2 / 5
城壁前ーお猫様との別離
しおりを挟むかわいらしく人間臭い猫について歩いて5分、あれだけ遠かった地平線の先が今目の前にある。
大きな門だ。ゲームの城壁みたいな。
少し離れたところには人の列も見える。城壁ってことはあれが入り口だろうか?何はともあれ人―らしき影―がいるってことは食べ物やなにがしかがあるはずだ。あとは言葉が通じるかどうかだが、最悪ジェスチャーでどうにかなるだろう。異端として排除される可能性もあるが、形がよく似てるものに突然暴力をふるうことはない、だろう。ない、はずだ。
「猫様、ありがとうござっ、てあれ?」
とりあえずここまで連れてきてくれた猫にお礼を言おうとしたがさっきまで足元にいたはずなのにいない。パッとあたりを見渡したが見当たらない。
「お猫様ぁ~」
気ままな猫だからしょうがないが、一気に心細くなる。
元が野良猫なんだ探してもしょうがないのは重々承知ではあるがみっともなくはいつくばって周囲の物陰などを探してみる。
まぁ見つからない。情けないが半泣きになった。いやいや、しょうがない。だって俺は一人前の男になる直前の17歳。あと数時間とはいえまだ17歳だからな!まだ子供といっても過言ではない、はずだ。
「どうした兄ちゃん」
心細く半泣きになっていたら突然声をかけられた。
「ひゃいっ!」
驚きすぎて甲高い声が出た。半泣きなのも相まって恥ずかしい。今度は羞恥で涙が出そうだ。
「どうした、財布でもなくしたか?」
しゃがみこんだ俺に合わせてしゃがみこんでくる気配を感じる。
にしても、言葉がわかる、な?こちらの言葉も通じるか?
「い、いえ…っ大丈夫」
振り返ってみるとガタイの良いおっさんが心配そうに俺を見ていた。服装は俺と変わらない感じである。似ても似つかないがなぜか親父に重なって見えた。年が近いからだろうか。朝顔を見たばかりなのにひどく懐かしい。
「お、おい!なにも泣くことないだろ?どうした?財布に大事なもんでも入ってたか?」
振り向いた瞬間に目にたまっていた涙が落ちたようだ。けして親父が懐かしくて泣いたとかではない、はずだ。
それにしてもいいおっさんである。見ず知らずのガキに声かけて、しかも突然泣き出したにもかかわらず立ち去る様子もなく声をかけてくれる。この人にどうにか城壁内に連れて行ってもらえないだろうか?
「猫が…」
「ネコ…?」
ってちがうっ!なにおっさんに言うつもりだったんだ俺ぇ!猫とはぐれて心細いですって馬鹿正直に言うつもりか?!いくら何でもそれはないだろ。さすがに恥ずかしすぎるだろ!
「いや、ちがっ…」
「ネコってのが連れか?なんだ連れにおいてかれたのか?それとも…だまされたのか?」
「……」
なんかとても都合よく勘違いしてくれている。いや、でもさすがに猫を悪者にするのは気が引ける。
「ちが、違います。猫は俺をここまで連れてきてくれて…」
「あぁ、分かった分かった。お前さんがそいつを信じたいのはわかった。とりあえずこのままだと目立つから立てって。」
そういっておっさんは俺の腕をとって立ち上がらせた。一瞬このままどっかに連れていかれるのかとも思ったがそんなこともなくすぐに腕は離された。
「ありがとうございます。」
「で?兄ちゃんはなんでこんなとこでしゃがみこんでたんだ?ヘキサの街になんか用事か?」
「ヘキサの、街」
「うん?街の名前も知らなかったのか?ヘキサの街ったら今年一番盛り上がってんだろ?観光かなんかできたんじゃねぇのか?」
至極不思議そうにおっさんは俺を見ている。どうする?記憶喪失の振りでもするか?いや、どこでぼろが出るかわからないしド田舎からやってきて常識がないってことにでもするか。
「いや、観光のつもりだったんだけど。街の名前までしっかり覚えてなかったんだ。」
「おいおい、それでどうやってここまで来たんだよ…」
ごもっとも
「俺の生まれたとこ、めっちゃド田舎で。数か月に一回旅商人が来るんだけど、その人たちが今年はどっかででかい祭りみたいのがあるからって言ってたので途中まで連れてきたもらいました。」
「その旅商人ってのはどうした?」
「途中の街でも商売あるから人生経験もかねてそこからはひとりで」
「っはぁ。おまえなぁ。名前も知らない街にどうやって来るつもりだったんだよ」
「その人たちにも言われたんですが、多くの人が動く方向に行けばいいかなって。それに俺、この街に興味があったってよりは外の世界を見てみたかったってのが本音で…」
かなり苦しい言い訳だよな…俺がおっさんの立場でもちょっと信じられない。
「なるほど?まぁなんか訳ありなのは分かったけどよ…」
どこまで人がいいんだこのおっさん…
いや、この人にもなんか後ろ暗いこともあるのか?
