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第7話
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「あ、なるほど。そういう考え方もできるんですね。差別意識バリバリのオルソン聖王国より、ずっといいかも。それに私、この世界に来たばかりで、何の身分証明もできないから、出自が気にされないっていうのは、助かるわ」
ホランドさんは「そうだね」と頷き、馬に軽く鞭を入れた。
少しだけ、馬車のスピードが上がる。
街道をよく見ると、先程までより平らで、石などの障害物がほとんどない。道の状態が良いから、少し先を急ぐことにしたのだろう。しばらく無言で進み続けた後、ホランドさんがまた口を開く。
「マリヤさんのさっきの魔法は凄かったから、あれを見せれば、すぐに二級市民の資格が貰えると思うよ。いや、もしかしたら、類まれなる魔法の才能の持ち主として、一級市民にしてもらえるかも」
「そうなったら嬉しいですけど、でも私、自分の意思であの『黒い光』をコントロールできる気がしないんです。さっきだって、なんであんなことができたのか、ハッキリ言って全然わからないし」
「そうなのかい? ん-……あっ、ほら、あれ、道の先、街道から外れたところに、大きな岩があるだろう? 試しにあれを狙って、さっきの『黒い光』で攻撃してみたら?」
「いやいやいや、ですから、自分の意思でコントロールできないんですってば」
「だからこそだよ。コントロールできるように、今のうちに練習しておかないと。パーミルについた時に、自分の意思で魔法を使えるようになってないと、能力を証明できないだろう? さあさあ、早くやってみせてよ」
そっか。
確かにその通りだ。
しかし、このホランドさんの、期待に満ちた顔。
私が魔法をコントロールできるようになるように……というのは建前で、ただもう一度、あの『黒い光』を見たいだけなのではないかという気がしてくる。
まあ、それでもいいか。
パーミルで市民権を得るため、そして、自衛のためにも、自分の意思で魔法を使えるようにならなければいけないのは確かなことだ。私は走り続ける馬車の中から大岩に狙いを定め、先程ヘルハウンドにそうしたように、『黒い光』を発動させた。
……つもりだったのだが、何も起こらない。
何かが起こる、気配すらない。
「えい」「やあ」と気合を入れ、あと二回ほど、発動を試みたが、やはり何も起こらず、馬車は結局、大岩の横を走り抜けてしまった。私は少々落胆し、ため息と共に言う。
「なんか、駄目っぽいです。さっきのは、ただの偶然だったのかも……」
ホランドさんは「そうだね」と頷き、馬に軽く鞭を入れた。
少しだけ、馬車のスピードが上がる。
街道をよく見ると、先程までより平らで、石などの障害物がほとんどない。道の状態が良いから、少し先を急ぐことにしたのだろう。しばらく無言で進み続けた後、ホランドさんがまた口を開く。
「マリヤさんのさっきの魔法は凄かったから、あれを見せれば、すぐに二級市民の資格が貰えると思うよ。いや、もしかしたら、類まれなる魔法の才能の持ち主として、一級市民にしてもらえるかも」
「そうなったら嬉しいですけど、でも私、自分の意思であの『黒い光』をコントロールできる気がしないんです。さっきだって、なんであんなことができたのか、ハッキリ言って全然わからないし」
「そうなのかい? ん-……あっ、ほら、あれ、道の先、街道から外れたところに、大きな岩があるだろう? 試しにあれを狙って、さっきの『黒い光』で攻撃してみたら?」
「いやいやいや、ですから、自分の意思でコントロールできないんですってば」
「だからこそだよ。コントロールできるように、今のうちに練習しておかないと。パーミルについた時に、自分の意思で魔法を使えるようになってないと、能力を証明できないだろう? さあさあ、早くやってみせてよ」
そっか。
確かにその通りだ。
しかし、このホランドさんの、期待に満ちた顔。
私が魔法をコントロールできるようになるように……というのは建前で、ただもう一度、あの『黒い光』を見たいだけなのではないかという気がしてくる。
まあ、それでもいいか。
パーミルで市民権を得るため、そして、自衛のためにも、自分の意思で魔法を使えるようにならなければいけないのは確かなことだ。私は走り続ける馬車の中から大岩に狙いを定め、先程ヘルハウンドにそうしたように、『黒い光』を発動させた。
……つもりだったのだが、何も起こらない。
何かが起こる、気配すらない。
「えい」「やあ」と気合を入れ、あと二回ほど、発動を試みたが、やはり何も起こらず、馬車は結局、大岩の横を走り抜けてしまった。私は少々落胆し、ため息と共に言う。
「なんか、駄目っぽいです。さっきのは、ただの偶然だったのかも……」
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