上 下
71 / 121

第71話

しおりを挟む
 そんな私の緩んだ気持ちを読んだのか、ジェロームは顔を引き締めて諫める。

「マリヤ様、油断してはいけませんよ。確かに、パーミル近辺で魔物が出現することはなくなりましたが、馬車はもう国境を越え、今はオルソン聖王国の領地に入っています。最近は、空を飛ぶ……」

 そこで、ジェロームは語るのをやめた。内側の小窓を開け、御者に馬車を止めるよう指示すると、私に「このまま馬車でお待ちください」と言って、一人で外に出る。

 その後を追うようにして、私も外に出た。
 すると、上空から、ギャアギャアというなんとも耳障りな声が響いてくる。

 魔物だ。

 コウモリとカラスとプテラノドンを足して三で割ったような、不気味な姿。数は四体。体長はそれぞれ2メートル近くもあり、ギラリと光る赤い目で、こちらを値踏みするように眺めている。

 私は、すでに剣を構えているジェロームに対し、称賛の声を贈った。

「ジェローム、あなた、誰よりも早く魔物の気配を察知して、迎撃するために馬車を止めたのね。凄いわ。私なんて、全然気づかなかった」

「マリヤ様、危険です。何故出てきたのですか。『このまま馬車でお待ちください』と申し上げたはずですが……」

「まあまあ。魔物の四匹くらい、私の破壊の力を使えば一瞬で消し去れるわよ」

「それはそうですが、これから会談だというのに、ドレスが汚れでもしたらことです。ここは私にお任せを」

 敵を前にして、平然と話している私とジェロームを見て、魔物たちは『舐められている』と思ったのか、こちらを威嚇するような鳴き声を轟かせ、一斉に襲い掛かって来た。私は破壊の力を発動させず、ただ黙って、ジェロームに任せることにした。

 不安や怯えは一切ない。

 この一ヶ月、魔人討伐にはいつもジェロームも同行しており、私は身をもって彼の強さを知っている。こんな魔物ごとき、ジェロームにとっては、飛んで来る蚊を叩き落とすようなものである。

 私は一度、二度、深いまばたきをした。
 そのまばたきが終わる頃には、戦いも終わっていた。

 ジェロームは、飛燕の早業で四匹の魔物を斬り捨て、もう、鞘に剣を収めていた。

 あまりの速さで、返り血を浴びることすらない。魔物には再生能力があるが、一瞬で急所を突かれて絶命してしまえば、当然再生は不可能だ。ほれぼれするような剣さばきに、私は思わず拍手をしてしまう。
しおりを挟む
感想 29

あなたにおすすめの小説

《完結》国を追放された【聖女】は、隣国で天才【錬金術師】として暮らしていくようです

黄舞
恋愛
 精霊に愛された少女は聖女として崇められる。私の住む国で古くからある習わしだ。  驚いたことに私も聖女だと、村の皆の期待を背に王都マーベラに迎えられた。  それなのに……。 「この者が聖女なはずはない! 穢らわしい!」  私よりも何年も前から聖女として称えられているローザ様の一言で、私は国を追放されることになってしまった。 「もし良かったら同行してくれないか?」  隣国に向かう途中で命を救ったやり手の商人アベルに色々と助けてもらうことに。  その隣国では精霊の力を利用する技術を使う者は【錬金術師】と呼ばれていて……。  第五元素エーテルの精霊に愛された私は、生まれた国を追放されたけれど、隣国で天才錬金術師として暮らしていくようです!!  この物語は、国を追放された聖女と、助けたやり手商人との恋愛話です。  追放ものなので、最初の方で3話毎にざまぁ描写があります。  薬の効果を示すためにたまに人が怪我をしますがグロ描写はありません。  作者が化学好きなので、少し趣味が出ますがファンタジー風味を壊すことは無いように気を使っています。 他サイトでも投稿しています。

聖女やめます……タダ働きは嫌!友達作ります!冒険者なります!お金稼ぎます!ちゃっかり世界も救います!

