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第33話(ルーパート視点)

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 僕は、何も答えられなかった。

 これからイズリウム家がどうなるのかわからなかった……というのもあるが、兄上が尖ったつま先で、小刻みに僕の腹を蹴るので、とても言葉を紡ぎだせる状態ではなかったのだ。

 兄上自身も、僕からの回答を求めてはいなかったらしく、一人、静かに、問いの答えを吐き出していく。それはまるで、魂を絞りだすような、暗く、重たい声だった。

「お前がアドレーラ嬢におこなった、残虐かつ卑劣な行動が皆の知るところとなれば、たとえドルフレッド様が我らを許したとしても、この国のほぼ全員が、イズリウム家を目のかたきにするだろう。やがて、事の詳細は、国王陛下の耳にも入ることとなり、我がイズリウム家はお取り潰し、私たちは全員、貴族どころか、平民ですらなくなる」

 し、知らなかった……

 体がでかいことだけが取り柄だと思っていた、あのお人よしのドルフレッドが、民衆だけではなく、国王陛下のご判断にまで影響を与えるほどの人物だったとは。兄上は、とうとう僕を蹴る気力もなくなったのか、頭を抱え、「もう終わりだ」と呟いてへたり込んだ。

 そこに、誰かやって来た。
 ……かつて、僕が歯を折ってやった、執事のジョーンズだ。

 ジョーンズは、酷い有様になった僕を見て少し驚いたようだが、すぐに気を取り直し、兄上の前で、直立不動の姿勢を取りながら、言う。

「ご当主様、申し上げます。たった今、レデリップ家から使いの方がいらっしゃいました。ご当主様と、今後のことについて、重要な話がしたいと……」

「重要な話だと……? 我々は、これから滅びの道を行くだけだ。何を話すというのだ?」

「詳しくはわかりません。しかし、イズリウム家にとって、悪い話ではないとのことでした。……あまりお待たせするのもどうかと思いますし、とにかく、会うだけ会ってみた方が、よろしいかと存じますが」

 兄上は細い顎に指をあて、ほんの少しだけ考えていたが、やがて、頷く。

「そ、そうだな。お前の言う通りだ。レデリップ家の使いは、応接室にお通ししてくれ、丁重にな。私もすぐに行く」

 そして兄上は、僕のことなど目もくれずに、身支度を整えると、部屋を飛び出していった。僕はもう、身じろぎする気力もなく、そのまま壁に寄り掛かり、ぼおっとしていた。

 十五分ほどして、兄上が帰って来た。

 その顔は、まさしく喜色満面。
 まるで、死人が生き返ったかのようだ。

 どうやら、レデリップ家の使いとやらが持ってきた話は、よっぽど兄上の意にかなうものだったらしい。兄上は小躍りし、歌でも歌いだしそうなほどの上機嫌で、僕の両肩を優しく掴んだ。
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