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第70話
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もちろん、もう二度とオルソン聖王国に足を踏み入れたくなんてない。
あの、最低の王子の顔なんて、見たくもない。
なのになぜ、行くのか?
簡単な話である。
私には、責任があると思ったからだ。
私は今、パーミルの聖女として、王族に次ぐ地位で、様々な恩恵を受けている。
いや、誤解を恐れずに言うならば、近隣の魔人たちを討ち果たし、パーミルの平和を取り戻した今の私の地位は、王族に匹敵すると言っても言い過ぎではない。町を歩けば、老若男女、皆が私に頭を下げ、衛兵は直立不動で敬礼をする。王宮内に一流ホテルのスイートルーム以上の私室を与えられ、何不自由ない生活だ。
あれ、おかしいわね。
なんか、自慢話みたいになっちゃった。
違うのよ。
別に自慢したいんじゃないのよ。
つまり、何を言いたいかっていうと、王族みたいな立場になった以上、恩恵を受けるだけじゃなくて、立場上の責任と義務が発生するんじゃないかってことを言いたいのよ。
エリウッドだって、オルソン聖王国は嫌いなのに、王族の責任を果たすため、わざわざ出向いて行くのだ。オルソンと関係を良くしておくことが、パーミルの国益を守り、ひいては、パーミルの国民を守ることに繋がるからだ。
ならば、王族とほとんど同等の立場と言ってもいい『パーミルの聖女』である私だって、オルソンとの会談から逃げるわけにはいかないだろう。それが『特別な立場にいる者』の責任というものである。
そんなわけで、私は今、馬車に揺られてオルソン聖王国に向かっている。
豪勢で柔らかな座席に腰を下ろし、流れゆく景色を見ていると、およそ一ヶ月前、行商人のホランドさんの荷馬車に乗って同じ道を進んだことを思い出し、何とも言えない懐かしい気分になる。
「あれからまだ、たったの一ヶ月しか経っていないのね……」
誰に言うでもなく、しみじみとそうつぶやく私。
向かいの座席に座っているジェロームが、微笑と共に言う。
「そのたった一ヶ月で、あなたはこの近辺の魔人を全て消し去ってしまいました。まさに『伝承の聖女』の名にふさわしい、偉大なる業績です」
日常的に私の警護を担当しているジェロームは、今日もこうして、私の一番近くで外敵に目を光らせている。もっとも、パーミル近隣で魔物が発生することはなくなったので、外敵に襲われる心配など、もうない気もするが。
あの、最低の王子の顔なんて、見たくもない。
なのになぜ、行くのか?
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私には、責任があると思ったからだ。
私は今、パーミルの聖女として、王族に次ぐ地位で、様々な恩恵を受けている。
いや、誤解を恐れずに言うならば、近隣の魔人たちを討ち果たし、パーミルの平和を取り戻した今の私の地位は、王族に匹敵すると言っても言い過ぎではない。町を歩けば、老若男女、皆が私に頭を下げ、衛兵は直立不動で敬礼をする。王宮内に一流ホテルのスイートルーム以上の私室を与えられ、何不自由ない生活だ。
あれ、おかしいわね。
なんか、自慢話みたいになっちゃった。
違うのよ。
別に自慢したいんじゃないのよ。
つまり、何を言いたいかっていうと、王族みたいな立場になった以上、恩恵を受けるだけじゃなくて、立場上の責任と義務が発生するんじゃないかってことを言いたいのよ。
エリウッドだって、オルソン聖王国は嫌いなのに、王族の責任を果たすため、わざわざ出向いて行くのだ。オルソンと関係を良くしておくことが、パーミルの国益を守り、ひいては、パーミルの国民を守ることに繋がるからだ。
ならば、王族とほとんど同等の立場と言ってもいい『パーミルの聖女』である私だって、オルソンとの会談から逃げるわけにはいかないだろう。それが『特別な立場にいる者』の責任というものである。
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向かいの座席に座っているジェロームが、微笑と共に言う。
「そのたった一ヶ月で、あなたはこの近辺の魔人を全て消し去ってしまいました。まさに『伝承の聖女』の名にふさわしい、偉大なる業績です」
日常的に私の警護を担当しているジェロームは、今日もこうして、私の一番近くで外敵に目を光らせている。もっとも、パーミル近隣で魔物が発生することはなくなったので、外敵に襲われる心配など、もうない気もするが。
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