上 下
38 / 121

第38話

しおりを挟む
 そんなことを話しながら、私たちは洞窟の奥へ奥へと進んで行く。

 エリウッドが最初に言った通り、洞窟内は、かなり複雑な迷路だったが、魔人の潜伏場所はもう特定しているらしく、エリウッドは悩むことなくルートを選び、私を先導する。

 そして、細々とした通路を三十分程歩いた頃。
 これまでよりも天井が高く、広い空間に出た。

 どういう理屈なのか、太陽の光など届くはずがない洞窟の深部なのに、ぼんやりと明るい。その、淡い光に囲まれるようにして、丸い岩の上に、一人の男が座禅を組んでいた。

 ……お坊さん?

 それが、男に対する、私の第一印象だった。

 ほとんど半裸であり、身にまとっているのは、ボロボロの袈裟だけ。
 しかし、不思議と薄汚い印象は受けず、ある種の気高さすら感じる。

 静かな眼差しでこちらを見つめるその姿からは、一切の敵愾心を感じない。

 ……なんで、こんなところにお坊さんが?

 私は、エリウッドにそう尋ねようとした。
 しかし、途中で言葉を飲み込んでしまった。

 エリウッドが腰の剣を抜き、その切っ先をお坊さんに向けたからだ。

「魔人、ゴーファだな。魔獣を操り、我が臣民と、街道を行く罪なき旅人を傷つけた罪、万死に値する。何か、申し開きはあるか?」

 魔人、ゴーファ……
 この、穏やかで、優しそうなお坊さんが、魔人なのか……

 いや、エリウッドが、迷うことなくここまでやって来て、この場にいたのがあのお坊さんだけなのだから、彼が魔人なのだろうとは、薄々思っていた。しかし、私の中にあった邪悪な魔人のイメージとはあまりにもかけ離れていて、なかなか事実を受け止めることができない。

 ゴーファはゆっくりと口を開く。
 その声は、驚くほど澄んでおり、爽やかだった。

「罪……罪ですか。なるほど、人々を傷つけた私には、確かに罪があります。しかし、『罪なき旅人』というのは、いかがなものでしょうか」

「なんだと?」

「私が殺した旅人の大半は、商人です。彼らは何の罪もない豚や牛を殺し、肉にして売ります。自分の金もうけのためにです。これは罪です」

「…………」

「彼らの罪は、それだけにとどまりません。不当な値段交渉で、大した価値もない物の値段を驚くほど釣り上げて、無知な者に売りつけます。逆に、上手に人を欺き、価値のある物を、はした金で詐取することもあります。これは罪です」

「なるほど、お前の言いたいことは分かった。だがそれは、魔物に惨たらしく殺されなければならないほどの罪か?」
しおりを挟む
感想 29

あなたにおすすめの小説

《完結》国を追放された【聖女】は、隣国で天才【錬金術師】として暮らしていくようです

黄舞
恋愛
 精霊に愛された少女は聖女として崇められる。私の住む国で古くからある習わしだ。  驚いたことに私も聖女だと、村の皆の期待を背に王都マーベラに迎えられた。  それなのに……。 「この者が聖女なはずはない! 穢らわしい!」  私よりも何年も前から聖女として称えられているローザ様の一言で、私は国を追放されることになってしまった。 「もし良かったら同行してくれないか?」  隣国に向かう途中で命を救ったやり手の商人アベルに色々と助けてもらうことに。  その隣国では精霊の力を利用する技術を使う者は【錬金術師】と呼ばれていて……。  第五元素エーテルの精霊に愛された私は、生まれた国を追放されたけれど、隣国で天才錬金術師として暮らしていくようです!!  この物語は、国を追放された聖女と、助けたやり手商人との恋愛話です。  追放ものなので、最初の方で3話毎にざまぁ描写があります。  薬の効果を示すためにたまに人が怪我をしますがグロ描写はありません。  作者が化学好きなので、少し趣味が出ますがファンタジー風味を壊すことは無いように気を使っています。 他サイトでも投稿しています。

聖女やめます……タダ働きは嫌!友達作ります!冒険者なります!お金稼ぎます!ちゃっかり世界も救います!

