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第82話

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 少々生意気なお説教ではあるが、まあ、こちらとしても非常に危ない目に遭ったのだから、これくらい言う権利はあるだろう。エリウッドは顔を伏せて黙っているので、私はなおも言葉を続ける。

「私の破壊の力にも、限界があります。グラディスさんがうまくハッタリをきかせてくれなかったら、今頃どうなっていたことか……」

 エリウッドは、やはり何も返事をしない。もしかして酔いつぶれて寝ているのかと思い、少々憤慨して顔を覗き込むと、意外にも、酷く反省したエリウッドの面持ちが目に入り、私は思わず黙ってしまった。

 沈黙してしまった私の代わりに、エリウッドがぽつ、ぽつと言葉を紡いでいく。

「すまん……返す言葉もない……俺の軽率な行動で、皆の命を危険にさらしてしまった……」

 痛々しいほど、力のない言葉だった。
 本当に、心の底から申し訳ないという感情のこもった言葉でもあった。

 エリウッドは少しだけ顔を上げ、私の目を見て話し続ける。

「酒が入っていたせいもあるが、あんな下劣な男に、パーミル王国を軽んじられ、誰よりも誠実であった父上を侮辱され、挙句の果てに、出たくもない会談にわざわざ出てくれたお前のことを、目の前で徹底的にコケにされて、完全に理性を失ってしまった……」

「私のために、怒ってくれたんですか?」

「綺麗な言い方をすればそういうことになるかもしれんが、結局のところ、俺は自分の感情を抑えられなかっただけだ……重ねて謝罪する……すまん……」

 私は何と言葉を返していいか分からず、黙り込む。

 ……エリウッドのとった行動は軽率だったと思うが、それでも、少しだけ嬉しい気持ちが、自分の中にある。だって私自身も、オルソン聖王国の王子にこれ以上ないほどの侮辱を受け、我慢の限界だったから。

 あそこでエリウッドが怒ってくれなかったら、私は逆上して、オルソン聖王国の王子に対し、破壊の力を使っていたかもしれない。

 もしもそうなっていたら、今とは比べ物にならないほどまずい状況になっていただろう。さすがに、王子を殺した私をそう簡単に逃がしはしないと思うし、私自身も、殺人者となってしまうところだった。あんな最低の男を消し飛ばして、一生人殺しの十字架を背負って生きていくのは嫌である。

 そう考えると、私のために怒ってくれたエリウッドに対し、改めて感謝の気持ちが込み上げてくる。さっきは『少しだけ嬉しい』という控えめな表現をしたが、実際のところは、私は彼の行動をとてもありがたく思っているのだろう。
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