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045 会いたくなかった人
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季節は、夏へと移り変わっていた。ジリジリと焦がすような暑さの日もある。そろそろ学園は夏季休暇になり、同じ頃にダニエルも帰ってくると手紙に記されていた。
リリーは、いつものように一日の授業を終えて馬車乗り場に向かっていた。歩きながら頭の中では、帰ってから復習する教科のことを考えていた。
だから、周りの景色が目に入っていなかった。
そこに、「リリー様」と聞いたことのある声がする。
その声が、聴きたくない声だったから驚きでビクッと体が強張る。リリーは、恐る恐る声のした方に視線を向けた。
すると、大きな木の陰に見知った人物が目に入る。一瞬、呼吸をするのを忘れたかのように息が止まる。驚き、歩いていた足を止めた。
「リリー様、お迎えに上がりました」
その人物は、ゆっくりとリリーの元に歩いてきてそう言った。リリーは、逃げることもできずにただ固まっている。
リリーを一瞬で凍り付かせた人物は、グレンの側近である従者だった。
「どうしてあなたが……」
リリーは、絞り出すように声を出した。
「探すのにとても苦労したんですよ。さあ、グレン様が待っています。ヴォリック国に帰りましょう」
従者は、声を落としてリリーにだけ聞こえるように話をする。有無を言わせぬ威圧感があった。
「私は、グレン様の元に帰るつもりはありません。迎えに来られても困ります」
リリーは、気持ちを立て直して毅然とした態度で答える。会釈だけして、従者の脇をすり抜けようとした。
すると――――。
「アレン様がどうなってもいいんですか?」
リリーは、聞き間違いだろうか? と思う程、突拍子もない言葉だった。
「何を言っているの?」
リリーは、立ち止まって従者を見た。
「グレン様は、リリー様が戻らないようならアレン様の身の安全は保障できないと話しておられました」
従者は、冷淡な顔で淡々と語る。リリーは、言われている意味がわからなかった。アレンは、グレンの実の息子のはずなのに……。
自分が、後継者にする為にリリーから奪っていったのに。
(今更、身の安全が保障できない? 何を言っているの?)
リリーは、今まで感じたことのない怒りが湧き出てくる。グレンは、自分を取り戻すために、息子でさえも物のように利用しようとしている。何て人なのだろうと、嫌悪しか沸かない。
「アレンは、グレン様の子供なのよ? 何を言っているかわかっているの?」
リリーは、激しく従者につのる。
「正直、私としてはどうでもいいんですよね……。貴方が帰って来ないと、あの方本当に面倒臭くて。本当に限界みたいなんで、リリー様が帰られないと何をするかわかりませんよ?」
従者は、開き直ったように脅迫をする。リリーは、怒りで震えていた。左腕を自分の右手でギュっと掴む。
また、自分は今までやって来たことを捨てなければいけない……。一体、グレンはどれだけリリーのものを奪うつもりなのだろう……。
リリーは、大きくフーっと息を吐く。残念ながらリリーには、この従者と一緒に戻る選択肢しかなかった。
「わかったわ」
リリーは、諦めの感情と一緒に言葉にした。
その後は、その従者に言われるがまま彼の準備していた馬車に乗ってそのままグヴィネズ国を後にした。
マーティン家の人々に、何も言えないまま姿を消すことに罪悪感がつのる。どうして自分はいつもこうなのだろうと悲しさが沸く。
だけど、泣いたってどうにもならないことを知っているリリーは。馬車の窓に映る自分の顔を、虚ろな瞳で見つめることしかできなかった。
グレンの元に戻ったって、一年前と同じようにはもう接することはできないのに……。自分をどうするつもりなのだろう……。虚しい想いが馬車の中を支配した。
イーストリー学園から連れ出されたリリーは、初めてグヴィネズ国に来た時のように三日ほどかかってヴォリック国に戻って来た。
どこに連れて行かれるのかと思ったら、あの森のログハウスだった。
ログハウスの前に立ったリリーは、呆然と立ち尽くす。
(またここに戻って来てしまうなんて……)