さくしゃ
ファンタジー
職業「聖女」としてお勤めに忙殺されるクミ 祈りに始まり、一日中治療、時にはドラゴン討伐……しかし、全てタダ働き! も……もう嫌だぁ! 半狂乱の最強聖女は冒険者となり、軟禁生活では味わえなかった生活を知りはっちゃける! 時には、不労所得、冒険者業、アルバイトで稼ぐ! 大金持ちにもなっていき、世界も救いまーす。 色んなキャラ出しまくりぃ! カクヨムでも掲載チュッ ⚠︎この物語は全てフィクションです。 ⚠︎現実では絶対にマネはしないでください!

聖女が降臨した日が、運命の分かれ目でした

猫乃真鶴
ファンタジー
女神に供物と祈りを捧げ、豊穣を願う祭事の最中、聖女が降臨した。 聖女とは女神の力が顕現した存在。居るだけで豊穣が約束されるのだとそう言われている。 思ってもみない奇跡に一同が驚愕する中、第一王子のロイドだけはただ一人、皆とは違った視線を聖女に向けていた。 彼の婚約者であるレイアだけがそれに気付いた。 それが良いことなのかどうなのか、レイアには分からない。 けれども、なにかが胸の内に燻っている。 聖女が降臨したその日、それが大きくなったのだった。 ※このお話は、小説家になろう様にも掲載しています

神殿から追放された聖女 原因を作った奴には痛い目を見てもらいます!

秋鷺 照
ファンタジー
いわれのない罪で神殿を追われた聖女フェノリアが、復讐して返り咲く話。

妹と寝たんですか?エセ聖女ですよ?~妃の座を奪われかけた令嬢の反撃~

岡暁舟
恋愛
100年に一度の確率で、令嬢に宿るとされる、聖なる魂。これを授かった令嬢は聖女と認定され、無条件で時の皇帝と婚約することになる。そして、その魂を引き当てたのが、この私、エミリー・バレットである。 本来ならば、私が皇帝と婚約することになるのだが、どういうわけだか、偽物の聖女を名乗る不届き者がいるようだ。その名はジューン・バレット。私の妹である。 別にどうしても皇帝と婚約したかったわけではない。でも、妹に裏切られたと思うと、少し癪だった。そして、既に二人は一夜を過ごしてしまったそう!ジューンの笑顔と言ったら……ああ、憎たらしい! そんなこんなで、いよいよ私に名誉挽回のチャンスが回ってきた。ここで私が聖女であることを証明すれば……。

聖女追放 ~私が去ったあとは病で国は大変なことになっているでしょう~

白横町ねる
ファンタジー
聖女エリスは民の幸福を日々祈っていたが、ある日突然、王子から解任を告げられる。 王子の説得もままならないまま、国を追い出されてしまうエリス。 彼女は亡命のため、鞄一つで遠い隣国へ向かうのだった……。 #表紙絵は、もふ様に描いていただきました。 #エブリスタにて連載しました。

【完結】人々に魔女と呼ばれていた私が実は聖女でした。聖女様治療して下さい?誰がんな事すっかバーカ!

隣のカキ
ファンタジー
私は魔法が使える。そのせいで故郷の村では魔女と迫害され、悲しい思いをたくさんした。でも、村を出てからは聖女となり活躍しています。私の唯一の味方であったお母さん。またすぐに会いに行きますからね。あと村人、テメぇらはブッ叩く。 ※三章からバトル多めです。

聖女として全力を尽くしてまいりました。しかし、好色王子に婚約破棄された挙句に国を追放されました。国がどうなるか分かっていますか?

宮城 晟峰
ファンタジー
代々、受け継がれてきた聖女の力。 それは、神との誓約のもと、決して誰にも漏らしてはいけない秘密だった。 そんな事とは知らないバカな王子に、聖女アティアは追放されてしまう。 アティアは葛藤の中、国を去り、不毛の地と言われた隣国を豊穣な地へと変えていく。 その話を聞きつけ、王子、もといい王となっていた青年は、彼女のもとを訪れるのだが……。 ※完結いたしました。お読みいただきありがとうございました。

処理中です...