「まぁいい。俺たちもこの街に用があるんだ。何ならお前も一緒に行くか?その形なら大した金も持ってねぇんだろ?ヘキサの街に入るにはそこそこの登録料がいるぜ。」
どうする?人は良さそうだが、なんとも胡散臭い。だが、ここでこの人たちについていかないと街の中に入るのはとても難しいだろう。
「登録料っすか?ちなみに。いかほど…」
「あぁ。いつもなら300。今年は特別だからな1200って聞いたぜ」
4倍…繁忙期のホテルでもそんなに暴利な金額設定しないだろうに。
そんな気持ちが顔に出ていたのかおっさんに笑われた。
「ははっ。お前顔に出すぎだろうがよ。まぁしょうがない。金額を高くすることで浮浪者やならず者なんかをふるい落としてんのさ。あまりに有象無象が入ってきても大変だからな。」
なるほど?
「んで?どうする?一緒に行くっていうなら少しばかり手伝ってほしいことがある。」
なるほど、やっぱりなんかあるんだな。
どうする?このままおっさんの手伝いをするってのもありだが…人殺しや盗みなんかはしたくねぇし。
「だから、お前顔に出すぎだって。心配すんな、別に人殺すわけでもなんか盗ませるわけでもねぇよ」
「ま、兄ちゃんが街の中に入りたいっていうなら断るのは悪手だと思うぜ?」
おっさんの言う通りだ。どっちみちこの意味不明な状況の中で正解なんてわかるわけない。なら流れに任せるのがいいか…
「俺はハヤト。おっさ…あなたは?」
「ハヤト、な。おっさんでいいぜ。俺はガーゼスってんだ。どこまでの付き合いになるかはわからんがよろしく頼むぜ。」
改めておっさんの顔を見る。やはりどこか親父に雰囲気が似ている気がする。とりあえずはこの街の中に入るまで、んでできるだけこの世界の情報を手にいれねぇとな。
「じゃぁ早速だが俺の連れんとこにいくか。」
そういっておっさん—ガーゼス―は人の列から離れたほうへ向かっていく。
「おい、おっさん。あっちの列に並ばなくっていいのか?」
「あぁ、あっちは正規の奴らが入る門だからな。」
「ってことは非正規で街に入るってこと?」
やっぱりなんか後ろ暗いんだろうな。まぁもし身分証明書なんて必要だと困るからこれはこれでよかったかもしれない。
「なんだ、怖気づいたか?ってその顔はそんなことなさそうだな。お前本当によくわかんねぇ奴だな。街の名前は知らねぇくせにどうにも数字と計算はできると見える。旅してきたって割には荷物もない。筋肉もない…っておい、そんな顔すんな。別に無理に聞き出そうとかはしねぇって」
ほんとに食えないおっさんだ。
「実は俺…家出した下級貴族の8男で自分探しの旅の途中だったんだけど。まぁ世間知らずだから金の単位も街の名前や配置も知らないし、何なら金銭感覚なくて有り金全部使い切っちまってめっちゃ困ってたとこなんだ…なんて、」
「そういうことか!さっきの言い訳より断然そっちのが納得できるぜ」
「なるほどなぁ。それならお前の知識の偏りも妙にきれいなその服も納得だ。いいか、お前が常識を得るまではその言い訳にしとけ?」
「いえっさぁ」
おっさんの言葉にうなずくしかない。
「はぁ?なに言ってんだ?まぁいい。」
「ところでおっさん、俺ほんとにここの事何も知らねぇんだけど、まずこの街で何があんの?」
何気なしに聞いたことに対してここまでで一番おっさんが反応した。
「はあっ?お前それ本気で言ってんのか?」
「なにっ?えっ、街の名前知らないよりまずいことなの?」
「おいおい…まじかよ。いいか?街の名前は自分の街から出なけりゃほかの街なんて知らないだろうよ。金の単位なんて貴族で家に商人呼んでたりすりゃあ知る機会もないだろう。でもなぁどんな子供でも知ってる現在進行形のおとぎ話を知らねぇってのはおかしいだろ。どんな辺鄙な田舎にも毎年お触れが出るんだぞ。ほんとに知らないのか?」
知りません。なぜなら俺がここ《この世界》に来たのはつい先ほどなので…なんて言えるわけもない。できるのは沈黙と日本人特有の曖昧な笑顔でごまかすしかない。
「はぁ…まぁいい。お前には俺の頼みをする前にいろいろ教えておかないとやばそうだな。なんか気付かないうちに変なことを起こしてくれそうだ」
失礼だな。だが確かに前提が違いすぎると何していいのか分からない。
「だが考えようによってはちょうどいい。下手に凝り固まった考えをもった奴のほうが困るしな。」
「さて、ようこそ。フーキの会へ」
そういっておっさんが向かった先には一つのテントがあった。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
婚約者の浮気相手が子を授かったので
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ファンヌはリヴァス王国王太子クラウスの婚約者である。
ある日、クラウスが想いを寄せている女性――アデラが子を授かったと言う。