ここを離れてから約一年の月日が経っていた。久しぶりに目にするログハウスは、リリーがここを離れたままの姿だった。
「さっ、リリー様。こちらです」
従者が、ログハウスの玄関の扉を開けてリリーを中に促す。リリーは、抵抗することなく従者にしたがって屋敷の中に入っていった。
中に入ると、一年前にはなかったものが目に入る。玄関を入ると、二階に通じる階段があったのだがそれとは別に下に行く階段が新たに増設されていた。
「下に行く階段? 地下ってこと?」
リリーは、疑問に思い口からぽろっと呟きが零れる。
「そうです。これを用意していて、リリー様を迎えに行くのが遅くなってしまったのです。案内します、下の階へどうぞ」
リリーは、嫌な予感がした。何の為に地下室など作ったのだろう……。恐る恐る、階段を下に降りる。従者は、リリーの後ろから階段を下りてくる。
一緒に降りてくるということは、危険な場所ではないのだろう。段々と暗くなる足元に注意して階段を降りた。
降り切った場所は、客室のような作りをしていた。灯りがないので薄暗くてよくわからない。リリーは、灯りを探して部屋の奥へと足を踏み入れる。
――――ガチャンッ
突然、リリーの後ろで何か鉄のようなものが閉まる音がした。急いでリリーが後ろを振り返ると、階段を降り切った先にあった踊り場と部屋の境に鉄格子のようなものが嵌っていた。
「これは一体なんなの?」
リリーは、鉄格子に歩み寄り鉄柵を握りながら大きな声で叫んだ。
「二度とリリー様が逃げられないようにするための部屋です。トイレもお風呂も必要なものは揃っているので安心して下さい」
従者は、ニヤリと嫌な笑いを浮かべている。リリーは、怖くなって叫ぶ。
「こんなこと、許されるはずがないわ! 出して! ここから出して!」
リリーは、必死だった。
「無理ですね。では私は、首を長くして待っているグレン様を迎えに行ってまいりますので」
従者は、踵を返して階段を上へと上っていく。
「アレンは? アレンは、大丈夫なんでしょうね!」
リリーの声が、地下の部屋に木魂する。従者は何の返事もせずに姿を消した。リリーは、自分の置かれている状況が信じられない。
グレンのことは、何も信用なんてしていなかった。でもまさか、リリーを自分の傍に置く為にこんなことまでするなんて思ってもいなかったのだ。
リリーは、ずるずるとその場にしゃがみ込む。自分の身に起こったことが信じられずに、何も考えられなかった。
リリーは、いつものように一日の授業を終えて馬車乗り場に向かっていた。歩きながら頭の中では、帰ってから復習する教科のことを考えていた。
だから、周りの景色が目に入っていなかった。
そこに、「リリー様」と聞いたことのある声がする。
その声が、聴きたくない声だったから驚きでビクッと体が強張る。リリーは、恐る恐る声のした方に視線を向けた。
すると、大きな木の陰に見知った人物が目に入る。一瞬、呼吸をするのを忘れたかのように息が止まる。驚き、歩いていた足を止めた。
「リリー様、お迎えに上がりました」
その人物は、ゆっくりとリリーの元に歩いてきてそう言った。リリーは、逃げることもできずにただ固まっている。
リリーを一瞬で凍り付かせた人物は、グレンの側近である従者だった。
「どうしてあなたが……」
リリーは、絞り出すように声を出した。
「探すのにとても苦労したんですよ。さあ、グレン様が待っています。ヴォリック国に帰りましょう」
従者は、声を落としてリリーにだけ聞こえるように話をする。有無を言わせぬ威圧感があった。
「私は、グレン様の元に帰るつもりはありません。迎えに来られても困ります」
リリーは、気持ちを立て直して毅然とした態度で答える。会釈だけして、従者の脇をすり抜けようとした。
すると――――。
「アレン様がどうなってもいいんですか?」
リリーは、聞き間違いだろうか? と思う程、突拍子もない言葉だった。
「何を言っているの?」
リリーは、立ち止まって従者を見た。
「グレン様は、リリー様が戻らないようならアレン様の身の安全は保障できないと話しておられました」
従者は、冷淡な顔で淡々と語る。リリーは、言われている意味がわからなかった。アレンは、グレンの実の息子のはずなのに……。
自分が、後継者にする為にリリーから奪っていったのに。
(今更、身の安全が保障できない? 何を言っているの?)
