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第11話

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 しかし、それは今、心配することではない。
 私は中に入り、受付の女の人に『市民権を得たい』旨を伝えた。

 受付の人は、「かしこまりました」と言い、何かの書類を用意すると、問いかけてくる。

「では、まずお名前を教えてください」

「あ、はい。黒木真理矢です」

「クロキマリヤさん、ですね」

「あ、いえ、その、繋げて読むんじゃなくて、黒木が姓、真理矢が名です」

「せい……? めい……? 名前が二つあるのですか? めずらしいですね。登録できる名前は一つだけなので、どちらかに決めてほしいのですが」

 ふぬぬ。
 もしかして、この世界の人々には、姓名という概念がないのかしら。
 じゃあまあ、郷に入っては郷に従えということで……

「それじゃ、マリヤでお願いします」

「はい、マリヤさん、ですね。それでは、面接を始めます」

 いきなり!? 個室とかに行かないで、こんな、他にも人がいるような場所で、それも受付のお姉さんが、面接するの!?

 と、まあ、少々焦ったが、役所が閉じるまで、もうあまり時間がないようなので、余計な手続きなしで面接を始めてくれるのは、こっちにとってはありがたいことだ。私は一度咳払いして、「はい」と頷いた。

「では、マリヤさん。あなたは何ができますか?」

 おおう。
 単刀直入ね。

 持って回ったような聞き方をしてくるいやらしい面接よりずっといいわ。

「えっと、魔法が使えます」

「どのような魔法ですか?」

 ちょっと考えて、素直に、ありのままを述べる。

「ヘルハウンド三頭くらいなら、一瞬で消し去れる魔法です」

 そこで突然、淡々と事務的な対応をしていた受付さんの顔に、苛立ちが浮かんだ。彼女は小さくため息を漏らすと、眉間に寄った皺を揉みほぐし、言う。

「市民権を得るために、自分を大きく評価してもらいたい気持ちはわかりますが、あまり非現実的なことを言うものではありませんよ。こちらも、戯言に付き合っているほど暇ではないので」

 むっ。
 戯言とは何よ、戯言とは。

 私の憮然とした表情に、ますます苛立ったのか、受付さんはもう、不快感を隠すつもりもない感じで、言葉を紡いでいく。

「ヘルハウンドは、かなり厄介な魔物です。高位の魔法使いが二人がかりで戦っても、一匹仕留めるのにもの凄く苦労するんですよ。それを、三頭を一瞬で消し去るだなんて、子供だってもう少しまともな嘘をつきます。自己アピールをしたいなら、もう少し頭を使ってくださいね」
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