アデラと一緒になりたいクラウスは、ファンヌに婚約解消を迫る。
ファンヌはそれを受け入れ、さっさと手続きを済ませてしまった。
自由になった彼女は学校へと戻り、大好きな薬草や茶葉の『研究』に没頭する予定だった。
しかし、師であるエルランドが学校を辞めて自国へ戻ると言い出す。
彼は自然豊かな国ベロテニア王国の出身であった。
ベロテニア王国は、薬草や茶葉の生育に力を入れているし、何よりも獣人の血を引く者も数多くいるという魅力的な国である。
まだまだエルランドと共に茶葉や薬草の『研究』を続けたいファンヌは、エルランドと共にベロテニア王国へと向かうのだが――。
※表紙イラストはタイトルから「お絵描きばりぐっどくん」に作成してもらいました。
※完結しました
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
キャンピングカーで往く異世界徒然紀行
タジリユウ
ファンタジー
《第4回次世代ファンタジーカップ 面白スキル賞》
【書籍化!】
コツコツとお金を貯めて念願のキャンピングカーを手に入れた主人公。
早速キャンピングカーで初めてのキャンプをしたのだが、次の日目が覚めるとそこは異世界であった。
そしていつの間にかキャンピングカーにはナビゲーション機能、自動修復機能、燃料補給機能など様々な機能を拡張できるようになっていた。
道中で出会ったもふもふの魔物やちょっと残念なエルフを仲間に加えて、キャンピングカーで異世界をのんびりと旅したいのだが…
※旧題)チートなキャンピングカーで旅する異世界徒然紀行〜もふもふと愉快な仲間を添えて〜
※カクヨム様でも投稿をしております
私は聖女ではないですか。じゃあ勝手にするので放っといてください。
アーエル
ファンタジー
旧題:私は『聖女ではない』ですか。そうですか。帰ることも出来ませんか。じゃあ『勝手にする』ので放っといて下さい。
【 聖女?そんなもん知るか。報復?復讐?しますよ。当たり前でしょう?当然の権利です! 】
地震を知らせるアラームがなると同時に知らない世界の床に座り込んでいた。
同じ状況の少女と共に。
そして現れた『オレ様』な青年が、この国の第二王子!?
怯える少女と睨みつける私。
オレ様王子は少女を『聖女』として選び、私の存在を拒否して城から追い出した。
だったら『勝手にする』から放っておいて!
同時公開
☆カクヨム さん
✻アルファポリスさんにて書籍化されました🎉
タイトルは【 私は聖女ではないですか。じゃあ勝手にするので放っといてください 】です。
そして番外編もはじめました。
相変わらず不定期です。
皆さんのおかげです。
本当にありがとうございます🙇💕
これからもよろしくお願いします。
チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!
芽狐
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️
ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。
嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる!
転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。
新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか??
更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!
初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。
ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。
※短いお話です。
※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。
アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記
ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。
そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。
【魔物】を倒すと魔石を落とす。
魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。
世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる