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第107話

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 今となってはオルソン聖王国の王子のことなどどうでもよく、私は一礼してリザベルトの私室を後にした。頭の中は、これから私はどうすべきかという悩みで、いっぱいになっていた。





 そんなある日のこと。

 私は王宮の長廊下で、ひさしぶりにエリウッドと対面した。

 正式に王位を継いでからのエリウッドは、まさしく目が回るような忙しさだった。私は彼の邪魔をしないように、パーミルの聖女として、私にできる仕事を全力でこなしていたので、こうして顔を合わせるのは本当にひさしぶりの事だった。

 エリウッドは少しやせた様子だったが、その立ち振る舞いには、以前とは違う堂々とした王者の風格があった。私に気が付いたエリウッドは軽く右手を上げ、柔らかい微笑みを浮かべる。

「おお、久しいな、マリヤ。最近、あまり二人で話す時間を作れなくてすま……」

 言葉の途中で、エリウッドはふらりとよろめいた。
 私は慌てて彼に駆け寄り、その体を支える。

「エリウッド様、大丈夫ですか?」

「あ、ああ。すまない。ふふ、いかんな。こんな何もないところでふらついて。これでは王の威厳も何もあったものではない」

 エリウッドの体は、本当に、驚くほど軽かった。
 私の細腕でも苦も無く支えられるほどに。

 私は心配になって、諭すように言う。

「あの、エリウッド様。少し働きすぎでは? このままでは倒れてしまいます。重臣の方々に政務を任せて、短い間だけでも、休養を取った方が……」

「ん、そうだな。それでは、10分だけ休養を取るかな」

「10分って……短い間って言ったのは、そういう小休止みたいな意味じゃありません。少なくとも、数日は休まないと……」

「そうもいかないんだ。若い俺が父上の跡を継いだことで、今、王宮内は少し浮足立っている。ここで弱みを見せれば、内心に不満を抱いている重臣や軍部の将校たちが、よからぬ考えを起こすかもしれない。だから、今だけは、身を削ってでもやるべきことをやり続けなければならないんだ。この国の平和と、民の未来のためにな」

 この国の平和と、民の未来のため――

 エリウッドも、リザベルトと同じく、パーミルを守ることに全神経を傾け、自分の責任を果たそうとしている。そう思うと、私はもう何も言えなくなってしまった。

 そんな私の代わりに、エリウッドは静かに言う。

「ちょうどいいところに客間がある。お前の言う通り、そこでほんの少しだけ横になるとしよう。悪いが、このまま肩を貸してくれ」
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