リリーは、今まで感じたことのない怒りが湧き出てくる。グレンは、自分を取り戻すために、息子でさえも物のように利用しようとしている。何て人なのだろうと、嫌悪しか沸かない。
「アレンは、グレン様の子供なのよ? 何を言っているかわかっているの?」
リリーは、激しく従者につのる。
「正直、私としてはどうでもいいんですよね……。貴方が帰って来ないと、あの方本当に面倒臭くて。本当に限界みたいなんで、リリー様が帰られないと何をするかわかりませんよ?」
従者は、開き直ったように脅迫をする。リリーは、怒りで震えていた。左腕を自分の右手でギュっと掴む。
また、自分は今までやって来たことを捨てなければいけない……。一体、グレンはどれだけリリーのものを奪うつもりなのだろう……。
リリーは、大きくフーっと息を吐く。残念ながらリリーには、この従者と一緒に戻る選択肢しかなかった。
「わかったわ」
リリーは、諦めの感情と一緒に言葉にした。
その後は、その従者に言われるがまま彼の準備していた馬車に乗ってそのままグヴィネズ国を後にした。
マーティン家の人々に、何も言えないまま姿を消すことに罪悪感がつのる。どうして自分はいつもこうなのだろうと悲しさが沸く。
だけど、泣いたってどうにもならないことを知っているリリーは。馬車の窓に映る自分の顔を、虚ろな瞳で見つめることしかできなかった。
グレンの元に戻ったって、一年前と同じようにはもう接することはできないのに……。自分をどうするつもりなのだろう……。虚しい想いが馬車の中を支配した。
イーストリー学園から連れ出されたリリーは、初めてグヴィネズ国に来た時のように三日ほどかかってヴォリック国に戻って来た。
どこに連れて行かれるのかと思ったら、あの森のログハウスだった。
ログハウスの前に立ったリリーは、呆然と立ち尽くす。
(またここに戻って来てしまうなんて……)
ここを離れてから約一年の月日が経っていた。久しぶりに目にするログハウスは、リリーがここを離れたままの姿だった。
「さっ、リリー様。こちらです」
従者が、ログハウスの玄関の扉を開けてリリーを中に促す。リリーは、抵抗することなく従者にしたがって屋敷の中に入っていった。
中に入ると、一年前にはなかったものが目に入る。玄関を入ると、二階に通じる階段があったのだがそれとは別に下に行く階段が新たに増設されていた。
「下に行く階段? 地下ってこと?」
リリーは、疑問に思い口からぽろっと呟きが零れる。
「そうです。これを用意していて、リリー様を迎えに行くのが遅くなってしまったのです。案内します、下の階へどうぞ」
リリーは、嫌な予感がした。何の為に地下室など作ったのだろう……。恐る恐る、階段を下に降りる。従者は、リリーの後ろから階段を下りてくる。
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降り切った場所は、客室のような作りをしていた。灯りがないので薄暗くてよくわからない。リリーは、灯りを探して部屋の奥へと足を踏み入れる。
――――ガチャンッ
突然、リリーの後ろで何か鉄のようなものが閉まる音がした。急いでリリーが後ろを振り返ると、階段を降り切った先にあった踊り場と部屋の境に鉄格子のようなものが嵌っていた。
「これは一体なんなの?」
リリーは、鉄格子に歩み寄り鉄柵を握りながら大きな声で叫んだ。
「二度とリリー様が逃げられないようにするための部屋です。トイレもお風呂も必要なものは揃っているので安心して下さい」
従者は、ニヤリと嫌な笑いを浮かべている。リリーは、怖くなって叫ぶ。
「こんなこと、許されるはずがないわ! 出して! ここから出して!」
リリーは、必死だった。
「無理ですね。では私は、首を長くして待っているグレン様を迎えに行ってまいりますので」
従者は、踵を返して階段を上へと上っていく。
「アレンは? アレンは、大丈夫なんでしょうね!」
リリーの声が、地下の部屋に木魂する。従者は何の返事もせずに姿を消した。リリーは、自分の置かれている状況が信じられない。
グレンのことは、何も信用なんてしていなかった。でもまさか、リリーを自分の傍に置く為にこんなことまでするなんて思ってもいなかったのだ。
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