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第47話(ルーパート視点)
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罪悪感が、洪水のように押し寄せ、僕の心を滅茶苦茶に壊した。
その洪水は、涙となって目から溢れ、僕はもう、自分がどちらを向いているのかもわからなくなった。やがて、なんとかアドレーラの姿を確認すると、小袋を半ば無理やり彼女に押し付け、必死に言葉を紡ぐ。
「どうしても、受け取れません。僕には、あなたに情けをかけてもらう資格がないんです……!」
そして、逃げた。
後ろから、「待って」と声をかけられたが、待たなかった。
とにかく、走った。
死んでしまえ。
死んでしまえ。
死んでしまえ。
お前のようなクズ、今すぐ死んでしまえ。
走って走って走って、いつしか僕は、町の盛り場に到着していた。
チンピラや娼婦が、こちらを指さして、何かを囁き合っている。
「おい、あれ、ルーパートじゃないか?」
「ああ、間違いない、ルーパートだ」
「何あの汚い姿。馬鹿だけど身なりだけは良かったのに」
「死んだって噂だったけど、まだ生きてたんだな。ちっ」
そんなことを、囁き合っている。
僕は彼らを無視して、貴族時代、馴染みだった賭場に入った。
中ではチンピラどもが、すでに流行ではなくなりつつあるダイス賭博に興じていた。
なんだか懐かしくて、僕は少しだけ笑った。
賭場の主人が、僕に気がついた。
「これはこれは、ルーパートの旦那じゃありませんか。随分と久しぶりですね。今までいったい、どこに隠れてやがったんです? ……おい、こら、なんとか言えや。ぶち殺すぞ、てめぇ」
語り掛けながら、どんどん興奮していっているのか、彼の浅黒い顔が、見る見るうちに赤くなる。賭場の主人は、僕に怒っているのだ。
当然だ。
イズリウム家を追放された日も、僕はこの賭場で酒を飲みながら、バクチを楽しみ、そして、大負けしていた。……その際、酒代も、バクチの負け分も、いつも通り『後で兄上が払う』と言い、ツケにしておいたのだ。
しかし、その日の正午、僕はイズリウム家とは何の関係もなくなってしまった。
兄上に取り立てに行った賭場の主人は、さぞ驚き、そして憤慨したことだろう。僕のこしらえた多額のツケは、もはやどうあがいても回収できなくなってしまったのだから。
なので僕はこれまで、この悪鬼のごとき賭場の主人だけには見つからないように、ビクビクと隠れて過ごしていた。見つかったら、まず間違いなく殺されるからだ。
だが今は、その悪鬼が天からの御使いに見える。
さあ、殺してくれ。
その太い腕で、僕を殴り殺してくれ。
絞め殺すのでもいい。
とにかく、早く、早く殺してくれ。
ああ。
見ている。
睨んでいる。
賭場の主人が。
もの凄い目で僕を見ている。
彼はのしのしと近づいて来て、岩石のように巨大な拳で、僕を殴りつけた。
そのただ一撃で、僕の意識は消失した。
その洪水は、涙となって目から溢れ、僕はもう、自分がどちらを向いているのかもわからなくなった。やがて、なんとかアドレーラの姿を確認すると、小袋を半ば無理やり彼女に押し付け、必死に言葉を紡ぐ。
「どうしても、受け取れません。僕には、あなたに情けをかけてもらう資格がないんです……!」
そして、逃げた。
後ろから、「待って」と声をかけられたが、待たなかった。
とにかく、走った。
死んでしまえ。
死んでしまえ。
死んでしまえ。
お前のようなクズ、今すぐ死んでしまえ。
走って走って走って、いつしか僕は、町の盛り場に到着していた。
チンピラや娼婦が、こちらを指さして、何かを囁き合っている。
「おい、あれ、ルーパートじゃないか?」
「ああ、間違いない、ルーパートだ」
「何あの汚い姿。馬鹿だけど身なりだけは良かったのに」
「死んだって噂だったけど、まだ生きてたんだな。ちっ」
そんなことを、囁き合っている。
僕は彼らを無視して、貴族時代、馴染みだった賭場に入った。
中ではチンピラどもが、すでに流行ではなくなりつつあるダイス賭博に興じていた。
なんだか懐かしくて、僕は少しだけ笑った。
賭場の主人が、僕に気がついた。
「これはこれは、ルーパートの旦那じゃありませんか。随分と久しぶりですね。今までいったい、どこに隠れてやがったんです? ……おい、こら、なんとか言えや。ぶち殺すぞ、てめぇ」
語り掛けながら、どんどん興奮していっているのか、彼の浅黒い顔が、見る見るうちに赤くなる。賭場の主人は、僕に怒っているのだ。
当然だ。
イズリウム家を追放された日も、僕はこの賭場で酒を飲みながら、バクチを楽しみ、そして、大負けしていた。……その際、酒代も、バクチの負け分も、いつも通り『後で兄上が払う』と言い、ツケにしておいたのだ。
しかし、その日の正午、僕はイズリウム家とは何の関係もなくなってしまった。
兄上に取り立てに行った賭場の主人は、さぞ驚き、そして憤慨したことだろう。僕のこしらえた多額のツケは、もはやどうあがいても回収できなくなってしまったのだから。
なので僕はこれまで、この悪鬼のごとき賭場の主人だけには見つからないように、ビクビクと隠れて過ごしていた。見つかったら、まず間違いなく殺されるからだ。
だが今は、その悪鬼が天からの御使いに見える。
さあ、殺してくれ。
その太い腕で、僕を殴り殺してくれ。
絞め殺すのでもいい。
とにかく、早く、早く殺してくれ。
ああ。
見ている。
睨んでいる。
賭場の主人が。
もの凄い目で僕を見ている。
彼はのしのしと近づいて来て、岩石のように巨大な拳で、僕を殴りつけた。
そのただ一撃で、僕の意識は消失した。
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