難な様子で…?

処理中です...