さくしゃ
ファンタジー
職業「聖女」としてお勤めに忙殺されるクミ 祈りに始まり、一日中治療、時にはドラゴン討伐……しかし、全てタダ働き! も……もう嫌だぁ! 半狂乱の最強聖女は冒険者となり、軟禁生活では味わえなかった生活を知りはっちゃける! 時には、不労所得、冒険者業、アルバイトで稼ぐ! 大金持ちにもなっていき、世界も救いまーす。 色んなキャラ出しまくりぃ! カクヨムでも掲載チュッ ⚠︎この物語は全てフィクションです。 ⚠︎現実では絶対にマネはしないでください!

聖女が降臨した日が、運命の分かれ目でした

猫乃真鶴
ファンタジー
女神に供物と祈りを捧げ、豊穣を願う祭事の最中、聖女が降臨した。 聖女とは女神の力が顕現した存在。居るだけで豊穣が約束されるのだとそう言われている。 思ってもみない奇跡に一同が驚愕する中、第一王子のロイドだけはただ一人、皆とは違った視線を聖女に向けていた。 彼の婚約者であるレイアだけがそれに気付いた。 それが良いことなのかどうなのか、レイアには分からない。 けれども、なにかが胸の内に燻っている。 聖女が降臨したその日、それが大きくなったのだった。 ※このお話は、小説家になろう様にも掲載しています

神殿から追放された聖女 原因を作った奴には痛い目を見てもらいます!

秋鷺 照
ファンタジー
いわれのない罪で神殿を追われた聖女フェノリアが、復讐して返り咲く話。

妹と寝たんですか?エセ聖女ですよ?~妃の座を奪われかけた令嬢の反撃~

岡暁舟
恋愛
100年に一度の確率で、令嬢に宿るとされる、聖なる魂。これを授かった令嬢は聖女と認定され、無条件で時の皇帝と婚約することになる。そして、その魂を引き当てたのが、この私、エミリー・バレットである。 本来ならば、私が皇帝と婚約することになるのだが、どういうわけだか、偽物の聖女を名乗る不届き者がいるようだ。その名はジューン・バレット。私の妹である。 別にどうしても皇帝と婚約したかったわけではない。でも、妹に裏切られたと思うと、少し癪だった。そして、既に二人は一夜を過ごしてしまったそう!ジューンの笑顔と言ったら……ああ、憎たらしい! そんなこんなで、いよいよ私に名誉挽回のチャンスが回ってきた。ここで私が聖女であることを証明すれば……。

聖女追放 ~私が去ったあとは病で国は大変なことになっているでしょう~

白横町ねる
ファンタジー
聖女エリスは民の幸福を日々祈っていたが、ある日突然、王子から解任を告げられる。 王子の説得もままならないまま、国を追い出されてしまうエリス。 彼女は亡命のため、鞄一つで遠い隣国へ向かうのだった……。 #表紙絵は、もふ様に描いていただきました。 #エブリスタにて連載しました。

【完結】人々に魔女と呼ばれていた私が実は聖女でした。聖女様治療して下さい?誰がんな事すっかバーカ!

隣のカキ
ファンタジー
私は魔法が使える。そのせいで故郷の村では魔女と迫害され、悲しい思いをたくさんした。でも、村を出てからは聖女となり活躍しています。私の唯一の味方であったお母さん。またすぐに会いに行きますからね。あと村人、テメぇらはブッ叩く。 ※三章からバトル多めです。

聖女として全力を尽くしてまいりました。しかし、好色王子に婚約破棄された挙句に国を追放されました。国がどうなるか分かっていますか?

宮城 晟峰
ファンタジー
代々、受け継がれてきた聖女の力。 それは、神との誓約のもと、決して誰にも漏らしてはいけない秘密だった。 そんな事とは知らないバカな王子に、聖女アティアは追放されてしまう。 アティアは葛藤の中、国を去り、不毛の地と言われた隣国を豊穣な地へと変えていく。 その話を聞きつけ、王子、もといい王となっていた青年は、彼女のもとを訪れるのだが……。 ※完結いたしました。お読みいただきありがとうございました。

処理中です...