身勝手な理由で婚約者を殺そうとした男は、地獄に落ちました【完結】

第１話

「アドレーラ。お前の目は本当に細いな。これほど近づいても、開いているのか、閉じているのかよくわからん。……本当に、醜い目だ。見ていてイライラする」

　許嫁であるルーパート様に突然そう言われ、私は身を竦ませました。……ルーパート様が私の身体的特徴を貶める際は、言葉から少し遅れて、必ず暴力を振るうからです。

　ぱぁんっ。

　予想していた通り、ルーパート様は私の顔――それも、彼が醜いと罵った目のあたりを、激しく平手で殴打しました。

　痛い……

　私はぐらつきましたが、必死に姿勢を保ち、倒れはしませんでした。倒れると、無防備な背中をルーパート様に蹴られるからです。いつも、そうなのです。

　ぶたれた目からは、涙が溢れていましたが、私は一生懸命作り笑いを浮かべ、ルーパート様に愛想を振りまきました。以前に、『陰気な奴め、醜い顔なのだから、せめて愛想だけは良くしていろ』と命じられたからです。

　しかし、私の卑屈な愛想笑いが気に入らなかったのか、ルーパート様はますます不快そうな顔になり、先程とは反対の目を殴りました。

　今度は、平手ではなく、拳での一撃でした。
　これにはたまらず、私は地面に倒れ伏します。

　泣いてはいけない。
　泣いたら、ルーパート様はより一層不機嫌になる。

　そう思いつつも、痛くて、悲しくて、慟哭を止めることができませんでした。そしてその慟哭は、ルーパート様の苛立ちと嗜虐心に油を注ぐこととなり、ルーパート様は、私を三度蹴りつけ、四度踏み、それからまた、一際強くお腹を蹴りました。

　あまりの苦しさに、もう呼吸をするのがやっとです。
　倒れた時に頬の内側を切ったのか、口いっぱいに、血の味がしました。

　ここは、町から遠く離れた森の奥地。

　かつて、西の国と、東の国の間で戦争が起こった際、主戦場になったこともある曰く付きの場所で、普通の人はまず立ち入ることはありません。……ルーパート様はしばしば私をここに連れ出して、今日のように、私を激しく虐めました。

　いつもではありません。
　普段のルーパート様はとても優しいのです。

　私は、優しい時のルーパート様が好きです。
　ルーパート様に「愛しているよ」と言われるのが、好きです。

　だから、酷いことをされても、耐えられるのです。

　殴られても、蹴られても、踏まれても、じっと耐えてさえいれば、怖いルーパート様はいなくなり、優しいルーパート様が帰ってくるから。

　でも、どうしてルーパート様が時折暴力を振るうのか、いくら考えても理由が分からず、私は一度だけ思い切って、直接尋ねました。